M&A案件の動向:事業売却における組織・人事領域への着目 - コンサルタントコラム719 | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 719

M&A案件の動向: 事業売却における組織・人事領域への着目

佐々木 玲子

執筆者: 佐々木 玲子(ささき れいこ)

グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル

当社M&Aチームは組織・人事領域を専門として、幅広い地域、案件タイプのM&Aにおいて、クライアント企業を支援している。案件は、その時々の経済・事業環境に応じて変化しており、過去を振り返っても、外資系による日本企業の買収、日本企業間の大型対等合併、日本企業による海外買収などの変遷を感じる。

最近はというと、日本企業による売却に関するご相談やご支援の機会が増えてきている印象を受ける。日本ではこれまで事業売却は失敗した経営の立て直し、事業承継上の問題、強者による弱者の救済といった、時に後ろ向きな文脈で売却が語られてきたが、全体的な事業ポートフォリオの組み替えといった、より戦略的な売却の色合いが強くなっているのではないかとみている。

そうした中、組織人事の領域で、なぜ売却支援をマーサーにご依頼いただくのかと改めて考えるに、3つの理由が思い当たる。

まず事業売却において、人事は主要課題となり得る。具体的には 1) 売却に伴う各国の年金等の切り離し方、2) 売却対象従業員を買い手に移籍させるための各種インセンティブの設定、3) 売却までの期間、現行従業員で事業運営を継続するための従業員のリテンション、4) 買い手に対して要求すべき、売却後の従業員の取り扱い等が該当する。それぞれ専門性が高い領域であり、かつ複数ヶ国で同時に検討を進めることが求められるため、クライアント企業は、高い専門性を有し、かつ案件に手慣れたアドバイザーに依頼するという意思決定をされているのだと考える。

次に、日本企業のグローバル化により、事業売却においても日本のみならずグローバル各拠点が対象となる。ところが、1) 日本で売却を主導しているチームの方々は、必ずしも各国・各拠点の人事の実態を把握されていない、2) 人事関連データが日本側で一元管理されていない、3) 事業拠点は各国内の複数の法人にまたがっており、同一国でも拠点別に制度が異なる等、人事面での現状把握は一筋縄ではいかない。各拠点の組織・人員・人事関連情報を効率的に収集・分析し、的確にその全体像をとりまとめ、売却プロセスにおける開示に備えるため、外部の力を活用されるのだろう。

また、組織・人事的な観点からどのように売却プロセスをマネジメントし、どのようなコミュニケーションを実施していくかは、売却を検討する企業にとって、中長期的なインパクトを持つ。売手側の組合や従業員は、今回の案件において売却される従業員がどのように処遇されるのかを注視している。売却は常時検討され実行されるが、社内の先例案件が将来的な検討における縛りとなることは十分考えられる。

各国の市場慣行に鑑み、妥当な移籍条件を設定し、しっかりと説明責任を果たすことは、売却される従業員が適切に買い手に移ることを促進するのみならず、後続の売却を控える従業員に対しても、不必要な不安や期待を醸成しないという観点から重要である。

グローバルな文脈における本事業売却の位置づけや、設定された移籍の諸条件の意味合いを熟知した組織・人事コンサルタントが、売却対象事業、対象外事業の組合・従業員等に対する全体的なコミュニケーション戦略の策定及び推進の舵取りをご支援する意義を、クライアント企業にはご認識いただいているのだろう。

当チームの担当案件の変遷は必ずしもM&Aの案件数、案件タイプに関する各種統計上の数値と一致していないかもしれない。というのも、各種案件の中でも特に難度が高いもの、重要性が高いもの、クライアント企業の内部リソースでは対応しきれないM&Aに関して、ご発注いただいている可能性が高いからである。しかしながら、現在の当社の案件状況は、M&Aの動向、特に質的変化を考えるにあたっての、一定の参考値になるのではないかと考える。