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“オール・コンプライ”でいいのか - コーポレートガバナンス・コードが経営者に問うもの -

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“オール・コンプライ”でいいのか - コーポレートガバナンス・コードが経営者に問うもの -
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2015年のコーポレートガバナンス・コード適用開始から3年半、昨年にはその改訂も実施され、日本のコーポレートガバナンス強化の取組みは新たなフェーズに入ったと言える。

各企業の対応はどうか。東京証券取引所がまとめた昨年末時点の集計によると、一部上場企業の約85%がコード全78原則の9割以上を"コンプライ"しているという。昨年のコード改訂でハードルが上がった面もあるものの、総じて高い "コンプライ"率を示していると言えよう。

コードの原則には、株主の権利確保、適切な情報開示など、あるべき姿として至当な内容が多く、高い"コンプライ"率が総じて望ましいものであることは間違いない。しかしながら、では"コンプライ"が"答え"なのか。"オール・コンプライ"が目指すべき姿なのか。

示唆的な"エクスプレイン"がある。東証1部上場食品メーカーのものである。

「中長期的な業績連動報酬や自社株報酬については、現在、実施しておりません。当社は、経営陣の報酬について従業員の生活水準の向上とバランスをとるべきと考えており、業務執行取締役に対しては、業績にもとづいた賞与を株主総会に上程し支払う現行の制度で適切であると考えております。なお・・・」

「当社は、次の理由から「独立社外者のみを構成員とする会合」を設置しないことといたします。
・『独立社外者のみを構成員とする会合』は、取締役のうち社外取締役の人数が少なく、当該意見が反映されづらい環境を是正するために有効と考えますが、当社は社外取締役を6名選任しており、社外取締役が発言しやすく、当該意見が反映されやすい環境にあると考えます。
・社外取締役はそれぞれ卓越した知見を有しており、それを個々に発揮することが求められていますが、『独立社外者のみを構成員とする会合』を設置することにより、ある種の共通認識が形成され、当該認識に対する反対意見を述べづらくなるなど、その独立性を弱める可能性があります。」

いずれも、自社にとってはコードの示す方向性と異なる内容がより適切であると主体的に判断し、コンプライしないことが自社にとって望ましい結論であると、積極的に説明している。

ガバナンスのあり方に絶対の「答え」は無い。今ある類型や指針も、これまでの歴史の中で形づくられてきた、現時点での「良さそうなプラクティス」だ。昨今でも、一定のガバナンス機構を備えた組織での不正・隠匿などの事件が絶えず、ガバナンス形式論の限界、そして人間が持つ「弱さ」、時に間違い得る「不完全さ」を痛切に感じさせる。

ガバナンス・コードが企業に、経営者に問うものは何か。決して"オール・コンプライ"を目指させることではなく、自社の「弱さ」・「不完全さ」を見つめ直し、そこにどう対応していくべきかを「考える」ことではないか。例えば、

  • 自社の事業戦略は、これまでとどのように不連続なのか
    (ゆえに過去のどのような経験は活かせ、どのようなことは未経験ゆえのリスクがあるのか。それをどうカバーするのか)
  • 自社の監督と執行の分離度合いに照らした時、固有のリスクや課題は何か
    (例えばそれが執行側情報の共有であれば、それをどのように、表層的でなく実効的に担保するか)
  • 性別や国籍の多様性以前に、取締役会の一人ひとりが、異なる意見を疎むことなく、本当に互いの意見を尊重し議論できているか
    (肩書、経験、経歴等に起因する忖度や迎合はないか。もし何等かのバイアスが潜在するのであれば、どのようにそれを排除していくのか)
  • 役員層への株式報酬導入は、役員一人ひとりの意識改革・行動変革に繋がっているか
    (これまでとどう変わるべきか認識されているか。もし違うなら、今後何をしてその醸成を図るのか)

コーポレートガバナンス強化の取組みにおいては今、企業と資本市場の「建設的な対話」が求められている。頻度や網羅ではなく、「何を」対話できるかが重要だ。経営者がどのように自己・自社を「見つめ直し」ゆえにそこからどう「考えた」か、これを資本市場と議論していくことを期待したい。

田村 征継

執筆者: 田村 征継 (たむら まさつぐ)
組織・人事変革コンサルティング シニアコンサルタント

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