アジア各国の起業のしやすさ - コンサルタントコラム 675 | マーサージャパン

アジア各国の起業のしやすさ - コンサルタントコラム 675 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 675

アジア各国の起業のしやすさ

執筆者: 片岡 匠(かたおか たくみ)

プロダクト・ソリューションズ
シニア コンサルタント

先日久しぶりに、新卒入社した会社の最初に配属された部署の先輩方と食事をする機会があった。近況報告を交わしつつ、楽しく食事をしていたが、ふとした時に、他の同僚、先輩が今何を行っているかについての話となった。

元々私が入社したその会社は、大半が30代~40代にかけて退職し、それぞれの道を歩む。そのため、未だにその会社で当時と同じ事業に携わっている方は、非常に限られている。

一方で、非常に多かったのは、現在起業(独立した個人事業主を含む)している方の数だ。その数、ざっと約50名。事業内容も組織の規模も様々である。人材教育や人材紹介などのビジネスが比較的多いのだが、他にもネット関連事業を行い、社員数100名を超す上場予備軍とされる企業の経営者から、コーチングやトレーナー、社労士などの士業やコンサルタントとして個人で活動している方まで多種多様だ(変わったところでは、県議会議員などの政治家や歌手などもいる。これもある意味、個人事業主)。

なお、その中でも特に注目したのは、活動拠点の多様さである。圧倒的に日本国内が多いが、海外で活動している方も想像以上に多かった。カンボジアでBPO業、ミャンマーで海外進出支援コンサルティング、タイで不動産業、上海で教育事業、シンガポールでネット起業、ベトナムで製造業・・・と地域としては、アジアが多い(変わったところでは、グアテマラやモロッコ、ケニアなどでも活動しているなど、文字通り世界を股に掛けて活躍している方々が多い)。なぜアジアなのだろうか?

世界銀行が毎年発行している「Doing Business (ビジネス環境の現状)」にはStarting a Business (起業のしやすさ)という項目がある。この調査対象になっている国は、世界189カ国で、起業する際の会社設立に関する規則や制度、手続きに掛かる時間などの比較を行い、ランキングを作成している。表1はこれらのうち、日本とアジア各国の比較を示している。

表1
国名 総合評価 起業のしやすさ
Singapore 1 6
Hong Kong 3 8
South Korea 5 17
Malaysia 18 13
Taiwan 19 15
Thailand 26 75
Japan 29 83
Vietnam 78 125
Philippines 95 161
Sri Lanka 99 104
Indonesia 114 155
Cambodia 135 184
India 142 158
Myanmar 177 189

Source: World Bank "Doing Business"より作成

アジアでは、シンガポールが総合評価1位、起業のしやすさでは6位となっている。多くの方がご存知のとおり、税制面での優遇や英語での仕事のしやすさなど、シンガポールにはビジネス環境として魅力的な要素が多々ある。一方、シンガポールはオフィス賃料や人件費が他のアジアの国々と比べても高いため、一般的には資本力の乏しい起業初期に本当に起業に適しているかは判断が分かれるだろう。この調査だけで一概に全てのケースの起業のしやすさを断定することはできないが、それでも起業環境の容易さを測る一指標としてみると、様々なことが読み取れる。

例えば、日本の場合、総合評価では29位だが、起業のしやすさでは83位と大幅に順位を落としている。一般的には、日本のビジネス環境の良さとしては、治安や政情の安定性などの環境面や一般従業員の教育水準の高さ、勤勉性などが挙げられる。一方、外国人が日本で起業することを想定した場合、言語の問題や商習慣の違い、解雇要件や税制の問題が壁となり、必ずしも魅力的な起業環境とは考えられないかもしれない1、2

1) 総合評価は以下の10指標の合計で測られている(括弧内日本語は、筆者訳)。

  1. Starting Business (起業のしやすさ)
  2. Dealing with Construction Permits (建設許可の取得)
  3. Getting Electricity (電気の使用)
  4. Registering Property (財産の登記)
  5. Getting Credit (クレジットの利用)
  6. Protecting Minority Investors (マイノリティ投資家の保護)
  7. Paying Taxes (納税)
  8. Trading Across Borders (国境を越えた貿易)
  9. Enforcing Contracts (契約履行の強制)
  10. Resolving Insolvency (支払不能に関する問題の解決)
2) 起業のしやすさの順位を測る指標には、起業時の手続きに関する時間やコスト、管轄官庁の承認の取りやすさや最低資本金の要件などがある。言語、商習慣の違い、解雇要件、税制などは含まれていない。

 

起業後、事業を拡大するにあたって人も増えていく訳だが、同じ役割を担う人材でも国によって給与には大きな差がある。表2はSales Manager(営業マネジャー)の給与について、日本とアジア各国の比較を示しているが、例えば、日本とインドネシアでは同じ営業マネジャーでも2倍以上の差がある。また、日本とカンボジアでは5倍近い差が生じている。これらの人件費の安さを目的に起業をすることも現在では少なくないであろう。

表2

Source: 2014TRS
※為替は2014年1月~6月までの平均値にて換算
VN=Vietnam, ID=Indonesia, KH=Cambodia, TH=Thailand, MY=Malaysia, SG=Singapore, JP=Japan

ただし、これらのアジアの国々は経済成長率に伴い、給与の相場も毎年大きく上がっているため、今給与差があるからと言って、これからもその傾向が続くとは限らない。

国全体の成長率や物価の伸び率などはどうであろうか?

表3は各国の昇給率とGDP(国内総生産)、CPI(消費者物価指数)について比較を示している。

表3

Source: 2014TRS
※Average of salary increase medians from each employee category
VN=Vietnam, MM=Myanmar, ID=Indonesia, KH=Cambodia, PH=Philippine, TH=Thailand, MY=Malaysia, SG=Singapore, JP=Japan

高い国ではGDPが6%を、CPIが7%を超える国があるなど、高い経済成長と物価上昇の現象が起きているケースがある。一方、昇給率においてはベトナム、ミャンマー、インドネシアなどのように10%を超える国もあるなど、こちらも大幅に上昇している国が多く、経済成長と併せて人件費の高騰も生じていることがわかる。

なお、昇給率10%が仮に7年間連続すると、現在の給与から倍になる。5%であれば14年で倍となる。

先に営業マネジャーを例に、日本とインドネシアの比較を行い、現時点では2倍の差があると述べたが、過去の昇給率の変動状況を鑑みると、今後インドネシアの昇給率が急激に下がることは想定しにくく、日本との差は恐らく年々縮まっていくだろう。これは、他のアジアの国々の給与の昇給状況としても同じことがいえる。

つまり、現在は少なくない企業が人件費の安さを目的としてアジアでの起業を行っていることが想定されるが、今後はアジアの国々の給与相場が上昇するにつれて、そのようなタイプの起業は減少していくことが予想される。

翻って、日本の起業のしやすさを向上させる要素は何であろうか?世界銀行による調査においては、起業時の手続きに関する時間やコスト、官公庁等への許認可の取りやすさ、最低資本金などの要件などが測定指標になっているが、実態を鑑みるとこれらだけでは不十分かもしれない。特に他国との比較を行った時には、例えば、起業のしやすさだけに留まらず、グローバル企業の活動拠点として魅力的な要素を高めていくことが必要だと考えられる。

具体的には、事業開始時に留まらず、企業活動を行う際の様々な手続きを簡易に行えるようにすることや法人税率の見直しを含めた税制改革、海外企業を誘致するための経済特区、一層の規制緩和などの取組が求められるであろう。