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コラム482 世界から見た日本の姿

コラム482 世界から見た日本の姿 - グローバル化の反面教師 日本という現実

更新日 2010年11月12日
執筆: 中村 健一郎(組織・人事変革コンサルティング)

 

 Harvard Business Review 9月号に、久方ぶりに日本企業の分析事例が紹介されたのを目にした。しかし、その内容は1980年代にあったようなポジティブな内容ではない。表題は、「A Cautionary Tale for Emerging Giants」(「新興国大企業に向けた警句」(筆者訳))。日本企業は、なぜ、グローバル化に失敗したのかを分析し、その罠に陥らないための警告を発する内容であった。

 指摘されている点は、
  1. 「Devotion to the Way (自社Wayへの傾倒)」
    自社のWayに沿った人材を求めすぎて優秀人材の獲得競争で遅れを取る。

  2. 「An Isolated Domestic Market (国際競争から分断された自国市場)」
    分断された自国市場に過剰適応したために海外での市場立ち上げに手間取る、もしくは躓く。

  3. 「A Docile Workforce (御しやすい従業員)」
    均質的な従業員のマネジメントに慣れすぎたために多様な人材のマネジメント能力が身につかない。

  4. 「A Homogeneous Team at the Top (均質的なトップマネジメント層)」
    諸外国では一般的に役員の中での外国人比率の2倍の比率で海外売上高比率が構成されるというデータを示しつつ、日本企業では、自国の人材のみで構成されたトップマネジメントが海外進出のボトルネックとなっていると指摘。

という4点である。論文全体を貫く論旨はこうだ、「日本企業は、過去の一時期に彼らに成功をもたらした特殊な環境に過剰適応してきました。だから、環境が変わった今、絶滅しそうになっています」、「(日本以外の)皆さん、絶滅しそうな彼らのようにならないため、気をつけましょう」である。

 筆者は、その中でも、最初の項目が、自社Wayへの傾倒となっていることに目を奪われた。多くのビジネス・ケースで、組織文化やWayの重要性を指摘している。経済学的にも、模倣障壁を持つ組織能力がもたらした競争優位は、企業に安定した利益をもたらす。しかし、同論文内では、日本企業のWayは、自社の強みとして機能してきたと同時に、海外での人材獲得競争を阻害したとばっさりと切り捨てている。

 グローバル化の議論をクライアントと行う際、自社Wayの浸透方法について相談を受けることは多い。海外社員登用の障害は、海外社員の間にWayに沿った考え方や行動が身についていないことにあり、活用を進めていくためには、Wayの浸透を強力に進める必要があるという相談である。同論文の著者が指摘している通り、海外人材獲得の間口を日本企業自らが狭めている一つの証拠であると言える。

 この問いかけは、日本企業にとっては深刻だ。日本企業が持っていた競争優位の源泉の一つを組織文化に求めるならば、日本企業が考える論理は合理的だといえる。しかし、少なくとも今後20年~30年は、グローバル化が企業としての成否を左右する時代である。15世紀の大航海時代から20世紀の植民地時代にかけて行われてきた競争が重なって見える環境だ。そんな中で、かつての強みへの傾倒が、実は弱みに転じているという指摘は、破壊的イノベーションに直面している企業が陥っている状況と同じなのだ。ご存知の通り、破壊的イノベーションが語る未来は、適応に失敗した企業の絶滅である。

 筆者は、この論文を読みながら、1991年放送「電子立国日本の自叙伝」での次のコメントを思い出した。1991年。日本はバブル経済の絶頂期、日本の半導体業界は、メモリを中心に世界を席巻していた時代である。WINTEL支配が業界地図を完全に書き換える、ほんの少し前だ。

 「メモリーというのは、開発項目が100項目くらいあると思うんですね。それを、一斉に、こう、並行的に走っていかないといけない。同じようなレベルのエンジニアが100人いないとできない。それが日本の場合には、協働で、俺がやるというのではなく、協力してできた。それに比べてマイコンというのは、ある優秀なエンジニアが論理回路を構築してしまえばよい。俺が、俺がでよい。集積回路というのは、考えれば考えるほどシュリンク(集積度を高めること)できる。そういう頭のよさ、エンジニアの優秀さが問われます。」(志村 則彰:カシオ計算機専務(当時):電子立国日本の自叙伝第5回)

 日本はなぜ、マイコンで米国に遅れを取っているのかという論点を描く際に語られていた言葉である。その後、日本企業は、メモリを中心に投資を行い、台湾、韓国に抜かれ、WINTEL支配の中で利益の源泉を失っていった歴史を知る者からすれば、重く受け止めざるを得ない言葉である。日本企業のWayへの傾倒がもたらしたものには、こうした歴史も存在しているのである。

 日本は、最早、17世紀から19世紀まで続けた鎖国の時代に戻ることはできない。一方で、海外から見れば、多くの日本企業は、低湿地帯での弱肉強食に過剰適用したワニが、その後平原が広がった陸地に進出できなかった姿と重ねられているのである。

 日本企業は、過去の日本企業の成功の源泉や要因を冷静に見つめた上で、新しい環境の中で、新たな競争優位の源泉をもたらす組織・人事の姿を、新たなWayのあり方を、一から問い直していかなければならないのではないだろうか。筆者は、同論文の著者が指摘するように、日本のWayをばっさりと否定することには与しない。が、自社のWayの"名(書かれていることや暗黙値)"に拘らず、『Way+日本の環境』がもたらした"実(高い品質とコスト安の両立、現場主導での一見不可能なテーマへの挑戦 等)"を取ることを本来の目的において、自社のWayを各国のコンテクストの中で柔軟に解釈し実践していくマネジメントが必要なのだと考えている。


執筆者: 中村 健一郎 (組織・人事変革コンサルティング)

 


執筆者プロフィール
Kenichiro Nakamura
中村 健一郎
組織・人事変革コンサルティング
プリンシパル

略歴
国内外企業の組織・人事制度改革プロジェクト、リーダーシップ研修、組織変革プロジェクト、グローバル人材マネジメント構築 プロジェクト、グローバル意識調査プロジェクト、等様々なプロジェクトをリード。
研究組織活性化フォーラムメンバー。執筆文として、「研究開発者の活性化につながる処遇を考える」(労政時報、共著)、「輝く組織の条件」(ダイヤモンド社、共著)、「なぜ今、幕末のような大物が生まれないのか」(プレジデント)がある。
一橋大学 経済学部卒。NTTデータ、アビーム・コンサルティングを経て、2000年から現職。経営行動科学学会会員
趣味: 将棋アマチュア3段(実力2段)、歴史


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