「Brexit」が英国の企業年金に与える影響 | マーサージャパン

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「Brexit」が英国の企業年金に与える影響


2016年6月24日の朝、EU残留を占う国民投票の選挙管理委員会は、英国国民が「EU離脱」を選択したことを発表しました。52%対48%という稀に見る僅差であったことからも、英国内での亀裂の深さが窺い知れます。

ただし、これと共に英国が直ちにEUを離脱すると見るのはやや早計とマーサーではみています。まずこの投票結果を受けて、英国政府がどのように対応するかに注目が集まっています。実際、「離脱派」の中には、この結果をEUに突き付け、残留と引き換えに英国にとって有利な条件を引き出すよう、交渉すべきだ、と主張するグループも居ます。ただ、このような主張がどれほど実効性を持つかは定かではありません。

もし英国政府が「投票結果 → 離脱」と方針を定めた場合、欧州理事会に離脱の意図を通知したうえで、リスボン条約第50条の定めに従い、離脱に伴う諸条件を交渉することになります。もしこれらの諸条件が通知から2年以内にまとまらず、 交渉の当事者たちが全員一致で交渉期限の延長に同意しなかった場合は、英国の加入資格は自動的に失効します。

そのため、この交渉はすぐにでも始められるものの、英国政府は直ちに離脱の意図を通知して2年間の交渉期間をスタートするのではなく、まず「離脱戦略」を練ってから交渉のテーブルに着くものとみられています。皮肉にも、英国は2017年7月から欧州連合理事会の議長国に就任することが決まっており、今回の離脱の投票結果を受けて、これもまた問題を呼ぶと思われます。それもあり、独仏伊の首脳がそろって早急な離脱手続きを促すのも周知のとおりです。

今回の「離脱」投票結果の短期的な影響

  • UK以外にも、EU域内、そして世界各国での市場のボラティリティの高まり
  • グローバル規模での経済の先行きに関する不透明感の高まり。これらの不透明感の源泉は、たとえば英国とEU間の貿易協定等、今後の交渉次第の要素が大きいため、しばらくは継続する見通し
  • クロスボーダーで活動する多国籍企業にとって、各国の貿易、税、雇用等に関する法改正リスク
  • デイビッド・キャメロン首相の辞任に伴う、後任選びと総選挙の可能性。もしそうなった場合、今回の国民投票に至った経緯を勘案すると、この総選挙でも相当な不確実性が見込まれる
  • EU域内の他の加入国での同様の離脱投票の可能性。この影響も同様に、短期的に解消する見込みは薄く、しばらくくすぶり続けるとみられる
  • スコットランドの大多数がEU残留を選択したことから、一昨年同様のスコットランド独立の機運が再度高まる可能性

簡単にまとめると、「Brexit(Britain+Exitをかけた造語)」により相当な政治的、経済的、法令上、そして市場の不透明感が見込まれるとマーサーでは考えています。ただ、こういった不透明感に対して市場が反応するスピード感を考えると、今回の国民投票の結果を受けて、企業が何らかのアクションを起こすことはやや早急と思われます。その代わり、今後の対応や議論の推移を注意深く見守り、それらが企業年金運営に与える影響を把握することは、これまでに増して 重要になるものとマーサーは考えます。

企業年金を運営する在英企業が勘案すべきイシュー

  • 資産運用ガバナンス体制の再チェック、急な市場変動に適切に対応できるよう、体制が完備されているか、モニタリングが出来ているか
  • 市場のボラティリティの高まりが、DC制度加入者に与える影響、特にリタイアが近い層への影響についての把握
  • 保有資産の為替リスクへのエクスポージャー
  • 短期的、長期的な母体企業の信用力(Employer Covenant)と、年金受託人(トラスティ)からの信用力の評価への悪影響
  • 今後の金利政策の影響
  • 各金融機関の財務基盤の悪化に伴う、各種金融商品の発行若しくは引き受けの制限。たとえば、保険会社の年金バイアウトの引き受けへの制限等。

在英子会社が企業年金を運営する、日系グローバル企業が勘案すべきイシュー

  • 今後のビジネス戦略を勘案する上で、取りうるアクションが企業年金の運営に与える影響の把握
  • 特に、在英子会社へのコミットが薄れる(と見做される)ことによる、トラスティからの掛金引き上げ要求の強化
  • 英ポンドの弱体化による、相対的な円建ての積立不足の圧縮の可能性(ただし、短期金利の引き下げと株式市場の低迷との影響度と相殺)

もう少し長いスパンで見ると、今後前述のリスボン条約第50条に関する交渉が進むにつれ、英国がどのような道を歩むのか。同じEEA域内かつEUに加盟していない、アイスランドやスイスと同じようなモデルを目指すのか、あるいは英国独自のモデルを模索していくのか、少しずつ見えてくると思われます。同時に、英国は離脱によりEU域外の国々ともそれぞれ個別の貿易協定を結ぶことになります。これらの方向性が見えてくることで、企業も、そして年金基金も、想定される影響に対して取るべき施策が固まってくるとマーサーは考えています。

一方、英国の企業年金の運営は企業が単独で行うわけではなく、トラスティと呼ばれる受託人との共同運営によって行われるため、企業側の考え方をトラスティとしっかりと共有して、不必要な摩擦・誤解を避けるような努力もこれまで以上に重要になります。
マーサーでは、英国の企業年金の財政、設計、会計、資産運用、バイアウトや負債ヘッジ戦略の策定と実行、あるいはトラスティとの交渉支援等、日系企業の本社様の意思決定支援を幅広くサポートしています。英国を含む海外の企業年金運営のお悩みは、下の連絡先までお気軽にご相談ください。



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