第14回
株式会社カフェグローブ・ドット・コム 代表取締役社長 矢野 貴久子 さん (1/4)
カフェグローブ・ドット・コムといえば、多くの女性にとって馴染みのあるウェブサイトの一つだと思います。おもに女性をターゲットにした情報発信サイトが看板ですが、企業としての事業内容は、多岐にわたります。
インターネット広告などの「メディア事業」、Webサイト制作・プロデュース、システム受託開発などの「Webソリューション事業」、 インターネットショッピングサイトやモバイルショッピングサイト運営などの「コマース事業」、そして、マーケティングリサーチ等を行う「マーケティング事業」。 矢野さんは、起業前は雑誌の編集者としてのキャリアを歩んでこられました。株式会社日経BPからキャリアをスタートされ、その後『Oggi』、『FIGARO japon』をはじめ多数の女性誌の編集者としてご活躍。1999年11月に青木陽子氏、南ゆかり氏とともに株式会社カフェグローブ・ドット・コムを設立されました。 社業の傍ら、2002年に日本能率協会マーケティング総合会議企画委員、2004年にはデジタルハリウッド大学院客員教授に就任され、様々な形で世の中に刺激を与え続けていらっしゃいます。 女性が9割を占めるこの会社、組織・人事の視点から見ても大変ユニークな存在です。ブレーンストーミングのような感じで、色々とお話を伺いたいと思います。
女性9割の組織で感じる、女性の強み・弱み
古森 こんにちは。相変わらずご活躍ですね。「個を活かすダイバーシティ戦略」の出版で協働させて頂いてから、はや3年になります。この対談シリーズも、あの出版の時と基本の姿勢は同じでして、経営の現場から「何か良いもの」「ヒントになるもの」を世の中に伝えていこうという活動です。今日は宜しくお願いします。
矢野 こちらこそ。でも、もう3年ですか。 古森 ええ、発刊されたのが2年前ですから、色々と議論させて頂いたのは3年くらい前になりますね。 ![]() 古森 そうです。その後、矢野さんご自身の変化に伴ってか、カフェグローブのサイトでも「ペアレンティング」(parenting)に関係する情報なども充実してきましたね・・・。ところで、御社は以前うかがった時には「女性が9割」の職場ということでしたが、その後何か変化は? 矢野 いえ、結局男性比率はあがらないまま、圧倒的多数が女性の組織でやっています。最近の経済環境の中で組織拡大も難しいですし、あまり採用もしていませんから、組織構成に大きな変化もありません。 古森 世間では「企業組織内の女性比率をいかにして高めるか」がずっと議論されている中で、御社では以前から「男性比率をどうするか」という話でしたね。ユニークな存在だと思います。 矢野 男性比率は結局あがっていないのですけど、最近イーコマース事業で外部と提携したのを契機に、変化も感じています。バックヤードの運営をお任せしているのですが、まずコスト削減ができたのが大きな成果。それに加えて、提携先には男性も多いので、協働する中で組織の男性比率があがったのと似たような状態になっていると思います。 古森 それは確かに、組織環境の変化ですね。何かお気づきになることがありますか。 矢野 そうですね、一概には言えないかもしれませんが・・・。女性の凄いところと足りないところって、こういうことかなと思うようになりました。 古森 どんなところでしょうか? 矢野 まず思うのは、女性には凄いポテンシャルがあるということです。ちょっと視点を変えてみると、生物学的な役割としても、月1回の月経があり、体調もコントロールしないといけない。女性って色んなことを同時に考えていないといけないわけですね。仕事もあるし、体のこともあるし、いろいろと。 古森 なるほど。 矢野 どこかの女性社長が、女性はマネジメントのトップ層でも結局、「今日はトイレットペーパー買わないと」とか考えながら仕事している、という話をしていました。家庭の中での役割もあり、子どもの体調を気づかって時には医者のような役割もすれば、家事もやる。マルチタスク能力ということでは、本当に凄いと思うのです。 古森 男性よりも女性のほうが、一般的には「気にしなければならないこと」の幅が広いということですね。 矢野 それから、ビジネスの現場で考えると、女性の持つ発想力や想像力も凄いと思っています。これは、以前からカフェグローブの強みでもあります。 古森 消費財の商品開発分野などで、女性が活躍している場面をよく見かけますね。マルチタスクの日常の中で感じていることが、感覚的にさっと言葉になるのが女性なのかもしれませんね。 矢野 一方で、たとえばひとつの構想を具体的にぐわっと形にして成長させていくことに関しては、マルチタスクや発想力に比べると、相対的には苦手なのではと思います。さまざまな会社の状況を聞き、提携先の男性達を見つつ、うちの会社を振り返ってみて、そんなことを感じました。 古森 男女の脳の違いについて、最近ではかなり研究が進んでいます。矢野さんの感じられたことは、脳科学の視点にも符合する面がありますね。男女の優劣ではなく、それぞれの脳にフィットする思考プロセスが違うのだという話ですが。 矢野 やはり何らかの違いはあると思いますね。それで私、今の日本社会においては、女性にとっての鍵は「訓練」なのだと思います。 古森 訓練・・・ですか。 矢野 リクルートや楽天などでは、男女の差がなく厳しい競争社会である反面、メンターやOJTがちゃんとできているようですね。だから、発想するだけではなく、それを形にして成長させることが出来る女性も生まれてくるのではないかと。組織としての「訓練」の賜物なのだろうと思っています。 古森 矢野さんは、男女の傾向差自体を云々するのではなくて、「違いがあるならどうするか」という建設的な考え方をお持ちなのですね。 矢野 本当は、それは会社に入ってからだと遅いのかもしれません。私くらいの世代だと、親には「女の子なんだから頑張らなくてもよい」「お嫁に行けばよい」という雰囲気がかなりあったと思います。学校でも、真剣に自分の将来を考えたり、世の中の仕組みを考えたりするような教育はされませんでした。 古森 個別には色々な差があるでしょうが、世の中一般という意味では、確かにそういう空気はありましたね。私もそういう空気の中で育った世代に属しています。 矢野 だからかもしれませんが、例えば、「世の中の商売は八百屋さんから大企業まで基本は同じロジックで回っている」というようなことを、知らない女性が結構多いような気がするんです。商売のベーシックなことを。 古森 ベーシックな知識が弱いというのは、男性でもかなりあるように思いますが(笑)。 矢野 でも、日本の社会では、男性はいずれ何らかの形で就職して働く人が多いし、比較的早くからそういう意識が芽生えやすいように思うんです。親の意向もそちらに向いていることが多いですし。少なくとも、私が経験してきた世界からすると、女性の成長過程でもう少し工夫が必要なのではないかと思います。例えば、中学・高校で経営学を必修科目にするとか、大学の単位に企業の研修を入れるとか・・・。 古森 矢野さんご自身の体験も、色々とあるのでしょうね。 矢野 私は37歳で起業しました。起業前は出版社での編集業務をしていましたが、その頃はコストを意識していたくらいです。それでいざ起業という時になって、「はて、ビジネスって?」ということを随分考えさせられました。そのために大きな回り道もしました。「何かやらなきゃ」と思ったときには、当然基礎的な経営の知識がないと駄目です。特に、最近では金融知力とITリテラシーですね。もちろん、自分になくても、力のあるスタッフとコミュニケーションができる程度には必要、という意味ですが。 古森 教育と親の意識ということに関して言うと、私はそもそも男女差以前に、日本社会全体で、二十歳までに子供にインプットする内容を進化させるべき時が来ていると思います。日本をとりまく世の中は、好むと好まざるとに関わらず本当に厳しくなっているので、教育や親のあり方にも進化が迫られていますね。 矢野 そう思います。ただ、変化が起きていく中でも、放っておくと女性は取り残されやすいでしょうね。「おしゃれして可愛くして、良い結婚すれば」という風潮は今でも根強くあって、変化に対する感度を下げる方向に働いているように思います。 古森 変化はゼロからではなく、今の現実の日本社会が出発点になりますから、世間の風潮が変化を邪魔する可能性は確かにありますね。人間の社会ではいつも「世代間ギャップ」が話題になりますが、実際は、世代間で無批判に継承されていく観念のほうが、目立つギャップよりも大きいはずです。
|

