中計の実現可能性は担保されているか? - コンサルタントコラム 683 | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 683

中計の実現可能性は担保されているか?

執筆者:吉田 継人(よしだ つぐと)

組織・人事変革コンサルティング
シニア コンサルタント

6月は3月期決算の企業にとっての定時株主総会のシーズンで、このタイミングで新たな中期経営計画を発表した企業も多い。コンサルティングという仕事柄、いろいろな企業の中計を見る機会が多いのだが、中計の中に人事戦略が書かれていることは稀で、書かれていたとしてもごくわずかな記述しかないことが多い。中期計画、事業戦略、数値目標を達成するための最も重要な要件の1つであるにも関わらずである。

「うちの会社は、中期での人事戦略はきちんと策定しているし、中計と一緒に要員計画も作っている」と反論されるかもしれない。しかしながら、実態はヘッドカウントコントロールや人件費管理という側面で捉えられることが多いのではないだろうか。

事業の主戦場が日本からグローバルに拡大して久しく、成長や利益の源泉が新興国に移っている例も少なくない。言うまでもなく事業計画を推進、実現するのは人材である。人材こそが企業のケイパビリティを体現し、競争優位の源泉となり得る。そうなると中計を実現するために必要なケイパビリティ、すなわちそのケイパビリティを担う人材が質、量ともに必要なだけ確保できるか、ギャップがあるならばどのように埋めるのかということが中計実現に向けて極めて重要になる。これは単に要員数を管理すれば良いという話ではない。

例えば、アジアでの状況を見てみよう。アジアに進出している企業は、多かれ少なかれ、「人材の質量の不足」を課題として抱えている。人材の“質”が不足しているような場合、社内で育成しようとしても実際には中計期間中に十分なレベルまで高め、成果を創出することを期待するのは難しい。そうなると外部から採用するしかないわけだが、アジアのような成長市場では、スキル、専門性の高い人材は少なく、確保するのは難しい。

皆さんは「人的資本指数(Human Capital Index)」というものをご存知だろうか。World Economic Forumが発表しているもので、2015年版では、年齢層別に5つのグループに分け、それぞれのグループの教育、雇用やスキルの水準などについて評価し、各国の人材育成能力を順位付けしている。

労働力人口の大半を占める25歳~54歳のグループで日本は5位にランクされている。同じ年齢グループでいくつかのアジアの国を見ると、マレーシアが42位、タイが57位、中国が61位、インドネシアが70位、インドが109位となっている。アジアでビジネスを展開されている皆さんの実感値と符合するところもあると思うが、当然ながら日本と比べると、アジアでは高い教育を受け、育成されたスキルの高い人材を確保することが難しい状況が見て取れる。
(レポートの詳細はこちらをご覧ください:http://reports.weforum.org/human-capital-report-2015/)

経済発展が著しく、企業にとっても成長のエンジンである中国や東南アジア諸国のような成長市場では、企業の事業計画を実現できるようなケイパビリティを体現できるスキルを有する人材は不足している。供給不足により人材獲得競争は過熱し、報酬水準は上昇する。場当たり的な対応では、思わぬ人件費の上昇をも招きかねない。必要なケイパビリティを獲得しようとするならば、成り行きではなく、緻密な計画に基づいて、現在と将来のケイパビリティギャップを埋める方策を検討する必要がある。

こうした課題に対して、多くの企業は現地の派遣員の努力によって対処することが多いが、本来は、人事が人的側面から中計の実現度を高める適切な支援を行わなければならない。人事に携わる皆さんは以下のポイントから中計の実現可能性を検証されているだろうか。

  1. 計画実現において重要な人材の質と量
    事業計画から、中計を実現していく上で必要な機能・業務を特定し、その機能、業務を担い得る人材のスペック(スキルや経験など)を人材要件に読み替える。その上で、財務数値を達成するために、どのような人材がどの程度の必要になるのかを算出する。
  2. 人材の適切なロケーション
    もう一つの視点がロケーションである。全社的に見れば計画を実現するのに必要なスペックを有する人材が十分な人数いるとしても、必要なロケーションに配置できなければ意味がない。国ごとの商習慣の違いにも配慮し、他の国から人材を異動する場合には、商習慣等の習得可能性と期間を考慮に入れた充足プランを立てる。
  3. 人材の投入タイミングとコスト
    中計は一般的には3年で、長くても5年で策定される。この時、必要な人材を内部育成で確保しようとするならば、短期に育成しなければならないということになる。必要な人材が適切なタイミングで育成できないのであれば、外部市場から調達しなければならない。コスト面でも、東南アジアのような成長市場では、人材供給の不足から人件費が上昇しているところもあり、計画上適正な人件費水準に収まるのか、検証と対策を含めたプランを立てる。

このような視点から検証して、必要な人員数と供給可能な人員数にギャップが生じることが見込まれる場合、内部調達、外部採用、リテンション、生産性向上といった各種施策に落とし込むことが必要になる。どうしてもギャップが埋められない可能性が高いときには、最悪の場合、戦略の見直しが必要になるかもしれない。

特に新しい領域への進出、これまでの戦略からの転換を志向するようなときには、ただ単に頭数を揃えるだけでは対応できない。「中計達成のため」という視点で見ると、人事施策が事業計画とどの程度連動しているのかが見えてくるのではないだろうか。

将来のことは誰にもわからない。しかしながら、事前に入念な準備と計画をしておくことで不確実性を最小化することは実現可能性を高める上で重要であることには変わりがない。