安定しない運用機関のパフォーマンス‐スポーツとの比較 - コンサルタントコラム 695 | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 695

安定しない運用機関のパフォーマンス‐スポーツとの比較

小野 健史

執筆者: 小野 健史(おの けんじ)

資産運用コンサルティング シニア コンサルタント 日本証券アナリスト協会検定会員

「運用機関の選択においては、定量評価(=過去のパフォーマンス)よりむしろ、定性評価(=運用哲学、組織体制など)を重視すべきである」というのは、年金運用の世界ではよく言われていることである。その理由としては「過去リターンが良かった運用機関がその後もずっとリターンが良いということはほとんどない」ことや、「統計上、本当に能力のある運用機関を抽出するには、長期間のパフォーマンス実績が必要であり現実的でない」というようなことが実例とともに挙げられることが多い。この話を聞いて、次のように疑問を持つ向きもあるだろう。「スポーツでは、将来の成績は過去の実績と概ねリンクしていると考えられる。運用の世界は、スポーツといったい何が違うのか?」 この問いに対して私なりに回答してみたい。

1. 勝ち負けが定まる時間

スポーツにおいては、勝ち負けが定まる時間は明確である。サッカーであれば前半45分+後半45分、野球であれば9回の表裏が通常である。したがって、それが終了すると、勝ちもしくは負けが明確に決定することになり(たまに引き分けもあるが)、プレイヤーもそのことを十分認識している。一方、運用の世界では、運用機関(=プレイヤー)は本来は超長期をターゲットに運用しており、投資家がパフォーマンスの良し悪しを測る月次や四半期毎、年次などとはズレが生じている。このことは、運用機関の選択において定量評価がさほど有効ではない一因と考えられる。

2. 勝負の相手

スポーツにおいては、勝負の相手は目の前におり明確である。またその相手は事前に分かっていることが通常であり、前もって研究することも十分可能である。一方、運用においては、運用機関の勝負相手は同業他社ではない。勝ち負けは、マーケット、言い換えると市場全体の平均、に対する超過収益として定義される。マーケットには、運用機関以外にも、個人や企業、はたまた政府系機関などが、それぞれ異なる思惑・目的を持ちつつ匿名で参加しており、またその参加者の顔触れも時とともに変わる。したがって、打ち負かす対象であるマーケットそのものを高い精度で研究することはかなり困難であり、このことも、運用機関の選択において定量評価に重きを置くことができない一因であろう。

3. 勝負における制約条件

スポーツにおいて、プレイヤーは、定められたルールの範囲内で、自らの勝利のためにあらゆる手段を用いて全力で戦う。一方、運用においては、運用機関が超過収益獲得のために全力を注ぐという点では同様ながら、自らではなく、あくまでも投資家の利益を目的とし委託されて運用を行うという性質上、各種の制約条件が課されることが一般的である。制約条件の例としては、リスク・テイク水準の設定、一銘柄あたりの投資比率の上限の設定、原則フル・インベストメント(=キャッシュ保持の原則禁止)などが挙げられる。このため、運用機関は、自らがベストだと考える運用に対して、常に微調整を加えながらの運用を強いられているとも言え、このこともまた、運用機関の選択において定量評価がうまく機能しない一因であろう。

以上、運用機関のパフォーマンスが安定しない理由について、スポーツと比較してみた。もちろんこれらが全てではないが、運用機関の選択における定量評価活用の限界について、更に理解を深めていただけたのではないだろうか。なお、定量評価に限界があるとはいえ、過去リターンは全く参考にならないというわけではないことを申し添えておきたい。例えば、運用機関の標榜する運用方針と過去のパフォーマンスが整合的かということの確認は、運用機関の選択において大いに有用であると考える。

投資家の方々の今後の資産運用における一助となれば幸いである。