マイナス金利下の年金運用について再考 - コンサルタントコラム 745 | マーサージャパン

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コンサルタントコラム 745

マイナス金利下の年金運用について再考

さて、突然ですが以下の問題について考えていただければと思います。


【問題】
今、目の前にA・B・Cの3つのドアがあり、そのうちの一つのドアの後ろに100万円があり、もし一回でこのドアを開けることが出来れば100万円をもらえるというゲームに参加したとします。

あなたは、熟慮の末、Aのドアを選ぼうとします。するとあなたがAのドアを開ける前に、どのドアの後ろに100万円があるか知っているゲームの司会者が、Cのドアを開けました。当然Cのドアの後ろには100万円はありません。

ここでゲームの司会者はあなたに尋ねます。「ドアAのままでいいですか?Bのドアに変えてもいいですよ。どうしますか?」

さて、あなたは当初決めた通りAのドアを選びますか?それともBのドアに変えますか?


この問題、実は直感に反して、確率的にはBに変える方が正解、ということになります。どうしてそうなるのか直感的な説明としては、あなたがAを選んだ時点でAに100万円がある確率は1/3、それ以外のドアに100万円がある確率は2/3です。この問題では、どこに100万円があるか知っている司会者によってCが外されたことにより、Bに変更することで、BとCの両方を選ぶことに等しい2/3の確率となるのです(この問題は、モンティ・ホール問題として知られており、どうしてこのような解答となるのか納得できない方は、ホームページで検索すると、いくつか別の解説を入手することが出来ます)。

しかしながら、上記の問題に対して、おそらくほとんどの方は当初決めた通り、Aのドアのままにする方が多いのではないかと思います。というのも、もしBに変えたことによって100万円を失うことになれば大きく後悔することになるので、それを避けたいとする心理が働くからです。ここでみたように、変えることで後悔したくないという気持ちが働く傾向は、“現状維持(status quo)バイアス”と称され、人間の性質としてよく知られるものとなっています。

翻って年金運用について考えた場合、現状維持バイアスは良い方向に働くこともあれば、悪い方向に働く場合もあります。良い方向に働く場合としては、短期的な成績に左右されて、運用機関を頻繁に変えることを防ぐ効果はあるのかもしれません。しかし、例えば運用機関や資産配分を本来は変える方が合理的であるにも関わらず、現状維持バイアスの存在によってなかなか変えることが出来ないケースも多々あると思われます。

では、現状維持バイアスを克服するためにはどうすればよいのでしょうか。一つの方法としては、ゼロ・ベースで考えてみることです。すなわち仮に今から投資を始めるとして、それでも投資をしようと思うかを考えてみる、ということです。もし、現状採用しているプロダクトについて、今から投資を開始するのであれば投資をしない、ということであれば、見直しの対象とすべき、ということになります。

さて、国内債券について、企業年金連合会の資産運用実態調査によれば、確定給付企業年金の保有割合は、マイナス金利導入後の2016年3月末時点で27.79%となっています。その後多少保有割合は低下している可能性はありますが、そのまま保有を継続している年金基金も多いようです。

国内債券の運用に関しては、当コラムにおける拙稿(『マイナス金利下の年金運用について』で、(国内債券については)「ある程度状況が見えてきた段階で中長期的にどうするかを決定する、すなわち"wait and see"というのも一つの戦略と言えるのではないでしょうか」と記載しました。但し、この時点から、国内債券を取り巻く市場については少し見えてきたこともあると思います。

日本銀行の金融政策は、実質金利(名目金利-予想物価上昇率)を低下させることによって経済を活性化させる効果を狙っているのですが、2016年1月のマイナス金利導入後名目金利は低下したものの、経済主体の予想物価上昇率も低下した可能性があり、所期の効果とは異なった結果を生んでしまったと考えられます。こうしたことから、市場では、現状のマイナス金利水準(▲0.1%)がさらに引き下げられる可能性は(急激な円高の進行等金融市場の大きなショックが発生した時を除けば)、だいぶ低くなっているとみるようになっていると思われます(その後日本銀行は2016年9月に総括的な検証を踏まえて、10年物国債金利をゼロ%近傍で維持することを狙うイールドカーブ・コントロールを導入しましたが、物価安定目標が依然達成されていない中、マイナス金利をさらに引き下げる方策は発動されていません)。

無論、国内債券の投資意義として、金融市場ショック時のリスクヘッジ効果や負債ヘッジ効果は失われておらず、こうした観点で国内債券を活用する余地はあると思います。しかし、国内債券市場は日銀の金融政策に依存する度合いはますます高まっており、政策変更に対する脆弱性が高くなっていると考えられます。今一度国内債券をどう位置づけるのか、ゼロ・ベースで考えてみる必要があるのかもしれません。

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