グループ会社統合における人事 - コンサルタントコラム 618 | マーサージャパン

グループ会社統合における人事 - コンサルタントコラム 618 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 618

グループ会社統合における人事

猪瀬 行広
 

執筆者: 猪瀬 行広(いのせ ゆきひろ)

グローバルM&Aコンサルティング シニア コンサルタント

企業戦略の実現手段として、合併・買収といったM&Aは定着しつつある。国内企業による海外企業の買収のニュースを非常に多く目にするようになった。国内でも、M&Aは堅調に推移している。特に、グループ経営体制の強化を目指したグループ会社の統合も盛んに行われている。グローバルマーケットへの本格的な進出の流れが進む中で、国内のグループ会社のあり方の見直しに入っていることも要因の一つと考えられる。

グループ会社の統合を決定する要因は、グループガバナンスの強化をはじめとして、経営資源の有効活用、技術・ノウハウの融合による新規ビジネス創出などの積極的な理由によるもの、業績不振企業の救済を目的とした消極的な理由によるもの、積極的・消極的理由の混在するものなど様々である。

いずれの場合においても、最終的に統合により何を求めていくかという点では、グループ経営の効率アップ、業績(売上・利益)の向上に集約されると考えられる。

期待される統合効果 統合効果創出のための施策例
グループ経営の効率アップ
  • 統合会社の役割を明確にし、権限委譲を通じた意思決定のスピードアップ
  • グループ内で担う特定機能の品質向上
売上の向上
  • グループ各社の強みである技術・ノウハウを組み合わせた新規事業開発
  • 全国に点在する販売会社の再編による販売機能強化
利益の最大化
  • 間接機能の合理化による人件費削減
  • 仕入先や得意先などの取引先管理の強化と調達コスト削減
 

期待される統合効果と実現に向けた施策の一例を上表にまとめているが、統合効果のどこに重点を置くかによって、人材マネジメントの方向性も異なってくる。例えば、人事における対応では次のことが考えられる。

  • 統合会社の役割を明確にし、権限委譲を通じた意思決定のスピードアップを目指す。
    [対応例] マネジメントの変革を積極的に推進できる幹部社員を子会社社員から継続的に輩出していくために、幹部育成制度の充実を図る。
  • グループ各社の強みである技術・ノウハウを組み合わせた新規事業開発を目指す。
    [対応例] 社員のチャレンジ意欲を喚起していくために、評価制度におけるチャレンジに対する加点要素を拡充したり、報奨金制度を用意していく。
  • 全国に点在する販売会社の再編による販売機能強化を目指す。
    [対応例] 柔軟な人員配置を可能とするために異動をスムーズに行うための仕組みを整備する。

 

グループ会社同士でもすべてが同じとは限らない

同一企業グループの子会社同士の統合では、全く異なるグループの企業同士の合併に比べると、同じ企業理念のもとに運営されているため、一般的には、統合作業は難易度が低いと考えられている。確かにやり易い部分も多いが、同一企業グループに属していたとしても、同じ部分と違う部分は存在するため、その点ではグループ会社同士の統合かどうかにかかわらず、同様な議論が必要となる。

違う部分はどのように合わせていくのかの議論は当然必要であり、同じ部分についても、新会社の方針次第で、そのままでよい場合もあれば、見直しが必要な場合もある。

組織・人事面では、担っている会社のミッション、設立背景・沿革、人員構成、出向者への依存度、賃金項目、就業条件、労働時間管理、賃金水準等において、違いがあるケースが非常に多い。これらの違いに対して、新会社目線で統合の目的に適った人事制度を検討することが重要となってくる。

賃金水準差への対応の実務

人事制度の統合においては、検討すべき事項は多岐に亘る。なかでも、統合される会社間で賃金の水準差が存在する場合は、社員の処遇そのものに影響するため、新会社としてどのように対応していくかは、最も困難なテーマのうちの一つといえる。

賃金水準の差異へどのように対応していくのか、ここでは、地域による水準差を設定するケースを例に、簡単に紹介させていただく。

 <地域による賃金差を設定する例>
 基本の方針として、同一労働同一賃金の方針を基軸に置きつつも、各地域の物価差(特に住居にかかわる費用)に起因する生活費の差を賃金水準に反映する。

この場合、賃金の支給項目は統一するものの、水準差を何かしらの方法で設定することになる。水準差を設定する方法にも様々あるが、例えば次の方法が考えられる。

  • 基本給・賞与ともに地域差を設定する
  • 基本給を地域別に設定する
  • 地域給を設定する など

なお、上記の方法を検討するに至るまでには、当然のことながら、新会社の人員配置や育成に関する人材マネジメントの方針を策定し、地域差を全社員に適用するのか、あるいは特定の層(階層や職種)のみに限定するのかについて検討しておくことが必要である。また、検討の場では「地域差なんてあるのか? 実際、コンビニとか自動販売機とかの商品の値段は全国一律ではないか」、「いやいや東京では住宅費用が非常に高い」、「でも、東京は流通業の競争が激しいため、かえって安く買い物ができることがあるのではないか」などの議論が巻き起こることになる。水準差設定手段のいずれかを問わず、新制度導入後に社員からこのような意見が出てきた時に、社員が納得する地域差設定の根拠を明確に示すことが重要となってくる。

最後に

グループ会社の統合に伴い導入する人事制度は、制度の内容もさることながら、運用を通じて、統合目的の実現をサポートするという位置づけに対する理解と納得感を引き出すことが重要であると考える。また、出身会社の違いに起因せず、新会社への貢献に対して適切に報いていくことは、新たな人事制度が浸透していくことにもつながるものと考えている。

  購読フォーム

隔週でマーサーのコンサルタントが執筆する記事をメールにて配信いたします。コンサルタントコラム一覧

マーサーニュースレター
*必須項目