外資に買収されるのは不幸か~クロスボーダーM&Aの現場で想うこと - コンサルタントコラム 634 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 634

外資に買収されるのは不幸か~クロスボーダーM&Aの現場で想うこと

午前7時、コーヒーを飲みながら新聞を開く。毎朝の変わらぬ習慣。突然飛び込む自社の社名と売却の二文字。貴方の会社がある日突然外資企業に買収されると知った時、貴方はどのような反応をされるだろうか。筆者はM&Aにおける組織・人事領域のコンサルティングを12年近く行っている。外資による日本企業・事業買収、JV設立等の支援も行っているが、一般的にネガティブイメージを持たれることが多い。しかし、ポジティブな側面もあることを知ることは有用だ。

外資企業による日本企業の買収といえば、1998年~2000年代半ばの外資系バイアウトファンドによる買収案件をモデルにした小説『ハゲタカ』が2004年に刊行され、2007年にはNHKのテレビドラマになり、2009年には映画化もされている。最近はあまり耳にしなくなったが、外資系バイアウトファンドが一括りでハゲタカファンドと称された時期もあり、外資による日本企業買収の固定概念を一定程度形作ったことは否めないだろう

外資による日本企業買収についての社員の共通のイメージとは、すぐに解雇されるのではないか、成果が上がらないと処遇が切り下げられるのではないか、事業がうまくいかなければすぐに撤退するのではないか(従い解雇になるのではないか)、といった処遇についての不安に関するものが多い。また、愛着のある社名やブランドを失うことへの抵抗や、上司が外国人になることへの抵抗もある。

弊社は外資企業による日本企業・事業買収の際に、買い手側の支援を行う場合と、売り手側の支援を行う場合とがある。転籍する社員にきちんと対処したい売り手と、社員をモチベートしてビジネスの成果を効果的に創出したい買い手とで、同じゴールを共有していることが多い。売り手の日本企業のアドバイザーとしては、セラーズデューデリジェンス(DD)で組織や人材の価値を買い手に伝え、雇用や処遇水準の維持に加え、人材マネジメント上維持すべき要素等を買い手と交渉する支援を行う。また、クロージング後に新オーナーと新組織・会社の目線で始動準備、シナジー創出に向けた組織・人事タスクを協働していくこともある。

買い手の外資企業側のアドバイザーになる場合は、デューデリジェンス(DD)の際に日本の人材マネジメントの特徴を分かりやすく伝えたり、被買収企業の労使慣行や日本の労働慣行を踏まえた転籍アプローチのアドバイスを行ったりすること等に留意している。M&Aの対外発表前には、社員の方々の不安を除き、期待を高めるようなメッセージやFAQを被買収企業のディール関係者や広報、人事の方々とも協働しながら最終化し、直前まで日本語と英語での一言一句のレビューとアップデートが続く。

筆者自身、買い手側外国企業のアドバイザーを経験する中で、日本企業側の社員にとってポジティブな側面があるとの思いを強くしている。この度、買い手側米国企業の事業のトップが、マジョリティの投資を行う日本企業の一事業の社員数名にインタビューをする場に同席する機会があった。入社時から今までの経歴や経験を尋ね、一人一人の話に聴き入る。そこには出身母体の違いで軽んじたり、年齢で判断したりという日本企業特有の色眼鏡はなく、正当に実力を評価する姿勢があった。新しい事業の話で心が通う場面や、努力を評価し、それに対して感謝する情緒的な瞬間もあった。社員一人一人が新たな環境でポジティブにパフォーマンスを早期に最大限できるよう買い手は留意すべきだし、弊社もその実現に向けて支援をしている。

一方で、外資の所属になる社員自身も、新たな環境に早期に適応し、新たな環境で自身の能力を発揮していくことが重要と考える。「リ・スキル*」はその一つの重要なコンセプトである。「リ・スキル」とは、個人が年齢に関わらず成長することを志向し、新たなスキルを身につけたり、経験領域を含むより広い領域で保有するスキルを活用したりすることによって、個人として生産性や競争力を高め、より大きな価値を生み出すことができるようにすることである。例え会社に対する愛着が強くても、やりたいことが実現できなくなってまで社内で雇用され続けることが本当に幸せか。ボーダーレスな事業環境での新たなチャレンジをチャンスと受け入れ、自ら変革するマインドを持ちリ・スキルを成功させる人が出てくるよう、弊社も支援していきたい。

* 先般マーサージャパンでは、2014年1月に世界経済フォーラムの年次総会で報告された"Education & Skills 2.0 : New Targets and Innovative Approaches"のうち、日本における中高年人材活用の課題と解決のための提言の元となった、30社を超える日本企業・団体のヒアリングを含む調査・分析から「リ・スキル(Reskilling)」というキーワードを見出した。