困難時における事業継続体制 (Business Continuity )

building a better employee experience

新型コロナウィルスは、あらゆる想定外の脅威と同様に、個人、中小企業、大企業に対し、これまで長い間取り組んでこなかったビジネス態勢の再検討を促しています。私たちは、この感染拡大によって、コロナウィルスと戦う決意と回復へと向かう力を試されています。今後浮上してくるのは、事業運営上の合理的な経済的意思決定と共感のバランスです。

パンデミックは人類の悲劇の最たるもので、常に警戒し迅速に対処しなければなりません。一方で、私たちの働き方についての考え方も見直す時期に来ています。例えばリモートで働けるのは誰か?その会議は必要か?より多くの人にバーチャルミーティングの参加を促せるよう魅力的で生産的にするにはどうすれば良いか?デジタルワークとデジタルヘルスケアを活用するための環境は整っているか?マーサーの「2020年グローバル人材動向調査」(今後リリース予定)のデータによると、感染拡大以前の時点で、既に従業員の三人に一人が雇用の安定を不安視していました。新型コロナウィルスには、そうした不安を増長こそすれ鎮める効果はないでしょう。

企業はさまざまなシナリオ下で事業継続性を確保する準備を進めていますが、事業の中断を最小限に抑えるためは、新たな業務パターンの試行に加え新基準となる業務態勢を採用する必要があります。今後は、「共感」を中心に据える企業が時代の先頭に立ち続けるでしょう(優秀な従業員が、経済的視点と共感の視点の両面性のある企業で働く可能性は2倍高いという調査結果が出ています)。進化し続ける予測不可能な世界で勝ち抜くために必要となるのは、共感と経済的合理性の適切なバランスです。言い換えれば、生産性の指標と同様に従業員を配慮し、また新型コロナウィルスとそれによる経済的影響への対応策として将来の需要を開拓し、より明るく良い未来を築くことに注力する企業が勝ち残るでしょう。

今年度のグローバル人材動向調査では、企業がどのようにパンデミックに対応し、新時代で求められる共感の視点を用いながら、何に照準を合わせていくかについて提示しています。

 

ステークホルダーへのコミットメント

 

ビジネスリーダーの大多数(85%)が、企業の目的は株主価値の追求にとどまらず、あらゆるステークホルダーにとっての価値を高める義務があるとする考えに同意している今こそ、その考えを具現化し、すべてのステークホルダーに対する共感と公平性を持ち意思決定を行うべきです。サプライチェーンと企業に経済的に依存する者への支援も含まれます。例えばマイクロソフト社は、多くの自社従業員が在宅勤務となったことで、その給与支払いに影響が出る可能性のある自社以外の労働者(バスの運転手やカフェテリアの従業員など)に通常の時間給を支払うことを約束しました

また、今後企業にとって必要不可欠なのは、安心と信頼を提供することです。企業に対する信頼は、実際に社員が働き甲斐を感じるための重要な要素です。2020年の前述の調査によると、成功を収めている従業員は、将来の仕事に備える支援が期待できる企業で働く可能性が7倍高く、どのような仕事が変わる可能性があるかを明示する企業で働く可能性は2倍高いことが明らかになりました。企業が従業員を大切に考え、あらゆるシナリオに対応する計画があることを伝えるためには、共通の目的に基づく強固なコミュニティを構築し、ビジョンを共有することが欠かせません。この時、コミュニケーションのとり方と変化への対応の仕方が非常に重要となります。

そして、人々が自身の健康に不安を感じている今こそ、企業の従業員に対するウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)のための取り組みを確認するときです。従業員への精神的安定を促すメッセージ、従業員支援、メンタルヘルスアプリなどは、すべて日常的に使われています。また、企業の福利厚生の妥当性について再検討するのも良い方法です。バーチャルヨガやオンラインショッピングの割引提供が高く評価されるようになるかもしれません。また、雇用主の68%が今後5年間でデジタル医療提供に向けた投資をする可能性が高いことも後押しするでしょう。

もしパンデミックが長期間続くようであれば、ウェルビーイングの大前提が危ぶまれます。感染症の流行は、歴史的にうつ病や不安症状の増加と関連していることが示されています。そして今年は、従業員の大多数(61%)が、2020年が始まる前から燃え尽き症候群になるリスクを感じていました。従業員の配偶者(パートナー)は所得補償の対象になっているか?福利厚生は家族にも適用されるか?どのような金銭面のアドバイスが提供されているか?などの不安要素が挙げられています。例えば、アウトドア用品大手のREIは、仕事を休んだり家族の介護をしたりしなければならない従業員の収入と手当を保証するために有給休暇制度を改正しました。企業は、この様な前例のない事態においても従業員に企業の価値を再確認できるよう、前述したような情報を従業員へ伝える必要があります。雇用主がストレス、燃え尽き症候群、不安症状などのウェルビーイングに関する問題にどのように対応しているか。それは、責任と持続可能性に対する姿勢の証となります。61%の従業員が、雇用主が従業員の健康とウェルビーイングをサポートすべきと考え、この責任を果たす企業に敬意を払っていることを考慮すると、この姿勢は非常に重要です。

 

スキル強化の促進

 

経営陣は景気後退の可能性に備え競争力をつけるために、将来に向けた業務改善の戦略を迅速に採用しつつあります。マクロ経済の停滞が続けば、企業はこれを、戦略的提携(40%の企業が採用を検討)、多様な人材プールの活用(同39%)、自動化への投資(同34%)など、業務の整備に注力する機会として捉えるでしょう。まず考えられるのは、世界のサプライチェーンが崩壊し労働力供給の安定化の見通しが立たない場合に、変動費や固定費をどのように管理するかなど、さまざまなシナリオ下での需要と供給をモデル化することです。

自動化のペースが速まっている昨今、経営幹部や従業員がこの状況下で自身のキャリアにどのような影響を与えるかについて懸念しても不思議ではありません。マーサーの調査によると、ビジネスリーダーらが、今年ROI(費用対効果)を実現できる人材育成としてリスキル(スキルの再構築)をトップにランク付けている一方、従業員は、成功の第一の要因は、新しいテクノロジーとスキルを習得する機会であると述べています。しかし、当社の調査によると、従業員が学習するうえで最大の障害となっているのは時間不足です。仕事のモデルを再考しデジタルツールを導入する際には、優先事項を再定義し将来に備えるための活動に対して従業員を後押しする必要があるでしょう。

この観点から、今回の危機はリスキルの取り組み開始のきっかけとなるかもしれません。ゼネラル・アセンブリー(General Assembly)やイーデックス(edX)などのeラーニング・サービス・プロバイダーは様々なコースを提供しており、今後の仕事内容が変化する可能性がある場合、オンライン学習の活用は従業員にとって最適です。ただし、従業員が学習のメリットを十分に享受できるように、企業は従業員に対しリスキルによって得られる新たな役割・職務について明確にする必要があります。報酬水準を上げるために必要なスキルや、部門内外の他の職務を遂行する要件を満たすために必要なスキルについて、従業員とキャリア形成に関する面談の機会を設けます。自分の将来のキャリアパスについて十分な情報を持っていると感じている従業員は、そうでない従業員よりもリスキルに取り組む可能性が高く(十分な情報を持っていないと感じる従業員は76%であるのに対し83%)、その企業に残る可能性も高まります(同46%に対し54%)

 

知見を共有する

 

過去5年間で、人事部門はデータ分析をバリューチェーンの上位に移動させており、データによる予測分析の使用が大幅に増加しました。これは、労働力分析の普及と価値における大きな進展といえます。ようやくデータによる知見を得られるようになった企業は、人材管理強化のために分析結果から計測可能な価値を得て、市場感知能力と分析能力を向上できるよう舵を切りつつあります。

しかし、企業が新コロナウィルスの感染拡大の影響を測る際、適切な測定は行われているでしょうか?今年の調査では、53%の企業が従業員エンゲージメントの推進要因は追跡調査しているものの、企業内研修に関する解析(6%減)や燃え尽き症候群のリスクに関する分析(25%減)は全体的に低下していることが示されました。また業務のデジタル化の影響で、より多くのデータを活用できるようになる中、人事評価方法が再考され、従業員の日々の感情やそれが生産性へ及ぼす影響について把握する試みもなされています。

どの指標が最も関連性が高いかを調べることで、その情報を従業員と共有し、リモートワーク対応や集中しづらい環境での生産性のインプットに関する知見を得ることができます。従業員の多くは、ウェルビーイングに関する自身の指標について、有意義な調査結果やアドバイスとして前向きに受け止めるでしょう。

最後に、ワークフォース・サイエンスの分野が台頭すれば、今後ビジネスの復元力(レジリエンス)を構築するための重要な予測解析を得られるようになります。ワークフォース(労働力)予測の鍵となるのは、企業全体で実験するというカルチャーです。結果的に人事部門は、経営幹部、財務マネージャー、データサイエンティストと緊密に連携して、上述のようなシナリオにおける生産性とウェルビーイングの低下を軽減する方法を検討できます。

 

リモートワークの推進

 

多くの企業にとって、新型コロナウィルスは、リモートワークの可能性と、それが従業員の経験価値に与える影響について検討する契機となりました。JPモルガン・チェース、ツイッター、ソニーの在欧州事業所などは、この状況下で社員に在宅勤務を求める企業のほんの一部にすぎません。在宅勤務推進の課題は、柔軟に在宅勤務に切り替えることが可能なのか、全ての仕事において検証している企業はわずか44%にとどまっている点です。この場合どう対処したら良いのでしょうか。知見ある従業員らは、柔軟な働き方を成功させるための最も重要な要因として以下の事項を挙げています。柔軟な勤務形態をとる従業員をサポートする同僚、柔軟な働き方を奨励する企業文化、そして勤務時間ではなく成果に基づく評価体制です。パイロットチームによるリモートワークの検証を通したデザイン思考は、通常と異なる状況下において何を変更する必要があるのかを判断する上で重要となります。

ただしリモートワークがうまくいかない場合、インクルージョン(受容性)、アクセシビリティ(アクセスのしやすさ)、精神的サポートなど、既存の課題を悪化させる可能性があります。社会的接触を自粛する最中、互いのつながりを維持するためには以下のような秘訣があります。

  • リモートワーク時のチーム全体の包括的管理には労力が要求されます。すべてのチームメンバーの声が届くように、事前に期待されていることや議題を伝え、電話会議で参加者に存在感を示すよう促し、コメントや質問をしてもらい、コールの合間にディスカッションできるようハングアウトやチャット機能を設定します。チームのシニアメンバーには積極的に発言し他者の意見を受け入れるよう事前に指示します。世間話で打ち解けた雰囲気を作り、参加者の関与の度合いを把握しましょう。
  • リモートでの電話会議を行う場合、会議の再設計が必要です。電話会議は、対面の会議に割り振る時間の半分に設定します。資料を事前に配布することで、内向的な人が参加する準備ができていると感じられるよう工夫します。少人数のグループでの準備と会議終了後のフォローアップは、チームスピリットを構築するために不可欠です。このように新しい会議ルールを設定しましょう。
  • ビジネス上の議題に注力するだけでなく、参加者の感情面のケアをする時間を確保しましょう。電話会議の始まりと終わりに数分かけて、参加者の気持ちをヒアリングしましょう。チャット機能を使用したパルス調査(短時間で完了する簡易調査。脈拍のチェックをするように、組織と個人の関係性の健全度合を測ることを目的とする)を行う(例:「今話したことについての感想を一言でお願いします」)を通じて、参加者の状態をチェックすることができます。直接会わなくても、マネージャーには電話で連絡できることを伝えます。特にリモートでの作業に慣れていない従業員に対しては、新旧のテクノロジー(電話やビデオ会議サービス)を使用し個人的なコミュニケーションをとり、メールやチャットだけが唯一のコミュニケーション手段にならないよう配慮します。またオンラインでのやりとりは、正しく管理されないと過剰になることもあるため、注意しなければなりません。またコミュニティサイトやプロジェクトボードを活用し、つながりを保つ最適な方法についてトレーニングをすることも有効です。当社の調査では、従業員の22%が、リモート環境により、必要な人との交流が幾分失われたと考えているため、やりとりの中で温かみやちょっとしたユーモアを交えると良いでしょう。

 

新型コロナウィルス対応として社会的接触が自粛される中、多くの企業が自社のデジタルツールを使用した実務体験(デジタルワーク体験)を見直しているのは当然です。経営幹部の47%は、従業員のデジタル体験、あるいはデジタル体験がないことによる体力、気力の低下を懸念しています。ほぼ半数の従業員が、デジタル変革に改善の余地があると考えています。現在、従業員の20%が人事プロセスは複雑だと回答しており、さらに29%が人事プロセスは簡素化されたもののまだ課題克服への道のりは長いと述べています。長期的には、企業のEVP(従業員価値提案)を再検討し、テクノロジーに対応した人事プロセスが現在どのようになっているか、また大量のリモートワークに対応するための作業ツールがどれほど有効に機能しているかを調査することが重要です。その際、サービスナウ、マーサーのモビリティ・マネジメント・プラットフォーム、およびデジタル・アウトプレースメント(再就職支援)ソリューションなどのサービスプロバイダーが役立ちます。

 

何をどのように配慮するかが勝因となる

 

従業員が家族や地域社会の健康状態に関心を持つのは当然のことです。そして、企業も当然ながら従業員の健康を第一に考えています。しかしながら、不安定な金融市場と個人の仕事への影響は人々の心に重くのしかかっており、その懸念は増大しています。一方、企業は、自社のプラクティスが新型コロナウィルスのような予測不可能な出来事に耐えうるほど機動的であるかどうか、この困難な時期を乗り切るだけの回復力があるかどうか、そしてその後の需要を創出していくだけの革新性があるかどうかを検討しています。今後企業の大小を問わず、新しいプラットフォームや最新テクノロジーを使用し、今までとは異なる方法で物事を遂行しなければならないという課題に直面しています。そして、お互いを気遣う新たな方法が出現しています。この変革後、私たちは以前の方法論には戻らないでしょう。必需性は革新を生みます。今社会は新しい働き方と生き方の幕開けを迎えようとしています。それに向き合いあらゆる手段を実践していけば、私たち一人ひとりの輝かしい未来を築けるでしょう。

Kate Bravery
by Kate Bravery

Global Advisory Solutions & Insights Leader at Mercer