「ストレスチェックの義務化」について - コンサルタントコラム 668 | マーサージャパン

「ストレスチェックの義務化」について - コンサルタントコラム 668

コンサルタントコラム668

「ストレスチェックの義務化」について

執筆者: 田中 建太朗(たなか けんたろう)

保健・福利厚生コンサルティング / Mercer Marsh Benefits
クライアント エグゼクティブ

いよいよ今年の12月より50名以上の事業所(企業)において従業員のストレスチェックが義務化1される。この義務化の背景は、精神障害を理由とする労災の請求件数が平成25年度に1,409件(前年度比152件増)と過去最多を記録したことで、企業として雇用する従業員のストレスチェックを実施してメンタルヘルス不全の従業員を見つけ出し、早期に対応することによってメンタルヘルス不全による休職者や自殺者を減らしていこうというものである。

ストレスチェックが義務化されると企業として必要となる対応は以下の3点である。

【従業員に対するストレスチェックの実施について】

  1. 医師、保健師などによるストレスチェックの実施
  2. 従業員から申し出があった場合に、医師による面談を実施
  3. 医師による面談の結果に基づき、医師の意見を聞きながら、必要に応じて就業上の措置を講じる

では、1 から3 の内容について、厚生労働省の『ストレスチェック制度に関する検討会報告書』(平成26年12月17日付)を用いてさらに具体的に見ていこう。

1. 医師、保健師などによるストレスチェックの実施

  • ストレスチェックの実施主体は、医師、保健師及び一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士とされている。厚生労働省は、「(ストレスチェックの)実施者には、事業場(企業)の状況を日頃から把握している産業医等がなることが望ましい」としている。
  • ストレスチェックの頻度としては、年に1回以上とされている。
  • 従業員がストレスチェックを受けることは義務ではなく強制はされない。
  • ストレスチェックに用いる調査票は、「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」及び「周囲のサポート」の3つの領域を全て含むものとされる2

2. ストレスチェックの結果、高ストレス状態など一定の要件3を満たした従業員から申し出があった場合には、医師による面談を実施しなくてはならない

  • ストレスチェックの結果は、従業員本人の同意がない限り企業には提供されない。
  • 面談を実施する医師は、精神科の専門医である必要はない。厚生労働省は、「面接指導は、労働者から申出があった後遅滞なく行うことが適当であり、当該事業場(企業)の産業医等が実施することが望ましい。」としている。
  • 従業員本人が面談を申し出たことを理由とする不利益な取り扱い4は禁止される。

3. 医師による面談の結果に基づき、医師の意見を聞きながら、必要に応じて就業上の措置を講じなくてはならない

  • 医師による面談を経ず、ストレスチェックの結果のみで就業上の措置を講じることは不適当。



この中で筆者が気になる点は、厚生労働省がストレスチェック及びその後の面談の実施主体として精神科の医師ではなく産業医が望ましいとしていること、そして、「不利益取り扱い」が禁止される範囲が条文上不明確なことである。

まず前段について、確かに産業医はストレスチェックの実施者としては妥当と言えるかもしれないが、面談の実施主体としてはどうだろうか。

というのも、産業医は広く従業員の健康保持とそのための措置を講じるジェネラリストであることを役割として求められており、精神科の専門知識の有無は問われていない。

そもそも、メンタルヘルス不全を症状とする精神病の診断は専門医でも容易ではなく、医師によって異なる病名の診断が出てくることも少なくない状況を考えると、企業の様子を良く知る医師であるというだけで産業医を面談の実施主体として定めてしまうことにはリスクがあるといえなくはない。

厚生労働省も、一義的には産業医を面談主体として推奨しつつ、相談窓口を広げて相談しやすい環境を作り、適切な対応を行なっていくために保健師、看護師等と連携した相談対応を行なうことも併せて推奨しているが、筆者としては、むしろ最初から外部の専門家(専門の医療機関やEAPサービス会社)を活用するという形にした上で、面談はメンタルヘルスの専門家が実施するというのが有効ではないかと考えている。

もちろん、外部の専門家に依頼をすると追加のコストがかかることにはなる。しかし、たとえばGLTD5という保険契約には無料のEAPサービスが付帯していることが多く、こういった付帯サービスを上手く活用していくことで、外部の専門家に依頼するコストを低く抑えることができるかもしれない。

また、後段について、改正労働安全衛生法では医師との面談を申し出た従業員への不利益な取り扱いについて条文で明確に禁止されているが、以下のような場合はどう扱われるのだろうか?

  • ストレスチェックを受けないことを理由とした不利益取扱い
  • ストレスチェック結果の提供に同意しないことを理由とした不利益取扱い
  • 高ストレスと評価された労働者が面接指導の申出を行わないことを理由とした不利益取扱い
  • 面接指導の結果を理由とした不利益取扱い
  • 医師の意見と著しく内容・程度の異なる措置(労働者の不利益となるもの)を講じること



こうした不利益取り扱いに関する点がやや曖昧になってしまっていることで、もしかしたらストレスチェック制度の導入自体が従業員にストレスを与えるようなことになってしまうかもしれない。

そうした事態を避けるためにも、ストレスチェック制度の導入に際しては、イントラネット等にストレスチェックの実施内容等を掲載するだけにとどめるのではなく、従業員への説明会を開催して制度の目的と不利益な取り扱いは無い旨、企業としてしっかりとコミュニケートしていく必要があるだろう。

我々はベネフィット・コンサルタントとして、従業員が抵抗を感じることなくストレスチェックを受け、気兼ねなく面談を希望することが出来るような有益な制度の設計と環境の構築について企業を積極的にサポートしていきたいと思っている。

今回の労働安全衛生法の改正については、国がメンタルヘルス不全の対策に一歩踏み込んだこと自体は評価できるが、ストレスチェックを義務化してメンタルヘルス不全の従業員を減らすことが出来るかどうかは結局実施主体である企業の対応次第であることは間違いない。また、法制化されたのは最小限の内容だとはいえ企業にとって様々な対応が求められることも事実である。

ストレスチェック制度は今後の運用状況を見ながらより良くなっていくものであろう。ただ、せっかく本年12月の導入時にコストをかけるのであれば、筆者としては最初からより従業員のためになる形の制度導入を検討しても良いのではないかと思っている。

なお、ストレスチェックについては下記の厚生労働省のサイトで実際に体験することが出来る。回答にはさほど時間はかからないので、ためしに受けてみてはいかがだろうか。
「5分でできる職場のストレスチェック」

<注記>
1 義務化されるのは50名以上の事業場(50名未満は努力義務)である、50名以上というのは産業医の選任条件と同じ条件である。
2 ストレスチェックの具体的な項目数や内容は、事業者自ら選定可能であるが、国は調査票について「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の利用を推奨している。
3 「一定の要件」の内容については、省令で今後定められる予定。
4 面接指導の申出に対する不利益取扱いは法律の明文で禁止されている(法 第66条の10 第3項)。
5 GLTD(団体長期障害所得補償保険)・・・メンタルヘルス不全などにより働けなくなったとき(就業障害時)に一点の割合で所得の喪失を補填するための保険である。GLTDの保険金支払の約7割は、メンタルヘルス不全による就業障害を請求原因とする支払であることは興味深い。

<参考資料>
精神障害に関する事案の労災補償状況-平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(厚生労働省)
「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書」(厚生労働省)
「職場環境とストレス」(WHO)

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