Cost of Livingにおける物価の差、どのようにみていますか? - コンサルタントコラム 721 | マーサー

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Cost of Livingにおける物価の差、どのようにみていますか?

Eaglesのメンバー、Don Henleyのアルバム『Cass County』の中に、「The Cost of Living」という曲が収録されている。歌詞を読んでみると、「生きることの代償」という意味のようだが、今日は「日々の生活に費やす費用=生計費」という意味での『Cost of Living』に注目したい。

在ロサンゼルス日本国総領事館が2014年10月に実施した在留邦人数調査では、約15,000名の在留邦人が居住していたカリフォルニア州サンディエゴ。ここには日本食料品が入手できる日系スーパーが数軒あり、その価格は実感として日本の1.2倍から3倍程度に設定されていた。この物価の差を派遣先の給与に反映させるのか、もしくは反映させないのか。

これは企業それぞれの考え方や判断ではあるが、社命として派遣していることを考慮し、社員に損をさせないよう物価の差を反映させている企業が多いのではないだろうか。ただし、日系スーパーの価格設定だけを参考にして、派遣先の給与を国内勤務時の給与の1.2倍から3倍に設定するかというと、おそらくそんなことはないだろう。

これはなぜだろうか?

物価の差を把握するには、何を、どれだけ、どのように比較するのかがポイントとなる。マーサーでは、国籍に問われずに母国ではない派遣先都市で合理的に生活ができる国際ビジネスパーソンの生活実態を想定した上で、日々の生活に消費する代表的な180品目を選定している。そして、国際ビジネスパーソンとその家族が一定期間一都市に滞在すると、経済的合理的なある一定の購買パターンに収斂するという長年の調査研究結果に基づき、品目毎にウェイト付けをしたうえで比較をしている。マーサーが自信を持っているのはこの点だ。

日本で生活していたスタイルをそっくりそのまま派遣先でも送ろうと考えるよりも、より身近でより安価なものを取り入れた合理的な生活スタイルに変わっていくことは、実は意外と自然なことではないだろうか。つまり、日系スーパーで日本食料品しか買い物をしないということではなく、ローカルのスーパーでも一定程度以上の頻度で買い物をするだろうということだ。そうなると、日系スーパーの価格設定だけを参考にして、日本と派遣先の物価の差を給与額にそのまま反映させることは、必ずしも購買力を補償するということにはならないだろう。

また、生計費というと日用食料品だけを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。確かに、毎日消費する品目の価格は目につきやすいが、日々の生活を考えてみると様々な領域の品目を消費していることに気付くだろう。

マーサーの日本人世界生計費レポート(Cost of Living Report)では10カテゴリー、180品目を3つの価格帯の店舗で調査しているが、日用食料品約70品目の他に、日用雑貨や外食、余暇、水道光熱費、交通費なども調査し、物価の差を指数には反映している。つまり、食料品の価格だけを参考にしていては、必ずしも十分ではないということだ。

この様な考え方に立ち、2016年3月に実施した調査結果をまとめた「日本人世界生計費レポート2016年春季版」(Cost of Living Report)が、この6月にリリースされた。マーサーが定期的に提供している日本と海外主要都市の物価の差を指数(Index)化したレポートであり、多くの日本企業がこのレポートを使用して、物価の差を反映した海外派遣者の派遣先給与額を決定している。

今回の調査では、円高により指数は低下しているが、派遣先のインフレ率 (1) が日本のインフレ率 (1) を上回った結果、半年前および一年前の調査時よりも現地通貨建ての現地生計費額はプラスとなった都市が多くなっている。

1) 生計費調査の結果を基本に、現地で入手可能な品目の現地価格に基づくインフレ率且つ、マーサー独自の分析により都市毎に判断している海外派遣者の生活に合致した海外派遣者インフレ率であり、CPIや生計費指数そのもののインフレ率ではありません。

では、そのデータをどのように使用すれば物価の差を派遣先の給与に反映できるのだろうか。国内勤務時給与全体に指数を掛けて、全額現地で支給している企業が時々ある。マーサーはこの様な運用をお勧めしていない。

なぜなら、購買力補償方式の基本的な考え方では、物価の差は生計費に対してのみ考慮すれば良いからだ。つまり、生計費以外の支出項目は派遣先で消費するというよりも、むしろ本国で消費するものであり、物価の差を考慮する必要はないと考えることができるのではないだろうか。そこで生計費を切り出す必要があるのだが、日々の生活に幾ら費やしているのかということは個人差があるだろう。もしも一人一人にヒアリングしたとすると、おそらく損得で申告したりしないだろうか。

生計費を個別に把握して決定するのではなく、会社が制度として決定することをお勧めしたい。会社が決定することの意味は、損得による決定を排除し、購買力補償方式の原則 No Loss、No Gain を守りつつシンプルに運用するためである。

給与全体に物価の差を掛け合わせしまっている企業は、このステップを省略してしまっている。多く支給している分には問題はないだろうという発想もあるが、円高が進み現地で補償すべき金額を用意するために必要な円が少なくなると指数は下降する。この様な時に、目減り感を与えることにはならないだろうか。

また、現地で使い切れなければ現地で貯蓄したり日本へ送金したりすることになるが、為替変動に伴いその価値も変動し、タイミングによっては為替差損が生じることもある。これは為替変動のリスクを社員に負わせていると言えないだろうか。

必要な額を、必要な場所で、必要な通貨で支給することが、実はとても大切なポイントの1つである。その様な海外派遣者の報酬体系を運用する際に物価の差をどこまでみるのか、その1つの解がマーサーの指数『Cost of Living』だと考えている。