グローバルM&Aの成功に必要なグローバル人材とは - コンサルタントコラム 705 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 705

グローバルM&Aの成功に必要なグローバル人材とは


2015年はIN-OUTと呼ばれる日本企業の海外企業買収案件が非常に活発で、買収価額の総合計額が11兆2585億円となり、初めて10兆円を超える過去最高の数字となった。1 日本企業の海外企業買収案件の増加にあわせて、グローバルという言葉が頻繁に紙面を賑わせている。特に日本でのグローバル人材の不足を嘆く記事やコラムを目にすることが多い。それだけ昨今グローバルという言葉に関心が高くなった証拠だろう。

1) Excerpt from https://www.marr.jp/marr/marr201602/entry/5866 (M&A情報サイト「MARR Online」会員専用サイト)

 

面白いことに、以前筆者が米国で人事スペシャリストとして勤務していた際は、米国でのグローバル人材の不足を嘆く記事は見たことがなかった。Global Talent Shortage Analysisといったような特定の職種に対して人材の需要供給を測る分析はあったが、日本でいわれるグローバル人材の概念とは少し違うものであった。

では、昨今流行のグローバル人材とはどういう人材で、どう定義できるのだろうか?日本企業の海外企業買収案件が過去最高を記録した今だからこそ、グローバル企業への成長に必要な人材について考えてみたいと思う。

グローバル人材とは、「普段生活する環境とは異なる様々な環境下の中でも、当人の能力を最低限発揮できる人物」である。筆者はグローバルM&A部門において、日本企業の海外企業買収案件を人事面からサポートさせて頂いているが、常々環境の変化への耐性が非常に重要だと感じている。特に海外企業買収案件では、異なる企業文化を持った企業及び異なる文化的背景で育った社員が、ある日から同じグループ会社になるという一般社員にとっては特異な状況が突然訪れるのである。そしてシナジー効果最大化の為に統合を進め、いずれ一つ屋根の下、場合によっては机を並べて仕事をする仲間になる可能性があることを考えると、環境の変化に柔軟に対応することが非常に重要になるのである。

このような海外企業買収案件で起こり得る特異な環境下において、最低限の能力を発揮する為には、英語などの他言語を習得することも必要だろう。ただし、グローバル人材と英語スキルの高さを結び付けて考えることは本末転倒である。英語の技術が達者であるということがグローバル人材の絶対条件だと考えることは、そこそこのグローバル人材ばかりが増えてしまうことに繋がらないだろうか。ある程度仕事もでき英語でコミュニケーションも出来る為に重宝されるが、大きな仕事は任せられない人材とでも言っておこう。

ではグローバル人材に一番必要な要素とは何だろうか。筆者は対人交渉力ではないかと考える。意見のぶつかり合いを恐れず、自分の意見を主張でき、かつ人の意見も聞き譲歩するところは譲歩することで、“Quid pro quo”の関係が築けることである。

“Quid pro quo”を簡単に説明すると、行為や行動の代わりとして見返りを受け取ることを意味するのであるが、ここで重要なのは、交渉の場で譲歩して丸く収めるのではなく、譲歩した分は相手が何と言おうと取り返すのが大切であるということだ。そして、これを可能とする為のノウハウや交渉力を持っていることが、グローバル人材に最も必要な要素だと考える。

無論交渉が上手くて、多言語が話せるバイリンガルやトリリンガルであればそれに越したことはないが、他言語がそこそこ分かってしまうと交渉が余計難しくなる場合がある。相手の言っていることが分かるということは、人のペースに乗せられる危険があるので交渉ということだけ切り出して考えると、語学力が高ければ必ずしもプラスであるとも限らないのである。

本当にグローバル人材が欲しいのであれば、社外でのパネルディスカッションや、ディベートをする機会を設け、より実践的な力を養う機会を作る方が近道なのかもしれない。語学力が下手でも対人交渉力が高いほうが、確実にビジネスの場では役に立つのだ。特に買収後の統合などの際には、経営陣レベルでの交渉だけでなく、現場レベルでも環境の変化に対して、ローカル社員の理解を得る事や、良好な関係を構築する為に、対人交渉力が必要になる機会は多くあるだろう。

日本企業の今後のグローバル化に必要なグローバル人材とは、語学力に優れた人材よりも対人交渉力に優れた人材なのだと筆者は思う。対人交渉力があれば語学力が仮に不足気味であっても補うことができるが、語学力で交渉力を補うことはできないのである。今後対人交渉力を持ったグローバル人材が、クロスボーダーM&Aを通じて、日本企業のグローバルでの更なる成長に貢献する機会が増えることを願っている。