PMI(Post Merger Integration)統合プロセスとマネジメント

M&A実施後のリーダーシップ融合ワークショップや経営者・幹部アセスメント、経営チームのトランジション検討を実施します。また、統合後のM&A 100日プラン策定や組織診断および社員の意識改革・行動改革、KPIの具体化と報酬のリンクを検討し、組織統合・人事制度統合や人事制度・運用の詳細把握および人事機能整備を支援します。その他、ワークフォース・アナリシス(要員計画)やM&Aに伴うリストラ検討にも対応します。

リーダーシップ融合ワークショップ

「M&A=建設的変化」のキーメッセージが混乱なくかつ遅滞なく、組織に浸透するよう注力することが大事です。そのためには、真っ先に、両社の経営層(リーダーシップ)の融合を図るのが合理的です。ワークショップのタイミングは、100日プランの検討を開始する直前が理想的です。

リーダーシップ融合ワークショップ ー 理解のポイント

What?

買収先のExecutiveと買い手の幹部層が一堂に会し、半日?1日程度のワークショップを行い、両社のリーダー層の価値観や意思決定プロセス、あるいは行動パターンや思考パターンを共有しながら、お互いのリーダーシップカルチャーの理解を深めます。可能であれば引き続いて、これから新会社が目指す地点と、現在の両社の立ち位置の差をどのように埋めるのかを議論し、統合や変革に向けての共同憲章やアクションプランを話し合います。実施のタイミングはクロージング前、つまり100日プラン検討のキックオフ前が好適です。

Why?

M&Aのような組織変革においては、その変革を経営トップ層が主導することが望まれます。経営トップ層が明確な方向性のもとで一体化していれば、そこから下の組織に対しては、既存の指揮命令系統を活用して、ひとまず網をかけることができるからです。組織の下部構造に対する網かけの徹底度合いを高めることも不可欠ですが、まずは「M&A=建設的変化」のキーメッセージが混乱なくかつ遅滞なく、組織に浸透するよう注力することが大事です。そのためには、真っ先に、両社のリーダーシップ(経営層)の融合を図るのが合理的です。

How?

両社のリーダーシップに対していくつかの切り口から構成されるアンケートを実施し、その回答傾向を分析するとともに、主要回答者に、その回答の背景を理解するためにフォローアップインタビューを行います。そうすると、現在の組織の立ち位置を決めている重要な出来事や、今後両社で目指す姿の背景にある考え方を明らかにできるので、それを素材にワークショップ当日の議論を設計し、資料を作成します。当日は、経験のあるファシリテーターが議論をリードします。

マーサーの具体的サービス

  • 典型的には以下の6つの観点から構成される、リーダーシップ向け事前アンケートの設計、実施、結果分析

Achievement (成果の捉え方)

Environment (組織の運営原理)

Communication (意思疎通の様式)

Perspective (課題の捉え方)

Power (権限・権力の持たせ方)

Risk (リスクに対する姿勢)

  • 主要回答者に対する事前インタビュー
  • 主要な事実と論点の抽出、当日の討議資料の作成
  • 当日のファシリテーションとまとめ、今後行うべき施策の明確化 など

 

<M&A 人事コラム>

リーダーシップ融合の目的は、M&Aの所期の成果を速やかに、かつ最大限に実現することにある。企業文化を「企業文化」とひとことで叙述しているうちは、あまり議論が深まらないので、具体的に組織のどこで発生するどのような現象が問題となり得るのか、統合の妨げとなる要因(Inhibitor)を特定しないといけない。具体的には、前掲の6つの切り口に対する経営層のスタンスが揃わないと、経営層がうまく意思決定できなかったり、現場で非効率を抱えたりすることになる。

なお、この議論を行うと、企業文化を単なる文化論として論じることはできないということも明らかになる。リーダーシップ融合の議論で欠くことができないのは、事業の文脈(Business Context)である。そこで、6つの切り口とは別に、市場ポテンシャル、競合状況、ビジネスモデル、自社の強み・弱みといった事業の文脈を整理しておいて、擦り合わせのワークショップの最中に、都度参照する。

但し、外部環境が同じなら採用する打ち手が同じ、とも限らない。つまり好き嫌い、得手・不得手、過去の成功体験・失敗体験など、時間を経て両社の中に出来上がっているものを、参加者がお互いに理解しなければならない。この部分の議論の素材を、主要回答者に対する事前インタビューで深く掘り下げておくのである。

経営者・幹部アセスメント

買収先の経営層の実態把握と課題対策を速やかに進めることが、M&Aに対する買い手のリスクを大幅に軽減します。買い手が後継経営者のプランニングを行い、現任者を交代可能(Replaceable)な状態に持って行くことが、株主と経営者の健全な関係を構築する決め手となります。

経営者・幹部アセスメント ー 理解のポイント

What?

買収先のExecutiveおよびKey employeeに対し、リーダーシップの実力とポテンシャルを把握して、現経営者の退職・交代を想定した後継者プラニング(サクセションプラン)や、買収後の業容の拡大に伴う経営人材のリソースプラニングに活用します。

Why?

多くのケースで、買収先のExecutiveおよびKey employeeは、M&Aの成功の重要な鍵となります。この層の実態把握と課題対策を速やかに進めることが、M&Aに対する買い手のリスクを大幅に軽減します。買い手が後継者のプランニングを行うことで、現任者に健全に計画達成を求めていくことが可能になります。

How?

アセスメントの対象者と、収集する情報(データ)を整理します。Executiveに対しては、弊社専門家によるBEI(Behavioral Event Interview)に心理テストを組み合わせるのが一般的です。管理職クラスでは、人数と重要性の見合いで、プロファイリング程度の情報収集で当面十分な場合もありますし、オンラインのアセスメントツールを用いて効率的に情報収集することもできます。なお、知識や実務のレベルを知るには、試験やその分野の専門家による口頭試問が直接的で、有効です。アセスメントは、クロージング後速やかに、ガバナンス上必要だからという理由で実施します。なお、状況によりクロージング前に着手できることもあります。

マーサーの具体的サービス

  • アセスメントの設計:対象者、リーダーシップモデル、注目するコンピテンシー、得た情報の活用計画、対象者へのコミュニケーション
  • BEI (Behavioral Event Interview)
  • オンラインアセスメントツール:VAC (Virtual Assessment Center)
  • Web上の心理テスト:Hogan Suite
  • 個人別アセスメントレポートの作成:判明事項、課題、人材活用と育成の方向性
  • 判明事項を踏まえた買収先経営チームトランジションの討議 など

<M&A 人事コラム>

経営者に限らず、誰でも得手と不得手があるものである。また、個人のモチベーションや体力・健康上の問題も無視できない。そこでガバナンスをする側としては、どんなに優れた経営者や経営チームの場合でも、「旬」を意識しておく必要がある。

M&Aにおいては、現経営者が今後の経営者として適切かどうか、また仮に適切だとしてもいつまで適切なのかが、ことさら問われる。その下の層に、どんな人材がいるのかも気になる。なぜかというと、買収後の高い経営目標の追求に最適な経営者を選ぶのが、結果を出す近道だからである。経営者に支払う報酬と経営者の出す結果のバランスが、問題になる場合もあるだろう。

M&Aの局面では、これまでどおりの経営を安定的に続けられる経営者をいつまでリテインするのか、想定が必要である。さらに、その先の改革に活躍する人材を見出さなければならない。もしいなければ、人材の手当が必要になる。M&Aには、なぜこのM&Aを行うかというビジネス上の大義名分(ディールロジック)があり、またプレミアムを払って買収することが多いため、これまでどおりの経営を続けられたのでは、早晩困ってしまうからである。これらに加えて、売主が売却準備に注力させていた経営者もいることがあり、この場合はそもそも残ってもらう価値があるかを判断することになる。

経営チームのトランジション検討

買収後の中期的な事業プランに照らし、クロージング時の経営体制が抱える現状および将来のリスクを見極め、組織・人事的な対策を議論します。

経営チームのトランジション検討 ー 理解のポイント

What?

クロージング直後の経営体制が抱える現状および将来のリスクを議論し、何らか改善すべき問題が見出された場合に、そのリスクを低減するための経営チームの改善方法を議論します。

Why?

リーダーの能力に起因して組織のパフォーマンスが制約される事態は、断固として避けなければなりません。一方で、リーダーを円滑に交代させるには、コミュニケーションや交代要員の確保など、十分な準備を進めておく必要があります。

How?

アセスメントの実施結果に加え、事業・組織の実態レビュー、100日プラン検討における働きぶりなど、各Executiveの実力やポテンシャルに関する情報を収集します。それを事業・組織の現在および将来の課題と突き合わせ、今後の進化過程のどの段階までリーダーを継続させるのが適切かなどを、ガバナンス側で討議します。

 

マーサーの具体的サービス

  • アセスメントの設計・実施
  • 関係者ヒアリングによる各Executiveのその他の情報の収集・整理
  • 関係者ヒアリングによる事業・組織の現在および将来の課題の整理
  • 人材側と事業・組織側の判明事項に基づいた、買収先経営チームトランジション討議のリードなど

<M&A 人事コラム>

組織や人についてのプランは、いかに力をかけて策定したとしても、実行してみないことにはうまく行くかどうかわからないことが、どうしても残るものである。また、ビジネスを取り巻く内外要因が複雑に絡んだ上で結果が出るので、実行してうまくいったからといって、当初の想定が正しかったとも言い切れない。

しかしながら、組織や人について事前にリサーチを行い、成功条件の仮説を持つことによって、可能性の低いシナリオを前提としてしまうようなリスクを回避したり、起こって欲しくない事象が生じた場合の対策を事前に立てたりすることもできる。

特にM&Aの場合は、買収後のシナジー実現や業績向上によって投資に対するリターンをきちんと確保する必要があるので、「そこそこの業績(Satisfactory Under performance)」では困ってしまう。買収した事業は誰がどのように経営するのか、本当にそれで大丈夫か、最初はそれでよいとしてその先はどうするのか、ということを、様々な角度から十分に検討しておく必要がある。

M&A 100日プラン策定

クロージング後約3ヶ月以内(100日間)に、買収先の基本計画である「100日プラン」を作成します。最初に買い手が、検討のガイドライン(プランに織り込む業績目標)をしっかりと打ち出すことが重要です。

M&A 100日プラン策定 ー 理解のポイント

What?

クロージング後の買収先の基本計画を、原則としてクロージング後約3か月(100日間)で策定します。この基本計画は、当年度の残り期間の業績目標の見直しや次年度の業績目標の検討など、比較的短期間の計画を検討することも、より長いスパンの計画を検討することもあります。 なお、クロージング後100日間で完了する短期アクションアイテムのことを、100日プランと呼ぶ場合もあります。

Why?

買収先の業績目標を明らかにし、インセンティブと紐づけることによって初めて、買収先の経営者に対するコントロール(ガバナンス)が利きます。業績目標の設定に際しては、事業の潜在力や投資回収の観点から、低い目標を設定しないように留意しなければなりません。また、買収先社員の期待を醸成するには、買収後3か月程度で目指す姿を明確に打ち出す必要があります。

How?

理想的にはクロージング前に、投資家・株主の観点から期待する業績のガイドラインと、計画に織り込むべき取り組み項目の柱を明らかにし、検討体制と検討メンバーを固めます。準備プロセスには買収先トップをうまく巻き込み、支持を得て実行に移します。

マーサーの具体的サービス

  • 事業側の改革ニーズ、将来の組織再編などを視野に入れた、100日プランの検討範囲の決定サポート
  • 買収先トップとのコミュニケーション、合意形成に向けたプロセスサポート
  • 買収側コアチームと100日プラン検討推進事務局に対するアドバイザリー など

<M&A 人事コラム>

M&Aにおける100日プランの名は、ディールのクロージング直後の100日間(約3か月)で検討した事業プラン、あるいはアクションプランというところから来ている。「この先、この会社(事業)は一体どうなるのか?」と期待感あるいは逆に不安感を持って待っている買収先の社員に対して、確かな方向感をタイムリーに提示して期待を醸成し、また不安を軽減して人心を束ねることが重要である。

会社の将来に期待が持てなければ、社員の会社に対する気持ちは離れてしまう。このことは、特にクロスボーダーM&Aにおいて顕著である。従って100日プランの内容は、やって当たり前のことが含まれていてもよいが、社員から見て魅力的で、「それだったら会社に残ってがんばろう」という気にさせるものになっている必要がある。

従って、社員からみて魅力的で納得できるものであれば、100日プランの内容は既存年度予算の見直しでも、次年度事業計画の策定でも、新3カ年計画の骨子策定でも、傾いている会社の業績を立て直す緊急止血策など、何にでもなり得る。これからの事業の計画と組織の姿を、クロージング後100日で分かりやすく打ち出し、期待感を社員に示すことが大切なのであり、それをちゃんとやって見せることが組織運営の規律なのである。

組織診断および社員の意識改革・行動改革

100日プランの実効推進策の一つとして、買収先の抱える組織・人事課題を構造的に洗い出し、有効な組織・人事施策のセットを打ち出します。

組織診断および社員の意識改革・行動改革 ー 理解のポイント

What?

買収先の組織的な課題を効率的に診断し、その解決に効果的に取り組むことによって、買収の所期の成果の達成を促進します。具体的には、社員の意識改革・行動改革、あるいは企業価値観(”Way”)の浸透などの施策を実施します。 なお、M&Aに対する社員の不安や不満が懸念される場合は、案件合意後の早いタイミングで組織の現状を把握し、組織的な緊急対策を打つこともあります。

Why?

多くの買収先では、買収前からの固有の課題を抱えていますが、更に買収後は、マネジメントやガバナンスの変更によって組織が不安定な状態に置かれ、さらにシナジー追求の課題が上乗せされるため、問題が複雑になる恐れがあります。

How?

100日プランの達成に焦点を当て、状況によっては買収側の課題も視野に入れて、組織、組織能力、および社員の課題を整理します。経営者やキーパーソンのインタビューや一般社員のグループインタビューの結果から、課題の仮説と社員意識調査の具体的な質問項目を導きます。 社員意識調査の結果は、まず経営層のワークショップで討議し、現状認識と解決の方向性を打ち出します。そして、そこからさらに現場に向けてワークショップを展開し、各現場でのアクションプランに落とし込みます。

マーサーの具体的なサービス

  • 経営層、キーパーソンインタビューの設計と実施、組織課題の整理、組織的な解決の方向性の仮説提示
  • 社員意識調査の設計と実施、結果の整理
  • 経営層ワークショップの設計と実施、結果の整理
  • 検討結果を組織展開したり、議論を深化させるためのプロセスの設計と実施結果の整理
  • 社員の意識改革・行動改革、あるいは企業価値観("Way")の浸透など、適切な施策への落とし込み、運営サポート など

<M&A 人事コラム>

立派な100日プランが出来上がると、「果たしてこれをどう成功裏に実施させるか」ということが問題となる。100日プランの実行は買収先の経営チームの仕事であり、達成できれば報酬を与え、できなければ交代させるという整理で間違いない。しかし、もし達成できなければ買い手にとって重大な機会損失となるので、買い手は、そう簡単に「あとはもう任せた」という気にはなれないだろう。

実際、問題を抱えていない組織はない。そこに、シナジーの追求という現状プラスαのことを達成する必要が生じるために、M&Aの勢いで問題が自然と良い方向に向かう可能性はあるものの、現状抱えている問題が原因でPMIのプロセスが円滑に進まないということも起こり得る。

また、リテインされた経営者は、社内の課題は把握しているであろうが、買い手に話す機会がなかったり、買い手と共有する性質のものでないと考えてしまう場合もある。

そこで、「一度、社内のどこにどのような問題があるのか、たな卸しをしよう」と買い手から持ちかけるなどの工夫が必要である。結果的に、大きな問題が見つからなければ良いことだし、もし何か見つかれば、それを共通の課題として、買収先へ買い手としてのサポートを実施するのである。

KPIの具体化と報酬のリンク

100日プランの検討成果を、適切に経営者の評価指標とし、インセンティブの計算式に織り込んできちんと動機付けを行います。

KPIの具体化と報酬のリンク ー 理解のポイント

What?

買収時に買収先の経営者に対して提示した報酬パッケージのうち、インセンティブ(短期、状況により別に長期)については、多くの場合、概要の提示にとどまっているため、100日プランなどの検討を踏まえて、プランの詳細を最終化します。

Why?

買収先が達成すべき業績を明らかにし、これを経営者のインセンティブと具体的に紐づけることで、初めて買収先の業績向上に向けたインセンティブが有効に機能するからです。

How?

例えば、目標の達成率に応じて支払われるキャッシュプランの場合は、目標達成時(Target)、経営上許される下限の達成時(Threshold)、さらにインセンティブの支払いを頭打ちとする上限達成時(Maximum)などの具体的な目標を、新会社に求めるビジネスプランと整合的に確定します。 また、企業価値に応じて支払われるキャッシュプランや株式を活用したプランの場合には、付与条件、付与額算定方法、権利行使タイミング、などのプランの詳細を確定します。

マーサーの具体的サービス

  • 報酬ベンチマーク(まだ実施していない場合)
  • これまでの約束の内容・経緯とガバナンス側の意思を踏まえた、インセンティブの詳細設計
  • 会社業績に応じた個人への支払額および総原資シミュレーション
  • プランドキュメントに盛り込む内容の明確化、説明資料の作成・・・正式な契約文書化はリーガルアドバイザーが実施
  • 経営者へのコミュニケーション支援 など

<M&A 人事コラム>

経営者のインセンティブでは、業績がThresholdを下回ると、支払い額が一気にゼロになるように設計されていることが多い。どのような事情があろうが下回ることが許されない(Unacceptable)業績ラインを定めているのは、株主の気持ちのストレートな代弁であろう。

目標を下回っても、Thresholdで一気に支払額をゼロにしないで業績連動を継続する(つまりゆるゆると下げ続ける)方が、悪いなりに少しでも頑張るのではないか、あるいは、リーマンショック後のような特別な場合には、業績連動で支払額を下げ続けるのではなく、どこかのポイントから先は経営者が免責されて支払額が下げ止まるべき、という議論も、もしかしたらあるだろう。

しかし、経営者は一般社員とは大きく異なる。資質と実力を持つ人材が、大きな経営の自由度を与えられているのである。たとえ企図した施策がうまく行かなくても、経営環境がどうしようもなく悪くても、何とかできる余地があるはずだし、何とかするのが役目なのである。経営者に対する報酬・インセンティブとは、経営者が逆境でも決して諦めず、いろいろ工夫と努力を重ねて、何とかThresholdの業績に到達し、さらにその上を目指すよう促す仕組みなのである。

組織統合・人事制度統合

買い手組織と買収先組織を別々のままにしておくと、重大な機会損失や追加コストが発生し、買収目的の達成が難しくなる場合があります。組織統合・人事制度統合は、多大なコストや負担が発生し、実行難度も高いので、十分な検討が必要です。

組織統合・人事制度統合 ー 理解のポイント

What?

買い手の既存拠点・既存組織と買収先の重複が大きい場合は、買収後に双方の組織の統合・再編が必要です。具体的には、組織構造を一体化し、ポジションを整理し、一人当たり業務量など組織効率を再設計します。

この際、経営層を含むシニアなポジションについては、仕事の大きさの変更に伴う報酬の見直しや会社都合扱いの退職が必要となる場合があり、適切な対応が求められます。更には、一般社員の雇用調整(リストラ)が必要になる場合もあります。 また、組織統合に伴い、双方の一般社員年金制度・人事制度を統合する必要に迫られることも少なくありません。

Why?

双方の組織を別々のままにしておくと、重大な機会損失や追加コストの発生が避けられず、買収目的の達成が難しくなる場合があります。

但し、本当に組織統合や年金制度・人事制度統合が不可欠なのかどうかについては、事前に事業面・組織運営面などから、十二分に検討しておくことが必要です。組織の統合・分離の中間的な形態の採用による問題解決策も考えられますし、組織統合や年金制度・人事制度統合には、確実に多大なコストや負荷が発生するからです。

How?

あるべき統合組織の方向性を、ガバナンス側主導で検討します。マネジメント側の知見やコミットメントを得るには、慎重に巻き込みのプロセスを考案することが必要です。一般に、組織統合が発表できるようになるまでには、限られたメンバーによる多くの検討が必要になります。

年金制度・人事制度統合については、双方の制度の比較、制度統合の目的を達成する統合のあり方の検討、コストおよび移行措置の検討に加えて、組合の了解取り付けなどの実務上必要な手続きの検討をします。

マーサーの具体的サービス

  • 組織統合検討プロセス、特に双方の現経営層の巻き込み方の設計
  • 新しい統合組織におけるポジション要件の明確化
  • 双方の現経営層のアセスメント
  • 新しい統合組織における経営層人事の検討支援
  • 新しい統合組織における経営者報酬の設計・・・基本給、インセンティブ他
  • 経営層の交代、退職のシナリオとコストインパクトの明確化
  • 経営層に対するオファー・退職のコミュニケ―ション設計・・・内容によりリーガルアドバイザーと協働
  • 組織統合の促進要因と阻害要因の分析
  • 一般社員の雇用調整(リストラ)支援・・・リーガルアドバイザーと協働
  • 一般社員の人事制度、年金制度、保険等の各種ベネフィットの現状診断、制度統合の課題整理
  • 一般社員の人事制度、年金制度、保険等の各種ベネフィットのあるべき統合の方向性策定
  • 一般社員の人事制度、年金制度、保険等の各種ベネフィット統合の詳細設計 など

<M&A 人事コラム>

例えば、既存組織と買収先の営業組織が同じ地域にあって、顧客、社員に求められるスキル、業務プロセスなどの類似性が高ければ、この2つを別々にしておくと非効率が多く、相互の調整が必要になるなど追加コストも発生するので、なんらかの人事・組織統合が必要になるだろう。

一方、よく見ると、営業が顧客に提供している価値は大雑把には同じ言葉で語れるが、実際には顧客層も顧客の購買行動も異なり、営業に求められるスキルや行動、それを支える業務プロセスが異なる場合もある。その場合、本来異なるものを一体化することに特段の合理性がなければ、大変な苦労をして人事・組織統合を行う理由がない。

ところがさらによく考えると、それは当面の話に過ぎず、今後の事業拡大や新たなM&Aを視野に入れると、やはり遠からず統合を目指すのが正しい、という結論もありうる。すると、例えば営業のフロントはすぐに統合しないけれども、バックオフィスは速やかに統合する、と言うようにきめ細かに考えたり、人的資源管理の仕組みや人材情報の共有化、価値観や評価方法の共有化など、着々と最終ゴールに近づく仕掛けを人事の仕組みとして入れておいたりする余地も出て来る。このように、組織のあるべき姿は静態的ではなく動態的であり、組織は再編コストを頭におきながら、その時の課題認識に合わせて見直すものといえる。

人事制度・運用の詳細把握および人事機能整備

組織・人事デューデリジェンスでは、M&Aの実施の可否や買収価格調整の観点から重要な事項に絞り込んで精査するため、クロージングを迎え、グループ会社となった買収先の組織や人事制度についてはわかっていないことが残っています。これを効果的・効率的に掌握し、買収先の人事部門との関係を構築しつつ、今後の人事課題とアクションプランに落とし込んで合意します。

人事制度・運用の詳細把握および人事機能整備 ー 理解のポイント

What?

クロージング後に、買収先の一般社員のHRマネジメントの現状を、人事制度の内容と運用の状況、および人事機能の観点から把握し、今この時点での不具合や、短期・中期の課題を洗い出します。

不具合については、速やかに対策を立案して実施します。また、短期・中期の課題については、まず課題の構造化を行い、課題解決の費用対効果を考えながら、取り組みのロードマップを明らかにします。

Why?

デューデリジェンスおよびクロージングまでの期間に把握しきれていない事項は、少なくないのが現実です。

コンプライアンスあるいはガバナンスの観点から、今この時点での不具合があれば、これを速やかに解消する必要があります。

また、買い手がポリシーとして子会社に求めるHRマネジメントの観点、あるいは今後の会社の事業展開に見合う内容・水準のHRマネジメントの観点から、あるべき姿と現状との間にギャップがあることも多いです。このギャップについては、今後不具合として顕在化してこないように、計画を立てて確実に充足していく必要があります。

How?

最初に、買収先の人事担当チームから、現状の実態と認識している課題についてプレゼンテーションを受け、全体観をもちます。買い手の人事担当チームからは、買い手の考え方や目指す姿の概要を説明し、この取り組みの意義を共有します。

このあと数日間をかけて、主要なポリシー、プラン、データについて実務的な内容の確認を行います。具体的な調査対象は、マーサーの組織・人事マネジメントのフレームワークに沿って見当をつけ、買収先の人事担当チームの助言も受けて選定します。

なお、買収先の人事担当チームの体制やメンバーのクオリティなど、センシティビティの高い課題がある場合も多いので、先方人事トップとの個別ミーティングも用意して現状を把握します。

調査結果をもとに、買い手側で短期・中期の課題解決の方向性(ガイドライン)を整理し、先方人事トップに説明します。コミットメントが得られたら、ガイドラインに沿って具体的な課題取組計画を起案してもらい、買い手が承認して実行に移します。

マーサーの具体的サービス

  • 買収先HRトップへの趣旨説明内容、ミーティングアジェンダの作成、事前コミュニケーション支援
  • 買い手側プレゼンテーションの作成支援
  • 調査項目とポイントの事前整理

   -現地調査への同行、現地での支援

   ーミーティングのファシリテーション

   ー主要なポリシー、プラン、データの実務的な内容確認支援(日本語による解説、Q&A支援)

   ー具体的な調査対象の調整

  • デューデリジェンスにおける指摘事項の直近の状況確認支援 など
  • 調査判明事項のまとめ作成
  • 短期・中期の課題解決の方向性(ガイドライン)の作成支援
  • 先方HRトップとのコミュニケーション支援
  • 先方HRトップから起案された課題取組計画へのコメント など

<M&A 人事コラム>

買収時には調べられなかった事項について、買収後にどこまで調べればよいのか。親会社として子会社の実情を隅々まで調べるべきとも考えられるが、通常、これら調査内容は当該子会社のマネジメントに属する事項である場合が多く、重大なこと以外は任せるべきとも考えられる。

「重大なこと以外は任せたいが、重大なことが何なのか調べてみないことにはわからない」となると、話が循環してしまう。この点、経験のあるアドバイザーの助言を活用してうまく最初の網掛けを行うこと、さらに買収先をHRチームで訪問し、買収先のHRチームにプレゼンテーションをしてもらい、そこで買い手のチームと気軽に話せる関係も作ってしまう、といったアプローチが有効だ。

もっとも、今後予想される課題の深刻さは、買い手が判断するものである。短期的あるいは中期的に買収先がどれだけ大きく変わるのか、それに伴ってHRにどれだけのバージョンアップが求められるのかは、買い手の考え次第だからである。買収先のHRチームと早期にこれを共有し、クロージング後100日を目途に今後の取組計画を策定することが、課題解決を現地主導で実行し、かつ成果を挙げるポイントである。

打ち手を検討する際は、課題を構造化して打ち手を考えるのが、コツである。課題と打ち手は、裏向きに置かれたコインを一枚一枚ひっくり返すように、1対1で対応するとは限らない。むしろ、優れた課題解決策とは、課題の全体に対していくつかの打ち手がセットで立案され、さらに変化に伴う副作用を軽減するための配慮が加わったものであることが多いからである。

ワークフォース・アナリシス(要員計画)

クロージング後に買収先の一般社員の組織・人事マネジメントの現状を分析し、現在および将来における経営レベルの重要課題を抽出して、解決の方向性を検討します。

ワークフォース・アナリシス ー 理解のポイント

What?

クロージング後に、買収先の一般社員のHRマネジメントの現状を、既存のリーダーの状況、人材需給ギャップ、人件費コスト及び人的生産性の観点から分析し、現在および将来における経営レベルの重要HR課題を抽出して、解決の方向性を検討します。

買い手がガバナンスの観点から実施するパターンと、買収先の経営者がマネジメントの観点から実施して重要事項を買い手に報告するパターンがあります。 また、組織統合の検討素材として実施することもあります。

Why?

買収先の一般社員が有する本質的な課題は、社員の数が多い場合などは、人事制度・運用を棚卸しするだけではなかなか見えてきません。あるいは、課題を直感に捉えられても、その裏付けを得られず確信がもてないことも多く見受けられます。ワークフォース・アナリシスを実施することで、構造的な課題を明らかにして初めて、経営に有効な対策の検討が可能となります。

How?

比較的社員数の多い買収先に対し、ウェブ・ベースで提供される標準的な分析ツールなどを活用して、一般社員の実情を把握します。

マーサーの具体的サービス

  • オンライン・リーダーシップアセスメントツール:TalentSIM
   ー7つのマネジメントコンピテンシー
   ー17のスキル
   ー個人およびグループについての分析
  • 組織動態分析ツール:Strategic Workforce Planning
   ー外部要因
   ー内部要因
   ー社内プロセス
  • 分析結果を踏まえたワークショップ
  • 経営課題と解決策の検討 など

<M&A 人事コラム>

買収先の一般社員の人事課題を把握する際に、人や組織の実態をつぶさに調べ上げれば、それなりに詳細な課題を把握できるであろう。しかし、調べた結果どのような発見事項があるかわからない段階で、多大な時間と費用を要する調査を実施することは、なかなか正当化できるものではない。

ただ、何らかの調査を実施しない限りは、十分な事実や情報が得られないために、 課題の洗い出しや掘り下げが思うようにできなくなる懸念は大きい。例え何かピンと来ることがあっても、その解像度を上げて真の姿を突き止めることで確証に近いものを持てなければ、思い切った経営判断は望めないであろう。

人数的に限られている経営者と違って、一般社員は人数が多く、その職種や特性も多岐にわたるだけに、その実態を把握するのは容易でない。一方で、一般従業員の抱える問題に重大な事柄が潜んでいることも多いため、コスト効率の良い標準的な分析ツールを用いた分析の利用価値は高い。特に、ワークフォース・アナリシスは、現状の課題にとどまらず、一定の前提に基づいて将来の課題についての示唆が得られるため、経営者の課題解決の自由度を拡大することもできるので意義深いであろう。

M&Aに伴うリストラ検討

M&Aの効果を実現するために、適切な組織の姿(構造、人員数、人件費)に、円滑かつ速やかに移行する必要があります。各国の法令や労働慣行を踏まえ、実務的なアプローチを設計し、実行を支援します。

M&Aに伴うリストラ検討 ー 理解のポイント

What?

クロージング後に、買収先の人員規模を適正化するために、実施期限を定め、円滑に社員を解雇します。また、既存組織と買収先との組織統合時に、人員規模の適正化が必要となるパターンもあります。

Why?

人員体制の適正化をスピーディに行うには、採用の抑制と自然退職の組み合わせでは限界があります。時間をかけていては、事業が持っている本来のポテンシャルをなかなか発揮することができず、意識の高い従業員の士気も損ねることになりかねません。痛みは伴いますが、適切な方法を見定めて一気に退職を実施することが、将来の発展の前提条件となります。

How?

組織・人事デューデリジェンス(DD)の段階で、リストラの必要性や内容をできるだけ見極めます。サイニング後、あるいはクロージング後にその詳細を詰め、実行プロセスを設計し、適切なタイミングで着実に実施します。 既存組織と買収先との組織統合に伴うリストラの場合も、同様の検討フェーズを経て実施します。

マーサーの具体的サービス

  • 当該国におけるリストラ策オプションの比較検討、実行方針の策定
  • リストラの詳細プロセス設計
  • リストラの実施体制の設計
  • 対象者選定の支援
  • 対象者に提示するパッケージの設計
  • 対象者へのコミュニケーション(全体・個別)の支援 など

※最終化には、法務アドバイザーの確認を要します

<M&A 人事コラム>

リストラは、規模が小さい場合には、現地にしっかりした人事体制があれば、通常の人事業務の一部として、しっかりとした準備の元、粛々と実行する性質のタスクであろう。

ところが、M&A後に、あるいはM&Aの結果として必要になるリストラには、規模の大きいものや、多くの国や拠点において発生するものがある。最適な手法の選択、組合やワークスカウンシルとのコミュニケーションはもちろん、各地において法的要件や必要プロセスの詳細確認、対象者に提示する効果的なパッケージの設計、対象者個人への説明、プロセスマネジメントなど、多くのタスクが必要になるので、その難度は一気に上がる。

また、極秘でリストラを検討しているために、頼みの現地人事部門の知見・ネットワークを活用できないこともあれば、現地人事部門がリストラ対象になっているために本社から相談を持ちかけられないことすらある。

買収後のリストラが円滑に進まないと、買収の所期の狙いの達成が遅れるだけでなく、事態を収拾する負担も追加でかさむ。さらに、PMIに問題のある買い手と思われて、今後のM&Aがやりにくくなることにもつながりかねない。もとより簡単にリストラのできる国はなく、M&Aがらみのリストラであれば難度が特に高い場合もあるので、十分な注意が必要である

クロスボーダーM&A・グローバル経営支援

ディールの開始前からPMIまで一貫して、M&A案件を国内含めグローバルに支援します。一方、ピンポイントで、必要な時に必要な支援をご提供することもできます。また、買収のみならず、JV設立、売却、組織再編・人事統合・再編・リストラなども支援します。さらには、グローバル人事オペレーションの高度化、DB年金問題への対応、買収先CEOの報酬決定・交代など、グローバル経営の諸問題についても、幅広く支援します。

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