連絡先:
組織・人事変革コンサルティング
| 友人に知らせる | 印刷 | ||||||
中国での事業・組織・人事統合成功への方程式 - 中国での人事統合を成功させるためのプロセスの組み立て方
更新日 2010年7月9日 執筆: 寺田 弘志
|
日本企業が、中国をはじめとした新興国市場での事業展開を成長戦略の基盤に置くようになって久しい。また、多くの日本企業では、中国市場を開拓するための現地拠点強化を掲げているが、その中でも、以下の2つの動きが今後強まると見ている。
統合に求められるスピード
中国市場の成長スピードが急速で統合後の混乱が想定以上に大きなものとなり、期待した統合効果が得られるまでに思った以上に時間がかかる恐れがある。期待した市場でのポジショニングが想定した時間軸内で確立できないと競争環境が変化し、統合後の戦略の前提が崩れることも起こりうる。
様々な「壁」を克服するプロセス
統合に際しては、統合する2社の「組織の文化・価値観の壁」を乗り越えていくことに加えて、日本/中国を跨ぐクロスボーダーでの「企業の枠を超えた市場・社会経済・国民性の違い」という、日本人にとって不得手な「壁」を乗り越えていかなければならない。統合する2社が地域的に異なる(例えば、北京と上海、等)場合では、同じ中国国内であってもそれぞれの地域性の差により、クロスボーダーに近い困難さに直面することがある。(図1参照)
![]() (図1) 本稿では、特に中国事業における人事統合につき
中国における人事統合プロセスの難しさ
中国における人事統合プロセスがそれ以外の国・地域におけるそれと大きく異なるということはない。しかし、それにかかわる人・組織の状況が統合プロセスに異なった様相を与える。
ガバナンスに対する意識ギャップ
中国における人事統合プロセスにおいては、事業・組織統合の当事者たる現地法人に加えて、本社が意思決定に関わってくるが、その現地法人と本社との間で期待値にズレが生じることが多い。例えば、現地法人としてはより中国の事業環境に沿った営業・マーケティング体制の確立に統合後の力点を置き、本社からの更なる支援・投資を期待する一方で、本社としては自ら立案した営業・マーケティング戦略を現地法人が実行に移して早期に統合効果を創出することを期待して両者にズレが生じてしまう、などである。
このような期待値のズレを調整し、合意を形成していくための意思決定プロセスの巧拙が統合の成否を決める。特に、変化の激しい中国市場では意思決定の質のみならずスピードが伴うことが重要になる。 従って、統合プロセスを円滑かつスピーディに進めていくためには、統合当事者である現地法人の間に加えて、現地法人⇔本社との間の調整と合意形成に向けた意思決定プロセスとそれを支える本社-現地法人間のガバナンス体制が重要な役割を担うことになるのだが、日本企業はグローバルでの組織運営の経験が少ないせいか、これらの点に課題が見受けられるケースが多い。日本企業の場合、現地の発案で決めようとした事項が本社の反対に会い、双方の意見調整に担当者が奔走してかなりの時間ロスを生じてしまうケースも見受けられる。結果として、統合のプロセス・スケジュールの見直しを迫られる、ということにもなりかねない。 事業環境に対する認識ギャップ
本社と現地法人との間に生じる期待値のズレであるが、どのような背景があって生じるのであろうか。弊社のこれまでの経験から見ると、事業環境に対する認識の違いが意思決定に少なからぬ影響を与えていることに気付かされる。
まず、中国現法を取り巻く環境だが、人事統合を考える上では特に人材マーケットの違いを理解しておく必要がある。 中国では業界・職種・地域毎に人材マーケットが形成されており、その流動性が高く他社との人材獲得競争も激しい。社内での職種間異動・ローテーションを通じてゼネラリスト的な人材を育成する日本と異なり、自らの専門性を高め、社外での機会も視野に入れながらキャリアアップを図ろうとする中国では、人材マネジメントの背景となる思想・価値観が異なってくる。また、一口に中国といっても報酬水準だけでなく、公的医療保険制度に代表される社会保障システムも地域によってその発展状況に差があるなど、地域によってかなり様相が異なってくる。従って、「中国共通の」人事制度を導入する、という場合でも、職種や地域の差を考慮しておかないと人材のリテンションに思わぬ悪影響をもたらす恐れがある。 一方、本社を取り巻く環境はどうだろうか。多くの日本企業では、中国を始めとした新興国市場を将来の成長の源泉として追求しており、中国での業績は本社の意思決定に既に大きな影響を及ぼしている。見方を変えれば、中国事業に対する株主からの関心やプレッシャーも相当なものになってきており、こうした点を無視しては中国単独での事業とはいえ立ち行かなくなってきているのである。 こうした外部環境への認識を現地法人と本社が共有できていないと、合意形成や意思決定の過程で思わぬ対立を生む。例えば、現地サイドとしては人材市場に併せた一定の昇給枠を確保しておきたい、と考えるものの、本社サイドとしては事業の伸びや一定の収益性を逸脱した人件費の伸びはまかりならぬ、として双方の議論が平行線に終始する、という事態も起こりうる。このようなことが原因で統合に関する議論が十分に行えず、本社の人事制度を現地の反対を押し切って導入してしまう、ないしは、本社の理解を得ぬままに現地のいいなりに統合してしまう、といった極端な事態に陥ってしまうことがある。前者の場合は統合後の深刻な生産性の低下や人材の流出を招きかねないし、後者の場合は中国事業がブラックボックス化し、グループ経営へのボトルネックとなる恐れがある。 人事統合プロセスに関する能力ギャップ
それでは、環境に対する認識を共有できれば統合プロセスが円滑に進むか、と尋ねられれば、残念ながらそうではない。統合プロセスを遂行する能力において、本社と現地法人との間に違いがあるために期待したスピードでプロセスが進まない、という事態に直面することがある。
本社サイドでは、過去の様々な人事制度改革や、M&Aに伴う人事統合など、高度な組織・人事課題を扱う経験を積んできており、複雑な人事統合プロセスを進めていくための能力も高まってきている。一方、中国では市場環境・経済情勢の急激な変化に伴うオペレーション上の課題解決に労力を割かれる傾向が強く、人事制度改定のような中長期的な視点が求められる複雑な課題に取り組める機会に乏しかったのではないだろうか。特に、現地化が十分に進んでいない日系企業の現地法人では、複雑な人事課題は日本人派遣社員が対応し、オペレーショナルな対応は現地スタッフ、と役割分担されているケースも多く、現地スタッフの経験不足が統合のボトルネックとなる可能性がある。また、統合する現地法人が複数の地域に跨る場合、地域差に基づく歴史・文化・社会制度の差が現地スタッフの間の議論に影響を及ぼし得る。そうなると、同じ国の人の間とはいえ、クロスボーダーでの統合時の直面するような課題への対応が求められてくる。万が一、そのような違いが相互の感情を害してしまうことがあれば、統合後も消えぬしこりとなって後を引く恐れもある。 このような状況下で、「現地の意向を尊重し、お互いに納得できる制度を作る」として現地主導で統合プロセスを進めようとしても想定したスケジュール通りに進まず、時間的制約から本社が意に反して強権を発動して介入する、という事態にもなりかねない。結果として統合後の人材マネジメントに関する会社の意図が十分に伝わらないまま、現地社員の理解が得られずに会社に対する信頼感が失われるという、本来の意図とは相反する結果に直面してしまう。 キャリアに対する期待ギャップ
これらの諸原因が重なり、統合後の事業・組織に対する不透明感が高まると、社員にどのような影響を与えるであろうか。
中国人はよくキャリアに関しては短期指向であると言われているが、実際には日本人よりも戦略的にキャリアを捉えている。中国人は単にその時点での報酬・処遇だけでなく、中長期的なキャリア展望を持って、今現在どこで働くことが自らのキャリアにプラスになるかを考えて動いているとみるべきである。特に優秀な人材ほどその傾向が強く、統合後の事業運営を支える部長層では、「自社の将来性・価値観」をキャリア選択の上での最重要事項の一つに掲げていることが多い。この背景には、現在の雇用が必ずしも保障されたものでなく、また、社会保障制度といったセーフティネットも十分に整備されていない現状では、「自らのキャリアは自らで創る/守る」という意識が強い、ということもあろう。また、統合後の組織において「自らのポジションが統合されて無くなるのでは」という不安もその意識に一層の拍車をかける。 そのような現地社員が、統合後の事業・組織に対する不透明な状況をどう捉えるであろうか。恐らく優秀な社員ほど「自らのキャリア危機」と捉え、外部人材市場を通じた転職行動に出る可能性が高まるであろう。このような状況では統合後の事業運営はおろか、統合プロセスそのものにも悪影響を及ぼしてより一層不透明さを増していく、という負のスパイラルに陥ってしまう。そのような事態に陥ると、中国では口伝を通じて情報(風評レベルのものも含めて)が伝わる傾向が強いため、その話を聞きつけた競合他社が、自社の優秀な人材をこれ幸いと引き抜きにかかる、ということも起きてくる。 これら4つの要素が、ただでさえ複雑な人事統合プロセスをより一層複雑にし、中国における人事の統合を困難なものにしているのである。(図2参照) ![]() (図2) 中国において人事統合プロセスを進めていくための要件
これらの障害を乗り越え、中国において人事統合をスムーズに進めていくためには、以下に述べる点に留意して統合プロセスを設計していくべきである。
意思決定権限および合意形成プロセスの明確化
まず、人事統合プロセスにおいて「決めるべき事項」について
また、意思決定に関わる関係者が自らの役割と権限・責任についても、関係者の間で適切に配分することで、統合プロセスに対する当事者意識・オーナーシップを高めていくことが可能になる。具体的には:
検討プロセスにおける着地点の見極めとオーナーシップの醸成
統合後の人材マネジメントについて、具体的な検討作業は統合対象となる現地法人の両人事責任者が通常担うが、彼ら/彼女らには人事制度に代表されるような人材マネジメントの仕組みをゼロベースで設計していくことに習熟していないことがある。特に組織・人事の統合のような複雑な利害調整が必要になる課題については、意見が衝突したまま検討が進展しない、といった事態も起こりうる。これを放置すると、時間的制約の大きい統合プロセスにおいて十分な議論が出来ずタイムアップとなりかねない。
だからといって、本社がすべてを決定して現地法人はそれを実行するだけ、となってしまうと、現地法人に当事者意識やオーナーシップが醸成されず、統合後に問題が生じかねない。例えば現地法人の人事責任者の巻き込みが不十分であるために、現地特有の制約事項やリスクが見過ごされ、統合後に問題が顕在化することがある。また、そのような場合に問題解決に動くべき現地人事責任者が逆に「自分はそれで良いとは思っていなかったが、本社の命令だから・・・」と反対勢力に回ってしまい、社員からの信頼感を損ねてしまう、といった事態に陥ることもある。 このような事態を避け、現地の人事責任者が主体性をもってスピーディに検討を進めていくためには、それを支える事務局の周到な準備がカギを握る。具体的には、以下の5つのステップを主要課題について計画・スケジュール化し、統合プロセスの中に組み込んでおくことが望ましい。
また、こういったプロセスを踏んで行っていくことの副次的な効果として、検討のプロセスに参画する中国/日本の関係者の相互理解が深まっていく、また、人事制度設計のような複雑な課題の解決に参画する機会を得ることで現地スタッフの能力向上につながっていく、といった点も期待できる。参画した現地人事スタッフが統合後のコア人材として活躍しているケースも実際に見受けられる。 成長へのロードマップを共有するコミュニケーション
統合対象となる現地法人にとっての最大の関心事は「自分の報酬は、ポジションは統合後にどうなるのか」ということである。しかし、統合直後の報酬・ポジションについてはともかく、将来の報酬・ポジションについて会社が社員に約束できるかというと、そうではない。
一方では現地社員は自らのキャリアの将来性に不安を覚えると、中国の人材マーケットの特性上、容易に転職行動に踏み切る可能性が高い。特にリテンションしたい優秀な人材ほどその傾向が高くなる。このように不確実な将来に対処するために、社員は自らの報酬とキャリアへの保障を求めるが、会社としては「統合後のポジションまでは保証できない」など、人事の柔軟性・機動性を必要とする観点から社員の要求に一定の限度を設けざるを得ない、というトレードオフが存在する。 これを解決する方法であるが、統合後の成長に向けた絵姿を社員、特に統合後の経営を担う部課長層と共有することでその糸口が見出せることが多い。具体的には以下の点に留意したトップ自らのコミュニケーションがカギとなろう。
そのコミュニケーションを実施する機会だが、統合後の人事制度の変更に伴う管理職向け人事制度(特に評価)トレーニングを活用していうとよいだろう。トレーニングの中でトップとしてのメッセージを盛り込んでいくと共に、会社と管理職との間での双方向のコミュニケーションを通じて、会社が「人」を通じてどう成長しようとしているのか、そのための管理職としての自分の役割は何かを、人事制度というツールを使って理解を深めていくことが可能になる。 中国での人事統合プロセスを推進するための本社人事スタッフ部門の役割 - 結びに代えて
本稿では、中国の人事統合に当たって理解しておくべき本社と現地法人の間の関係、および、日本と中国との間の様々な違いに起因するギャップを概説した。また、その上で統合に伴う課題を検討し合意形成・意思決定していくためのプロセス、および、事業の将来性を共有するトップからのコミュニケーションが重要であることを説明した。
では、それを推進する体制はどうだろうか。現地法人主体で人事統合を進めようとした場合には、先に述べた能力的な制約条件に加えて、オペレーション上の実務課題に時間を割かざるを得ない状況下において、人事統合というセンシティブで深みが求められる課題に割ける時間がとれない、という時間的制約条件に留意する必要がある。 そこに本社の人事スタッフ部門の果たすべき役割や存在価値、即ち、これらの能力的/時間的制約条件を克服するための手段を提供しつつ、本社と現地法人の間に横たわるギャップを埋めていく、ということが求められてくる。具体的には:
![]() (図3) 日本と中国では様々な違いがあり、それがビジネスを進めていく上での壁となっている事実は否めない。しかし、冒頭でも説明したとおり、ビジネスの本質が日本と中国で変わるということなのではなく、それを取り巻く環境の違いがビジネスを「違うもの」に見せているのではないだろうか。その「違い」と「本質」を見極めることこそ、中国におけるビジネスを成功させるための最も大きな課題といえるであろう。本稿がその一助となれば幸いである。
|
連絡先:
組織・人事変革コンサルティング
| サービス内容 |
|
組織・人事変革 コンサルティング |
| 執筆者プロフィール |
![]() 寺田 弘志 組織・人事変革コンサルティング シニアコンサルタント
|
 Delicious
 Digg
 Facebook
 LinkedIn
 Reddit
 Twitter


