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ダイバーシティ&インクルージョンと福利厚生戦略

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組織がグローバル化するということは、必ずしも事業の海外展開のみを意味するものではない。

拡大する海外事業と子会社を管理するため、本社機能も自ずから「グローバル」な視点で変わる必要があるだろうし、それは本社機能を担う「人材」も同時にグローバル化する必要があることを意味する。してみると、近年D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が注目を集めるのも、グローバル化を進める過程において、日本国内の人材が多様化している事も一因なのだろうと思う(勿論それだけではないだろうが)。

さてこの「ダイバーシティ&インクルージョン」だが、ダイバーシティはそのまま多様性で多様な背景・価値観を持った人材を積極的に登用することを指すが、インクルージョンはもう一歩進んで、多様な背景・価値観を持った人材の価値を認知し、活躍できるように広く策を講じることを指す。いわば、数という意味での多様性を増すだけでは不十分で、むしろインクルージョンが無ければ、皆が勝手勝手に異なる意見をぶつけるだけで、新たな創造性が生まれるとは考えにくい。

ところがこのインクルージョンというコンセプト、特に福利厚生の世界とはめっぽう相性が悪い。

これまでの日本の福利厚生制度は、いわゆる終身雇用や年功的処遇等の伝統的な人事施策を背景したケースが多く1、いわば、新卒プロパーの男性、みたいな社員をモデルに、設計されているのではないだろうか。

グローバル化に限らず、多様化を推進していく過程において、様々な背景や価値観を持つ人材の様々なニーズに応えるための福利厚生施策を考える、などという事は、実際はほとんどの企業では出来ていないのではないだろうか。ジェンダーダイバーシティ(女性の活躍推進)においてはさすがに意識も高まり、出産・育児等に関する福利厚生制度の充実などは進んでいるように思われるが、例えば外国人やLGBTなどの性的マイノリティに関する雇用推進はどうだろうか。

「数としては多くない」という理由で特に福利厚生制度のカスタマイズなどを推進していない、ということは、そういった層をインクルージョンしていない、ということを意味する。

例えば、英国内の南アジア系(インドやパキスタン、バングラディッシュ等)の2型糖尿病の発症確率は、それ以外の人種の2倍2であったり、白人と比べると、黒人の前立腺がんの発症確率が2倍3だが、逆に白人はそれ以外の人種よりも不整脈になる確率が2倍4になる、等が知られている。

そういった層にも本当にインクルーシブな環境・制度を用意する、ということは、例えば健康に関する啓蒙活動や取り組みを推進するうえでも、必ずしもマジョリティに関係あるテーマのみに絞らず、様々な層に対する措置を講じ、彼らが疎外感(=インクルージョンの対義語)を感じないようにする、ということが求められる。こういう取り組みを本当に真面目にやろうとすると、存外に骨が折れるものである。

ちなみに、昨年のワールドカップの時期に、イギリスで非常に興味深い記事を目にした。

ワールドカップのように時差のある場所で試合が行われる場合、例えば就業時間中に、イングランドの試合などがあるような場合、会社として従業員が本来の就業時間中に、仕事を抜け出して、試合を観戦することを認めているような場合がある。その記事では、このような就業時間中の試合観戦を認める場合においても、マジョリティのイギリス人にのみそのような権利を認めることは適切ではなく、ロシア人やコロンビア人などにも配慮し、それぞれの国の試合中も観戦を認めるよう指摘していた。

そうなると、例えば次はアメリカ人がスーパーボウルの時期はTime offを要求したり、サッカーだけでなく、ラグビーファンの為にもワールドカップでの観戦を認めるべき、など、収拾がつかなくなるのではないか、と危惧してしまう。

次稿では海外のグローバル企業が、このようなテーマに対してどのようにアプローチしているか、事例を紹介したい。

北野 信太郎 (きたの しんたろう)

執筆者: 北野 信太郎 (きたの しんたろう)
グローバルクライアントマネージャー プリンシパル 英国アクチュアリー会正会員

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