「オルタナティブ運用」という名の新世界 - コンサルタントコラム703 | マーサージャパン

コンサルタントコラム 703

「オルタナティブ運用」という名の新世界

小野 健史

執筆者: 小野 健史(おの けんじ)

資産運用コンサルティング シニア コンサルタント 日本証券アナリスト協会検定会員

金利は低位に張り付き、世界の景気に先行き不透明感が漂う昨今の市場環境において、投資対象として「オルタナティブ運用」を新たに加える、もしくは増額を検討される向きも多いだろう。一般的にオルタナティブ運用とは、従来型のいわゆる伝統資産の買い持ちとは異なり、投機格付債券や非上場資産、実物資産などへの投資や、売り持ちやデリバティブによる運用を含むものであり、これは広範な概念となる。したがって投資にあたっては、「グローバル市場のどこに投資機会を見出し、それをどのように収益化するのか」という点についてある程度整理することが求められ、その際には、利用可能な運用についてカテゴリ分けを行うことが有益である。そこで、このオルタナティブ運用という名の新世界を航海するための「海図」をご紹介したい。

図A: 運用市場概観
「運用市場」と「運用手法」の観点からの整理

伝統資産も含めた全ての資産を、縦軸に運用手法(現物証券の買い持ちのみか、または売り持ちやデリバティブによる運用を含むのか)、横軸に運用市場(先進国の上場株式または投資適格債券のみか、または投機格付債券や非上場資産、実物資産などのその他の市場を対象とするのか)として図示すると、伝統資産およびオルタナティブ資産は図Aのように表現される。
マーサーではオルタナティブ運用を、その特性に基づき、「(1) ヘッジファンド」、「(2) グロース債券」、「(3) 実物資産」の3つのカテゴリに分けているが、それぞれのカテゴリについて以下に解説する。

1) ヘッジファンド

「全ての運用市場」を対象に、「現物の買い持ちに加え、売り持ちやデリバティブも利用する」運用である。どのような市場環境においても常にプラス・リターンを計上することを目標としており、絶対収益型運用と呼ばれることもある。
その一例が株式マーケット・ニュートラルと呼ばれる運用である。この運用では、株式の買い持ちと同程度の売り持ちを実施する(例えば、市場全体よりも株価が上昇すると予測したX株を買い持ちする一方、市場全体よりも株価が下落すると予測したY株を、それと同程度売り持ちする)ことにより、個別株式に対する予測が正しければ、株式市場全体の上下に関わらず、プラス・リターンの計上が期待される。その他このカテゴリには、債券裁定、グローバル・マクロ、マネージド・フューチャーズなどが含まれる。

2) グロース債券

「主として投機格付債券や非上場債券」を対象に、「現物の買い持ちのみを行う」運用である。本来、安定的な収益確保を目的とする債券運用において、資産の成長(グロース)を積極的に狙いに行く運用であることから、グロース債券と呼んでいる。このような債券は、最も低リスク(=元本と利息の支払いが滞る可能性が最も低い)と考えられる国債に対して、クレジット(信用)リスクを上乗せでとる運用と捉えられることから、クレジット債券と呼ばれることもある。
リターンについては、クレジット相当分の上乗せリターン、つまり国債リターン+αを狙う。一例として、ハイ・イールド債券運用が挙げられる。ハイ・イールド債券とは、投資適格級より下位の投機格付の債券を意味し、格付が低い、つまりクレジット・リスクが高い分、期待利回りも上乗せされている。ただし、元本や利息の支払いが、遅延もしくは中止されてしまうリスクも相応に高い。その他このカテゴリには、バンク・ローン、エマージング債券などが含まれる。

3) 実物資産

「不動産、インフラ資産(有料道路、空港など)、天然資源(エネルギー資源、鉱山など)などの実物資産」を対象に、「受益権の買い持ちのみを行う」運用である。多くは非上場であることから上場市場の短期的な変動の影響を受けづらいことに加え、コンスタントにキャッシュ・フローを生み出す資産であることからも、安定的なリターンの計上が期待される。
またそのキャッシュ・フローは物価の変動を比較的スムーズに織り込む傾向があることから、インフレの際には、リターンもそれに追随することが期待される。

オルタナティブ運用を検討するにあたっては、既に投資し馴染みがある伝統資産と比較し、その違いを把握することで、運用内容の理解が深まると考える。 その際に、今回ご紹介した「海図」が一助となれば幸いである。