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コラム424 「分かりやすくて」「役に立つ」資料作り 

コラム424 「分かりやすくて」「役に立つ」資料作り  ― 鉄人に学ぶ構想力

更新日 2009年7月31日
執筆: 寺田 弘志(組織・人事変革コンサルティング)

 

 ITの発展のおかげもあってか、情報の収集・分析や資料作成が昔と比べて格段に行いやすくなった。インターネットの検索サイトを使えば蛇口をひねるがごとく情報が得られるし、スプレッドシートを使えば大量の計算が瞬時に実行され、カラフルなチャートやグラフに変換されてなんともお手軽に分析結果が出来上がってしまう。だが、その資料は果たして以前と比べて、より役立つものになっているのだろうか?資料を見直しながらかつての自分を振り返ってみると、ふと「料理の鉄人」という番組を思い出した。

 この番組では、毎回ある食材をテーマにして「鉄人」と呼ばれる凄腕の料理人が挑戦者と料理対決を行う、というものであったが、その中でも「史上最強の鉄人」と称された道場六三郎さんの戦いぶりは今でも印象に強く残っている。

 テレビ番組ということもあってか調理時間は30分と限られており、挑戦者は司会者の開始の合図と共に1分1秒を惜しんで動き出す。一方で「鉄人」はしばし考えた上で筆を取り、「お品書き」を流れるようにしたため、そこから調理が始まる。当然、挑戦者のほうが調理をしている時間は長いはずだが、「鉄人」の動きには無駄がないせいか、30分が経ってみると、挑戦者と同様「鉄人」もしっかりと料理をまとめている。

 調理時間が終わると審査が始まり、「鉄人」は審査員に向かって自らの料理の主題や意図・ポイントを説明するのだが、それが「お品書き」をしたためる際の所作同様に流れるようでよどみない。審査員はその説明を聞きながら、料理を口にしてその味に感嘆し、次いで「鉄人」の意図を耳と舌を通じて理解し納得していく様を今でもよく覚えている。

 思うに、「鉄人」にとっての料理とは、この「お品書き」をしたためるということで完成していたのではないだろうか。料理の主題や方向性を「お品書き」として明確化した後は、それを調理という行為を通じて具体的な形にする作業を残すのみである。道場さんを「史上最強の鉄人」を言わしめたのは、その卓越した調理技術よりもむしろ食材というテーマから「お品書き」という形で主題を端的に描き出す「構想力」にあった、と私は思っている。(そんな単純なものではない、と本人からお叱りを受けそうだが。)

振り返って、ビジネスの現場で作成する資料にとっての主題とは:
• その資料を通じて、書き手は「何を」伝えようとしているのか(What)
• 書き手が伝えようとしていることは、「誰に」とって「何故」必要なのか(Who/Why)
• 書き手が伝えようとしていることは、どの「時点」の、どのような「事実・背景・仮説」を出発点としているのか(When/Where)
• 書き手が伝えようとしていることは、どのような「筋道」を辿って得られたものなのか(How)
という5W1Hが明確になっているべきものなのではないだろうか。筋の通った資料を作成するためには、まず始めにこの“主題”となる5W1Hを構想し、次にこれに沿ったメッセージへと展開し、それらをサポートするためのデータやグラフ・チャートを加えていくという“具体化”のプロセスが必要になる。ところが、この“主題”⇒“具体化”のプロセスが混乱ないしは逆転しているために、ページ数が多いだけで何を伝えたいのかよくわからない、という類の資料に出くわすことが少なくない。

 思えば、社会人になりたてのころは、どうすれば最小の時間・工数で必要な資料を作成できるか、自分なりにいろいろな工夫をしたものだった。ところが、ツールの活用で情報の収集・分析に要する時間や工数が少なくなってくるにつれ、“主題”の構想により多くの時間をかけるどころか、“主題”が定まらないうちに大量の情報を集めて加工するという、実態のない“具体化”に終始していた。そんな資料を提出しては、「わかりにくい」の一言で上司から資料をつき返される、そんな苦い経験を今でも思い出す。

 "役に立つ"資料とは、書き手の"主題"が読者にとっての"意図・目的・背景"に合致したものであり、"分かりやすい"資料とは、その"主題"を構成するメッセージやそれらを裏付ける情報・データが"論理的かつコンパクト"に構成され、書き手の思考が追体験できるものであるはずだ。だからこそ、ツールの使いやすさに溺れて情報収集・分析という小手先の"具体化"に走る前に"主題"を構想する時間を十分にとるべきなのである。だが悲しいかな、頭では分かっていてもなかなか実践することは難しいものだ。そんなことを考えながら、今日も締切り迫った資料の見直しで夜は更けていく。

執筆者: 寺田 弘志 【執筆者プロフィールを見る】



 


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