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"Shrink AND Grow" 構造改革と成長戦略の同時実現


多極化世界を生き抜くための経営のイノベーション

 2010年が始まった。「100年に1度」と言われた経済危機を乗り切り、「今年は一気に攻勢に出よう」と新年の計を立てた経営者の方も多いだろう。

 昨年と異なり、世界経済全体の見通しは明るい。しかし、経営の難易度は格段に高まる。「もうグローバル戦略の検討段階は終わった。実行あるのみ!」と経営会議で号令をかけた経営トップが、一方では悩みを告白する。「海外拠点をどうやったら自立させられるのか? 一方、これまで技術と経営の中枢を担ってきた日本はリストラで縮小するしかないのか? グローバル最適はどうすれば実現できるのか……」。

 日本企業の経営は大きな岐路に立っている。この問いに答えるには、今年1年ではなく、まず向こう10年程度のグローバルの環境変化を展望し、その中で求められるマネジメントの方向性を押さえる必要があろう。「2010年」を「2010年代」の幕開けとなる1年と位置づけ、向こう10年をにらんだ経営革新の方向性を描いておきたい。

グローバル多極化時代の幕開け

 2010年代は世界が本格的に多極化する10年になるだろう。欧米・日本などの巨大市場が低成長にとどまる一方、新興市場が次々と勃興する。

 有史以来最も急激な変貌を遂げる中国は、もはや単一市場ではない。沿岸部の大都市が拡大するだけでなく、地方の中小都市が急速に立ち上がり始めた。言うまでもなく、都市部の消費者と地方の消費者とでは成熟度もニーズも異なる。結果として商品開発から流通まで異なる対応が必要な複数の巨大市場が、中国国内に並び立つことになるだろう。

 同様のことがインドでも起こる。携帯電話の出荷台数で既に中国を抜いたもう一つの巨大市場は、今後2050年までに人口の増加は中国の1.5倍、GDPの増加も中国の2倍で進むと見られている。もともと文化的・民族的背景も複雑で、中国とは様相を異にする複数の市場が並存しながら急速に拡大することは確実だ。

 アジアの他の地域に目を転じれば、ベトナム、インドネシア、バングラデシュが、また中南米ではワールドカップとオリンピックを控える南米のブラジル、メキシコ、さらにアフリカではエジプト、ナイジェリアがそれぞれ独自の「市場」として立ち上がる。

 一方、先進国はどうなるのか? 低成長とは言え規模は依然として大きく、高齢化の進行によって、これまでとは質の異なる市場が立ち上がる余地がある。やり方によっては日本でも1500兆円の金融資産のかなりの部分を所有し、成熟した消費性向を持つシニア市場が立ち上がる可能性がある。

 「グローバル化」とは「均一化」でも「平均化」でもない。むしろ「多極化」がその本質である。このグローバルの「多極化」に対応できるマネジメントを確立することが、2010年代の企業経営の最も重要な課題となるだろう。

"Shrink to grow"から"Shrink AND Grow"へ

 それでは日本企業は、このグローバルの「多極化」にどのように対応すべきなのだろうか?

 歴史を遡ってみれば、90年代後半から2000年代前半の日本企業の戦略のキーワードは「Shrink to grow(=成長のための縮小)」だった。国内バブルの崩壊による国内景気の低迷と円高等による北米事業の頭打ちを背景に、「まずは既存の事業・組織を合理化し、成長できる筋肉質な体制に生まれ変わる」というのがその要諦であった。

 しかし、現在の競争環境は10年前よりもはるかに厳しくなっている。経済危機により顕在化した国内の需給ギャップは、一段の円高の定着もあいまって、国内の事業・組織の縮小を「待ったなし」としている。

 一方、勃興する海外市場と新規事業への投資も「待ったなし」だ。例えば韓国のサムソンを含むグローバル企業は、中国・インドはもちろん、既に中南米・アフリカにも進出し、競合に先行して市場を奪取しようと、M&Aも行って販売拠点や流通網など事業の基盤を着々と立ち上げている。

 したがって、日本企業が今後のグローバルな「多極化」に対応するには、[1] 縮小する国内・既存事業の構造改革を進める、と同時に、[2] 海外・新規事業での成長戦略を実現できるマネジメントを確立しなければならない。構造改革を済ませてからでは間に合わない。"Shrink to Grow"を脱しきれない現在のマネジメントを"Shrink(=構造改革)"と"Grow(成長戦略)"を同時に追求できるマネジメントへと高度化することが求められているのである。

"Shrink": 全体最適を実現するためマネジメントの「核」を絞り込む

 "Shrink"とは、単なる人員削減や組織の改廃による「リストラ」ではない。「多極」に展開する拠点を機動的かつ効率的に束ねるため、マネジメントの「核」を絞り込むことが”Shrink“の本質である。

 最も重要なのは、「何を統合し、何を分散するか」という観点から本社(日本)・拠点それぞれの役割を再定義し、組織・人員の最適化を考えることである。例えば、開発・生産・営業などのコアとなるプロセス毎に本社と拠点の役割の再定義を行い、本社で統合すべき機能を大胆に絞り込むことである。"Shrink"した本社は、より小規模な体制でより高度なマネジメントを実施しなければならない。ガバナンスの再構築と同時に、本社の組織能力をどう向上していくかは重要なテーマになる。

 グループ会社の統合再編やグループ経営の変革も同じように考えられる。これまで放任してきたグループ企業を今後のグループ戦略の視点から棚卸しし、存廃を決める。存続するグループ会社のベクトルを合わせ、個社トップの経営力を高めるには、本社のグループマネジメント力を高めなければならない。グループの統括機能を担う組織の人員を増やすのではなく、例えばグループ会社の経営層全員で経営戦略の策定と成果の検証を討議する場を設け、この場をグループマネジメントのプロセスとして回していくやり方は、グループ全体と個社の課題を効率的に把握でき、改善に向けた刺激を個社経営トップに一度に与えられる点で効果的である。

"Grow": 市場最適を加速するマネジメントを構築する

 一方、"Grow"の本質は、それぞれの「極」で成長戦略を加速するマネジメントを構築することである。

 均質でない複数の市場を、一つの戦略や本社からのマネジメントで制することができる企業は極めて限られている。「グローバルの仕組みは整備したが、なかなか思ったように海外拠点で運用されない」とこぼす人事責任者は多い。一方、拠点側も「本社は拠点の事情を理解していない」と議論は平行線をたどる。

 成功のカギは、本社からは見えない拠点の組織・人事課題を可視化し、拠点と本社とで共有することにある。組織診断、人材アセスメント等をうまく組み合わせて実施することによって、経営層の変革能力、組織間の連携、コアポジションへの人材の充足度、現地社員のエンゲージメント等の課題を包括的に把握することができる。

 解決策は「市場最適」となって構わない。「それでは個別最適になってグローバル最適にはならないのではないか」と思われるかもしれない。しかし、それでよいのだ。戦略的に重要な複数の拠点から順に同じやり方で「可視化」していけば、根本で共通する課題が自ずと見えてくる。この共通課題に対する解決策こそが、グローバルで真に機能するマネジメントとなる。一見遠回りに思えるこのボトムアップアプローチが、グローバル最適への近道である。

「志」を高く掲げよ

 "Shrink AND Grow"を追求するための様々な検討の「基軸」として忘れてはならないことがある。それは企業としての「志」を改めて高く掲げることである。

 「あるべき姿」なく打ち出される「構造改革」ほど空しいものはない。また、「志」なしには「多極」の社員のベクトルはまとめられない。

 「志」を掲げ、「あるべき姿」を具体的に示す。それが組織の「核」を作り、異なる市場で働く社員が事業を成長させる原動力になる。国内市場では構造改革の痛みを覚悟しなければならないからこそ、また海外市場では並み居る競合の中で自社の存在意義を認めさせなければならないからこそ、「志」を高く掲げる必要があるのである。

 日本企業は、多極化世界を生き抜くために"Shrink AND Grow"を追求しなければならない。これまでのマネジメントを抜本的に転換することを迫られた2010年を「10年に1度の経営革新の好機」ととらえ、今後10年の飛躍的な進化につなげたい。