国民医療費削減のためにウェルネス・プログラム導入を - コンサルタントコラム 623 | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 623

国民医療費削減のためにウェルネス・プログラム導入を

渡辺 優華

執筆者: 渡辺 優華(わたなべ ゆか)

保健・福利厚生コンサルティング / Mercer Marsh Benefits
コンサルタント

7年前、新卒で米系金融会社に人事として入社したころ、福利厚生制度の一部として医療補償を導入することを検討するよう米国本社人事から連絡がありました。米国では公的医療制度の提供が低所得者・高齢者向け制度を除いてほぼ皆無のため、優秀な人材を確保するために企業が最も重要視しているのが医療補償だからです。米国本社人事は、日本支店にも同じ制度をと考えたようですが、その当時私は「日本では公的医療制度が充実しているから企業が上乗せで医療制度を導入する必要はない。」と回答しました。現在、福利厚生制度コンサルタントという立場になり、もう一度前職の会社にアドバイスする機会があれば「企業の福利厚生制度の一部として、医療補償にとどまらず、社員の健康維持を目的とした制度の導入を検討すべき」と伝えたいと思います。近い将来、日本の公的医療制度は「充実している」と言えなくなってしまう状況にあり、企業としても対応を迫られる可能性があるからです。

超高齢化社会である日本の2011年度の医療費は過去最高の38.6兆円(前年比3.1%増)となり1、これは社会保障費全体の3分の1の金額を占め国の財政を圧迫しています。このままのスピードで上昇すると近々40兆円を突破すると予測されており2、この上昇を抑える対策が早急に必要となっています。医療費の上昇を抑え、財政の健全化を図るためには、健康保険料率の引き上げと医療保障の質を下げることになりますが、この動きはここ数年すでに始まっています。2012年度健保組合予算早期集計結果によると、納付金・支援金の割合は保険料に対して46.2%と健保組合の財政を圧迫し、その結果、現在8割強の健保組合(1,276組合)が赤字になっています3。そのうち過去最高となる4割の健保組合が保険料率を引き上げることにより赤字幅の改善を図りました。また、一部の健保組合では、傷病手当金の延長給付の廃止など、法定で定める補償に対する上乗せ給付の廃止が行われました。それでも今後医療費の支出が増え続ければ、保険料率はさらに上がり、上乗せ給付等の補償レベルが下がることになります。

2) 日本経済新聞 (2013年11月15日出版)

また2013年11月の厚生労働委員会で、70歳~74歳の医療費自己負担割合の特例措置を延長しないことが可決され、70歳~74歳の医療費自己負担割合は現在の1割から2割に引き上がることになりました。将来の年金受給額の減少及び受給開始年齢の引き上げについては、近年よく話題になっていますが、“年金だけではなく、医療費も自分で蓄えておかないと・・・”と私のような世代は、将来にかなり悲観的になってしまいます。

上昇を続ける医療費を少しでも抑えることが日本社会における大きな課題となっていますが、ここに企業として貢献できるのがウェルネス・プログラムです。ウェルネス・プログラムとは、企業が独自で実施する、まだ病気になっていない健康な個人を主に対象とした健康維持・増進および病気予防を目的としたプログラムです。ウェルネス・プログラムによる従業員及びその家族の健康に対する投資を行うことにより、医療費関連コストの抑制および従業員の生産性向上のために効果的であると考えられており、医療費がGDPの20%を占める米国ではすでに77%の企業が実施しているといわれています4

4) National Association of Manufacturers, the ERISA Industry Council and IncentOne "Executive Brief Employee Health and Wellness & Disease Management Programs: The Use of Major US Employers" (2008年)

また  具体的には、企業内ジムの設立、社内メディカルスタッフによる健康アドバイス、ウェブ上で行う食事のカロリー計算、喫煙室の廃止等様々です。従来日本ではこういった社員向けの健康管理アドバイス等は健保組合が担ってきました。しかし、急速な高齢化に加えて昨今の健保組合の財政状況では、健保の付帯サービス・プログラムを充実させることには限界があります。そのため、今後はぜひ多くの企業に、健保に代わってウェルネス・プログラムを設立・管理し、加入している健保組合の財政改善に協力してほしいと思います。

現在日本では、大手企業が率先して企業内ジムや健康を意識したメニューを出すカフェテリアの設立等を始めています。ジムやカフェテリアの設立のような大がかりな施設の設立等は、予算の面からほとんどの企業には難しいのが現状ですが、お金をあまりかけずに実施できる制度もたくさんあります。たとえばジム・スポーツクラブ会員費の一部負担、禁煙に成功した社員に対する食事券・図書券発行、社員及び家族を含めたスポーツ、ハイキング等の集まり、メンタルヘルスのための職場環境の向上(仮眠室等の設置)等。また、チームで「健康ポイント」を集めて商品をもらうというゲーム感覚の制度を作った日系の会社もあると先日テレビで特集されていました。このようなプログラム・補助の実施による効果は社員一人一人の意識を変えることだと思います。「ジム会員費の補助がインセンティブとなり、普段健康に対する意識の低かった社員がジムに通いだし、せっかく鍛えた体をキープするために食事にも気を遣いはじめる」というのはよくある話だと思います。日本人の寿命は世界トップクラスですが、健康である期間を指す平均健康寿命は、平均寿命より約10歳低いという結果があります5。若いうちから健康に関心を持って運動や食事に気を遣うことは将来の病院にかからない身体づくり、ひいては医療費の無駄を抑えることに必ず効果があると思います。

5) 厚生労働省 「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」(2010年)

また、ウェルネス・プログラムにより社員の健康を維持することは健保組合だけでなく、企業への直接的なメリットがあります。病気・治療のために社員が会社を休職・退職することによるビジネスリスク及び新たな採用にかかる費用を考えれば、健康維持のためのプログラムに予算を割くことは企業にとって最終的にプラスになると思います。

正直、ウェルネス・プログラムによる劇的な医療費削減効果はすぐには表れないと思います。しかし、医療費増加の問題は既に一国の力の限界を超え、社会保障制度としても限界に近くなっている状況の中、一企業・一社員レベルでの医療費の削減に対する貢献が今まさに求められているのではないでしょうか。

と偉そうに書きましたが、私自身、年末に2回もひどい風邪をひいて、すっかり医療機関のお世話になってしまいました。今年は日本の医療制度継続のために体調管理を万全にしたいと思います。