インドにおける現地役職員のリテンション上のポイント | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 693

インドにおける現地役職員のリテンション上のポイント

執筆者: 片岡 匠(かたおか たくみ)

プロダクト・ソリューションズ シニア コンサルタント

筆者は、主に日本を含む世界各国の役員・従業員の報酬、福利厚生、人事諸制度の構築や水準把握などを通じて多様な業種の会社・事業を支援させていただいている。特に、ASEANなどの新興国の案件に関与することが多いのだが、最近ではそのなかでもインドに関してのご相談を頂く機会が増えている。

在インド日本国大使館及びJETROが2015年1月に発表した『インド進出日系企業リスト』によると全インドにおける日系企業数の合計は1209社と2012年時点と比べて137社、13%の増加であった。

BRICSの一角を担うインドの経済成長は、中国に次ぐ世界第2位の12億人という人口が牽引している。今後さらに人口増加が見込まれることから、巨大な内需の勃興と中近東などへのハブ拠点としての外需に対する期待が高まっており、日本企業の進出も増加の一途を辿っている。

その一方で、現地採用の従業員とのコミュニケーション、他国とは異なるインフラの整備状況、言語や文化への対応、日本独自のビジネスモデルの展開の難しさなどから、インドマーケットの開拓の困難さを挙げる企業も多いのが実情だ。特にインドにおける人材の採用・リテンション(引き留め)は他の新興国以上の難しさがあるといっても過言ではない。結論から述べてしまうと、日本企業にとってインドにおける人材の採用・リテンションにおいてネックとなると考えられる点は以下の3点だ。

  • 優秀な人事リーダーの確保
  • 人事諸情報の整備
  • 人材獲得競争を勝ち抜くための報酬面の引き上げ

1つ目の優秀な人事リーダーの確保は、日本企業の多くで見られるように、日本人駐在員の社長や管理部長と現地スタッフとの間に入って、まさに人事業務全般を取り仕切る現地採用の人事リーダーを想定している。

インドにおいては、日本企業の本社で多く見られる職能主義ではなく、職務主義が徹底されており、取り組む仕事も欧米のようにジョブディスクリプション(職務記述書)で明示されていることが一般的だ。そのため、日本や他のアジアとは異なり、比較的欧米型に近い人事体系であるといえる。

また、たとえば、インド独特の人事プラクティスというようなものもある。表1)は各国の経理マネージャー職の報酬構成についての比較だが、他国に比べるとインドだけ、Allowance(手当て)の支給割合が突出して高いことがわかるであろう。これはインドでは、基本給に税金が発生する税制となっていることから、節税のためAllowanceの割合を意図的に高めるような報酬体系を従業員側が要望しているためだ。

瑣末なことのように思うかもしれないが、こうした現地特有の人事プラクティスへ精通し、日本人の幹部層と現地スタッフとの架け橋となって人事業務を取り仕切る人事マネージャーの存在が欠かせないといえるであろう。

第2・第3の人事諸情報の整備と人材獲得競争を勝ち抜くための報酬面の引き上げだが、これらはいずれもまずは現地の市場データを入手し、自社の実態と正しく比較することが第一歩である。たとえば、人事諸情報の整備を行う際には、グローバルな人事コンサルティング会社が実施している各種人事調査を使用して、その時々のマーケットデータを入手するケースが多い。表2)は弊社で実施している報酬調査のデータを基に、2013年~2015年のアジア各国の昇給率を比較したものだ。

ご覧頂くと日本が約2%前後の昇給率に対して、他のアジアではそれ以上となっていることがわかる。特にインドでは3年間でいずれも昇給率10%となっており、他のアジアの国と同等かそれ以上に給与の上昇率は高い。もちろん、実際に支払っている金額はまだまだ日本が高いケースが多いが、中国やシンガポール、タイなどにおいて、既に幹部層の報酬においては日本以上に高い報酬を払っているケースも出てきている。仮にインドにおいて給与の昇給率が現在の水準(10%)を維持し続けた場合、7年後の2022年には、現在の2倍の報酬水準となる。恐らく、インド現地採用者の中で、日本本社の同じ役職よりも高い報酬を得るケースも現れてくるであろう。

インドに限らずだが、日本企業が海外に進出した際に、こうした報酬水準の逆転現象を良しとせず、低い水準に留め置くことで、他の企業に人材獲得競争で負けてしまっているケースをよくみることがある。インドにおける退職率は12%と他のアジアの国と比べても高く、特に優秀な層ほどキャリアアップとより良い条件を求めて、転職することが一般的だ。一律に報酬を高く設定する必要はないが、特に幹部層や現場の主要ポジションにおいては、他企業と比べても遜色ない程度に報酬水準を積極的に上げていくべきであると考えている。

表1) 各国の経理マネージャー職の報酬構成

(出典) Mercer | Structure of Salary Around the World(2013)

表2) 2013-2015 アジア各国昇給率(2015年は昇給率予想値)

(出典) Mercer | Structure of Salary Around the World(2013)