共働き夫婦の役割分担 - コンサルタントコラム 735

共働き夫婦の役割分担 - コンサルタントコラム 735

コンサルタントコラム 735

共働き夫婦の役割分担

槇 千晴

執筆者: 槇 千晴(まき ちはる)

組織・人事変革コンサルティング コンサルタント

間もなく11月。認可保育園4月入園の申請(1)が始まります。働くお母さんにとって入園先の確保は、職場復帰の可否に関わる最重要課題です。とはいえ申請後、発表(2)までにできることは祈るのみ。そこで本稿は、できることの限られる心許ないこの時期にこそ、やっておきたい夫との役割分担交渉と、その意義について考えたいと思います。

1) 認可保育園4月入園の申請:自治体により異なりますが、概ね11月~12月のうち、限られた期間に設定されています。厚生労働省が発表した平成26年度の育児休業給付初回受給者数は274,935人。直近3年の前年比増加率は約7%、受給者の職場復帰率は85%前後で推移している点を踏まえると、250,000人の母親が、何らかの形で保育先を探している試算
2) 発表: やはり自治体により異なりますが、第1回選考結果の発表は、概ね2月中に実施

なぜ共働き夫婦の家事育児は折半にならないのか

わが家では今、家事育児はすべて夫と「半々」。家事は種目、育児は曜日を分けて、1-2週間の期間で「半々」が成立するように、お互いの予定を調整しています。しかしこのケース、やはり随分稀なようです。

なぜ共働き夫婦の家事育児は折半にならないのでしょうか。これには、大きく二つのパターンがあるようです: (3)
 1. 交渉したいけれどできない
 2. 交渉の必要性を感じない

3) 総務省『平成23年度社会生活基本調査』(5年毎に実施)結果から、主に女性が家事・育児を担っているという前提

交渉したいけれどできない

世間では、共働きでも圧倒的に女性側の家事育児負担が大きい、というのが現状(4)です。そんな中、「半々」はもちろん、「妥当な分担」の合理的な定義・提案は難しい、というのが実態のようです。夫からの「世の中では…」に始まる、外部公平性という強力な交渉材料に最初から屈してしまう。これが一つ目のパターンです。 しかしこの点は、外部公平性の根拠となる統計の曖昧さを指摘した上で、内部公平性の論点を提示し、交渉を行うことで解決可能です。

4) 注釈(3)に同じ。共働き夫婦の家事育児時間(1日当たり)は男性39分、女性4時間53分

そもそも統計値に含まれる「共働き」に、自分たちと同じ状況のN数がどの程度含まれているかは不明です。その点を示し、「世の中では…」という論拠を崩した上で、より明確な情報を提示します。具体的には、妻と夫、つまり自分たちの現状の可視化を行います。 その際のポイントとして、前提となる基本方針(「半々」の原則)を先に合意しておく必要があります。この方針という「あるべき姿」を前提として、現状を洗い出し、ギャップを可視化し、必要な見直しを行うことで、合理的な交渉は実現可能です。

基本方針(「半々」の原則)にもとづく交渉例


(注) 運用の柔軟性を担保する目的で、項目の過剰な細分化はお勧めしません。また、交渉時も、「半々」を厳密に測りにいくと、大変気まずくなるため避けることが賢明です

交渉の必要性を感じない

企業や地域の取り組みにより、働くお母さんの就業環境は改善基調にあります。その結果、夫に家事育児を分担してもらうことそれ自体に必要性を感じない女性もいます。これが二つ目のパターンです。 しかし私は、その場合であっても、「共に働く個人」という観点から、その妥当性を議論することはやはり必要なことだと考えています。

日本では今も、個人を特定の「職務」ではなく、「会社」に紐づけて考えるメンバーシップ型雇用システムが主流になっています(5)。企業は人に仕事を割り当て、割り当てられた仕事の成果とその実行プロセスを評価するとともに、対応の可能性・柔軟性を踏まえて、将来の処遇が検討されます。 このようなメンバーシップ型雇用システムの中で活躍するためには、職務だけではなく、働く時間や場所への許容、つまりある程度の私生活の犠牲が求められます。そのため、犠牲の許容に制約をもつ女性の活躍難度は相対的に高まります。

5) 濱口桂一郎(2015)『働く女子の運命』文藝春秋、(2013)『若者と労働』中公新書ラクレ

また、自身の存在が同僚に与える影響も見逃せません。厚生労働省の調査(6)では、約60%が育児休業等の制度利用者の存在が、自身の仕事に何らかの影響を与えている、と回答しています。 こうした、メンバーとしての職場への影響は、自身の報酬やキャリア形成の機会に影響を与え(7)、結果として処遇面で夫との「半々」の成立を難しくしています。私はこの状況を何より子どもにとって大変なリスクだと考えています。

6) 株式会社インテージリサーチ(2016) 厚生労働省委託調査研究『平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業』
7) 第一生命株式会社(2011) 『短時間勤務制度に関するアンケート調査』結果から、短時間勤務制度利用者のうち、「就労時間が減った分の給料が減り、人事評価も通常勤務者と比べて低くなっている」と感じている回答者は33.3%、内閣府男女共同参画局(2005年) 『部下が育児休業や短時間勤務を取得したことのある管理職に対する調査』結果では、「トータルの仕事量を減らしたことをマイナスに評価」(10.0%)、また「時間当たりの成果が同じでも、時間の融通がきかないことをマイナスの評価」(7.3%)

現在の日本では、約3組に1組が離婚する社会といわれ(8)、夫婦に子どもがいた場合、約90%がお母さんとの「ひとり親家庭」(9)になります。そして、厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、84.8%の母子家庭が、「生活が苦しい」と回答しています。 もちろん離婚に備えて交渉せよ、ということではありません。ただ、ビジネスがVUCAワールド(10)にある以上、そこに住む私たちの小さな社会も、離婚に限らず不測の事態が起こる可能性は大いにあります。そこに対して夫婦「半々」の原則をもって備えておくことは、特に子どもにとって重要なリスクヘッジです。その点で、やはり交渉は必要なのです。

8) 厚生労働省(2016) 『平成27年(2015)人口動態統計の年間推計』にもとづく概算値
9) 司法統計『22 婚姻関係事件数』
10) VUCA: Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity (曖昧性)の頭文字を取ったもの。元々は軍事用語として生まれ、現在ビジネス用語としても定着

そして企業にできること

多くの企業はこれまで、「女性の活躍推進」にあわせた仕組みの整備を進めてきました。そして運用フェーズに入るも、意識面も含めてなかなか企図する「活躍」の実現が叶わない、といった状況に苦戦しています。そうした企業の次の一手の潮流は、「働き方革命」です。具体例では、長時間労働の是正やイクメン推進に関連する取り組みです。 しかし私は、日本企業がメンバーシップ型雇用システムを捨てない限り、この問題の根本的な解決は難しいとみています。

「仕事も時間も場所も無制限」という、究極の柔軟性は、企業にとっての大変な競争力である一方、参加者を限定する宿命にあります。つまり、「参加可能」な同質人材で組成される「メンバーシップ型」は、そもそも多様な人材が活躍できるプラットフォームにはなり得ないシステムなのです。

では多様な人材が活躍できるプラットフォームとはどのような仕組みなのでしょうか。それについての現時点での解は、「ジョブ型雇用システムへの変革」になるといえるでしょう。必要な仕事を定義し、その仕事ができる人を仕事に割り当てる「ジョブ型」の世界では、処遇は仕事とその成果に応じて決まり、突然無関係の職務(部署・場所)へ異動することは基本的に想定されません。そのため、女性はもちろん、多様な人材の参加可能性が広がります。

究極の柔軟性が担保された同質人材で戦うか、その柔軟性を捨てて多様性をとるか。多くの日本企業にとって、女性の活躍推進についてのこの先の取り組みは、自社の組織構造を根本的に見直すかどうかの大きな意思決定になるでしょう。 社会を変える一歩という意味で、その意思決定は、「働く夫」の既得権を放棄し、「半々」の原則を受け入れる夫のそれに少し似ているかもしれません。