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第4回 トヨタテクニカルディベロップメント株式会社 専務取締役 中山 明人さん (1/3)
今回のC-Suite Talk Liveのゲストは、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社(以下、TTDC)専務取締役の中山 明人さんです。

車両の開発には先行技術開発と量産車開発の大きく二分野があり、TTDCはトヨタグループにおける量産車開発を担う企業。トヨタ自動車の100%子会社ですが、「トヨタ自動車の自立したパートナー」を標榜する、車両開発のプロフェッショナル集団です。厳しいコスト要件と技術面の理想との相克が運命付けられている量産車開発の現場にあって、何が培われてきたのでしょうか。

中山さんは、トヨタの技術畑一筋のエンジニアで、C-Suite Club発足当初からのメンバーのお一人です。「理」と向き合うエンジニアでありつつ、「人」に対する思いや問題意識が人一倍強い中山さん。経済危機の先に新たな挑戦をしていく自動車開発の現場で、中山さんは今何を感じておられるのでしょうか。世相、仕事、そしてプロフェッショナルのあり方など、今日は幅広くお話を伺いたいと思います。

C-Suite Talk Live 第4回 ~対談エッセンス~
  • 長い目で見れば、むしろ良かった経済危機
  • 「プリウス開発秘話」の秘話?
  • トヨタの自動車開発における次なる地平、「創造」
  • 創造性発揮と「自分の時間」
  • プロフェッショナル同士の高次元のせめぎあい
  • 山荘、薪ストーヴ、人間

長い目で見れば、むしろ良かった経済危機
古森 まだ危機を脱していないとはいえ、一部に明るさも見え隠れし始めた昨今の世界経済。人類の歴史に刻まれるような激しい経済混乱の中にあって、自動車業界も大変な苦難を経験することになりましたね。自動車開発の現場の目線で、中山さんは今般の世界同時不況をどのように見てらっしゃいますか。

中山 足下を見ると、たいへん厳しい状況になっています。メディアに報じられている通り、トヨタ自動車は大きな赤字に陥りました。開発の現場で苦楽をともにしてきた様々な協力会社さんにも、当然のことながら影響が及びます。今般の世界同時不況の負の側面を語りだしたら、本当にきりがありません。でも、世界にとって、そして自動車業界にとっても、長い目で見たらむしろ良かった側面もあるように思っているのです。

古森 なるほど。その「良かった側面」を是非お伺いしたいですね。

中山 ものづくりの原点やビジネスの基本的な姿というものを、世界が再認識する機会になったのではないでしょうか。お金がお金を生むシステムが行き過ぎて、崩壊しました。多くの人が心のどこかで「何かおかしい」と感じていたにも関わらず、世界が強い力で流れていく中で、竿をさせずに流れてきた。あのまま流されていたら、モノを創造して作って売って、ようやく利益が出るというビジネスの基本が壊れてしまったかもしれません。中途半端な危機では流れを止められなかったかもしれず、そういう意味では、大きな打撃であったことがむしろ良かったのではないかと思っているのです。

古森 歪みに気づき、向き合う機会になったということですね。危機というのは、多少兆候は感知できたとしても、その発生自体を制御するのは難しいですね。なぜ起きたかを後から説明するのは可能ですが・・・。

中山 起きてしまった危機に何を学ぶかが、結局は重要だと思います。こういう機会を生かして、これからの基礎となるものをつくっていかないと。

古森 一つ厄介だなと思っているのは、多くの人が悪気なく全体の流れに加担していたという点です。今回の危機の中では、投資銀行などのプロ集団に非難の目線が向きがちです。あるいは、一部の経営者などの高額報酬とか。でも、起きたことの本当の姿は、悪意のない普通の人々の欲求の集合体が、お金に憑依して暴力化した・・・ということだと思うのです。銀行に預けたら一円でも多く利子が欲しい、株を買えば一円でも多く値上がりして欲しい。そういう人間としての普通の欲求が、電子的に「つながってしまった」世界に私たちは住んでいます。人類の社会は、誰かに悪意がなかったとしても、こういうことが起きやすい環境に「なってしまっている」という恐ろしさを、感じるのです。

中山 悪意がなかったとしても、人間の欲求には限りがない。これは、ある部分で意図して抑制していかなければならないと思いますよ。温暖化だって同じ構図で、人間誰しも便利な生活をしたいと思っているわけで、その集積という側面があります。車というのも、その「便利」の最たるものの一つです。このまま進めていったら何が起こるかという視点で、先の世界をシミュレーションして対策を講じるような活動が必要です。
「プリウス開発秘話」の秘話?
古森 そんな中で、今年はエコカーが急速に脚光を浴びましたね。日本のみならず、世界にとって必然的な流れのように感じます。

中山 トヨタでいえばプリウスですが、最近はメディアでも色々な形で開発秘話などが取り上げられています。でも、そういうストーリーが語られる前の時期に、実は非常に大事なことが起きているんですよ。初代プリウスの開発に関わった身として、少しお話ししておきたいことがあります。

古森 いうなれば、「秘話の秘話」ですか。

中山 プリウスのコンセプトを最初に言い出した技術者と、そのまわりで起きたことの話です。普通の車の開発責任者でありながら、その技術者は「これからは環境に良い車を作らないと、いずれ車が否定される」という考えを持っていました。それで、燃費、排ガスを大幅に改善するために、ハイブリッドが必要だという提案をしたわけです。当時の技術では到底コストがあわず、ほとんどの人が反対意見でした。

古森 でも、そこで消えなかったから今のプリウスがあると・・・。

中山 エンジンがあるのに、もうひとつ駆動系のモーターを積めばコストがあうわけがない。それは、当時としては常識でした。でも結局、トヨタはその満場反対のような状況の中で、このコンセプトを消さずに追い続けたわけです。当時、最終的には豊田章一郎さんが考えに理解を示して、開発を続けることになりました。常識に従って判断していたら、今、プリウスはないわけです。

古森 「できるか」ではなく「ねばならない」に基づいて、その時代の非常識に取り組んだ経営者と技術者集団がいた・・・。これが、プリウスの原点なのですね。

中山 「商品はどうなければならないか」「こういうものを作りたい」というのは、いわば我々の夢です。でも、一方で技術的な困難だとか、コスト面の制約などが、常にあります。そのときに、現実的な世界からの改善論ではなくて、夢に向けて現実をどう変えていくかを考えることができるか。夢ばかりを追うことは出来ない日々の仕事の中で、短期的に解の出ないものを追い続けることが出来るか。それが、プリウスに象徴されるこれからの自動車開発の鍵だと思っています。

古森 今ないものを目標にして、それに照らしてやるべきことを考える・・・というのは、洋の東西を問わずに存在する考え方です。例えば、売り上げを3倍にするためには何をするかといった話。プリウスのストーリーで感銘を受けたのは、その目標として置いたものが、結果の数字ではなく「世の中の動きに照らしてどういう車があるべきか」という状態定義であったということですね。数字から考えることが悪いという話ではなくて、プリウスの話が私にはとても感動的だという意味です。

中山 すぐに解のでないことにコツコツと取り組んでいける感性があるというのは、日本の強さの一つだと思っています。

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