パフォーマンスマネジメントの未来 - コンサルタントコラム709 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 709

パフォーマンスマネジメントの未来


ここ数年、欧米のグローバル企業を中心にパフォーマンスマネジメントの見直しが進められている。いくつかの見直し事例を以下に紹介する。

  • アドビシステムズは、Check-inという制度を新設し、年度評価面談を無くし、リアルタイムに継続的なフィードバックを行う仕組みを導入*
  • GEは、年一度の公式な評価面談に代えて、対話の頻度を増やし、従業員に対する上司や同僚からのフィードバックが共有されるシステムを導入*
  • メドトロニックは、Ratingを廃止し、従業員の成長・育成を支援するために、成果や行動に関してタイムリー且つ高品質な対話を重視する形に変更*
(*出所)
  Lessons Learned with Check-in (Adobe news, 2014年3月10日)
  GE's Real-Time Performance Development (Harvard Business Review, 2015年8月12日)
  Total Employee Engagement (Medtronic 2011 Corporate Citizenship Update)

本コラムでは紹介仕切れないが、パフォーマンスマネジメントの見直しは、変化をいち早く主導するIT業界に限らず、様々な業界の企業で取組まれていることから、業界不問で大きな潮流となり日系企業にも影響を与えることが予想される。

こうしたパフォーマンスマネジメントの見直しにおける背景は様々あるだろうが、ポイントはVUCAワールド1と言われる変化が激しく先を見通すことが難しい市場環境で勝ち抜くためには、「人材の成長、育成によりフォーカスを当て、タレント人材を早くたくさん確保し、且つそういったタレント人材を協働させることで価値を創出し続けることに尽きる」、ということがますます鮮明になってきているという点にあるのではないだろうか。

1) VUCA: Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity (曖昧性)の頭文字を取ったものであり、元々は軍事用語として生まれ、その後ビジネスの世界でも使われるようになっている

今日の成功方程式が明日の成功を約束するとは限らない時代である。必然的に変化対応力を持つエンプロイアビリティ2の高い人材(タレント人材)を魅了し、成長を促し、活躍・定着させることが必須になってきている。

2) エンプロイアビリティ: 米国で生まれた概念であり、個人の雇用され得る能力であり、他の組織に移っても有効な能力として労働移動を可能にする能力を示す

こういった状況に対応するためには、大きく3つのポイントがあると筆者は考えている。

一つ目は、モチベーションの源泉への対応である。

AIの登場・進展により、人が担う仕事はこれまで以上に創造性や概念的思考が必要とされる付加価値の高いものになっていくと予想されている。学術的研究結果でも言われているように、創造性や概念的思考が必要な仕事と従来の交換条件報酬(もし~をしたら、・・・を与える)、いわゆる「アメとムチ」という外発的な動機づけは相性が悪く、認知やフィードバックを通じて内発的な動機づけを促すことの重要性が言われている。

特にミレニアル世代(1980年頃から2000年頃に生まれた世代)は、学習とキャリア開発を強く望んでいるとも言われており、処遇という狭義の意味でのリワード戦略から、成長・育成にフォーカスをあて、仕事のやりがいや周囲からの認知を含む広義のトータルリワード戦略への転換が求められるだろう。

実際にパフォーマンスマネジメントを見直した企業の実例を見ても、過去のパフォーマンスの確認とその結果に基づく処遇内容ではなく、個々人の将来へ向けた成長と能力開発をどのように進めるべきか、という点に焦点をあてているケースが目立つ。

二つ目は、フィードバックシステムの常態化である。

企業が勝ち抜くためには、外部からの人材獲得に加え、当然ながら組織内部での育成も必要となる。育成においては、加速度的な成長を促すためにフィードバックの重要性が一層フォーカスされるだろう。

頻繁なフィードバックの重要性は、スポーツ選手が年に1回しかフィードバックを受けない場合と毎日のようにフィードバックを受ける場合の成長スピードをご想像頂ければ言うまでもないが、企業においてはフィードバックの頻度が半期に1回あるいは年に1回になっていることから、実態としてはフィードバックシステムが形骸化してきた感は否めない。

三つ目は、市場原理を働かせる、言い換えれば「脱」内部公平性である。

エンプロイアビリティの高い人材は市場において引く手あまたであることから、報酬面に限らず仕事の内容・質においても市場原理を意識せざるを得なくなる。

仕事面の市場原理とは、筆者が近年注目しているキャリア権3という概念と関係している。キャリア権とは、法政大学大学院の諏訪教授が提唱されたものであり、人事権と対になる概念である。

3) キャリア権: 働く人が自分の意欲と能力に応じて希望する仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利(出所: NPO法人キャリア権推進ネットワーク)

日本では、新卒一括採用と終身雇用という慣行のもと、就職活動も実質的には就「社」活動となっており、強大な人事権の存在の中でもっぱら組織により個人の職業・キャリアが決定される傾向にある。米国のように個人の選択・意思決定の余地が大きい環境とは異なることから、キャリアをめぐる個人の主体性を法的にも基礎づける必要性が高いだろうという問題意識のもとに意識的な理論構築がなされている。

日系企業であっても、外部労働市場が一定確立されている業界ではキャリア権という発想自体は当たり前になってきており、「この会社でキャリアを築けない」と分かれば転職されてしまうという状況にさらされていることから、仕事と本人の意思とのマッチングに注力する企業が出てきている。

組織内で魅力的な仕事にアサインされず、一方で組織外に魅力的な仕事が存在する場合には、人材の流出が懸念されるということが、仕事の内容・質における市場原理である。年功序列的に順送りで役割を付与している場合ではないのである。こうした状況はキャリアや働き方の多様化により、今後進展していく考え方であると思われる。

以上、大きく3つのポイントを挙げたが、パフォーマンスマネジメントの見直しに際して、日系企業にとっての最大のチャレンジは、暗黙の前提となっているこれまでの内部公平性を重視した昇格やアサインメント等の政策における意識改革になるだろう。

日系企業は村社会の概念がいまだに根強く、人材を特別視する・されることが心情的に怖いことから、本来個別性が高いはずのキャリアマネジメント、タレントマネジメント等に関する政策までもが横並びを意識したものになってしまっているケースが見受けられる。また、パフォーマンスマネジメントの結果が主に報酬の調整弁としてばかり活用され、個人の成長・育成のために有効活用されていないケースも多く発生している。

こうした組織では、エンプロイアビリティの高い人材は自身のパフォーマンスが適正に認知されていない、あるいは魅力的な成長機会が提供されていないと受け止めてしまう。優秀な人材にはタイミングを逃すことなく魅力的な仕事の機会を提供し、成長するために最適な組織であることを訴求し続けないといけないのである。内部公平性の担保に起因する優秀人材の流出リスクを最重要課題として認識し、パフォーマンスマネジメントの位置付け・意味を再考することが必要になる。

未来のパフォーマンスマネジメントは、単なる人材マネジメントツールの1つというレベルの位置付けではなく、人材戦略そのものであり、経営戦略の実現に大きな影響を及ぼすコアな要素であるという色彩がますます濃くなっていくだろう。自社で本当に必要な要素を抽出し、横並びではない独自性のあるパフォーマンスマネジメントが求められる時代になってきている。