「外国人新卒採用」問題を考える - コンサルタントコラム 752

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コンサルタントコラム 752

「外国人新卒採用」問題を考える

槇 千晴

執筆者: 槇 千晴(まき ちはる)

組織・人事変革コンサルティング コンサルタント

外国人新卒採用を行う企業が増えています。政府は外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させることを目指しており1、企業の採用意欲や実績値も、うなぎ登りの傾向を示しています2
そんな活気漂う「入口」の暖簾をくぐって社員となった外国人の採用後の動向を伺ってみると、「キャリアパス・キャリアパスとうるさい」「数年経つと‘普通’になる」「辞めてしまう」と、なかなか厳しいコメントが目立つのはなぜでしょう。
本稿では、「外国人新卒採用」の課題と、企図する成果に必要なポイントについて考えたいと思います。

1) 内閣府(2016年6月2日)『日本再興戦略2016』
2) 公益社団法人経済同友会(2014年調査)『企業の採用と教育に関するアンケート調査結果』、株式会社ディスコ(2016年11月調査)『外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査』。後者調査では、2016年度「採用した(含予定)」は38.1%、2017年度「採用する(含む予定)」は59.8%となっている。また、法務省調査(2016年10月)では、2015年の外国人留学生の就業数は、1万5657人と過去最高を記録した

なぜ上手くいかないのか

厳しいコメントは、期待値とのギャップから起こるもの。そもそも企業は「外国人新卒」に何を期待しているのでしょうか。
各種先行調査から、外国人採用の目的は、おおまかに「優秀人材の確保」と「ダイバーシティ(多様性)の拡大」に整理されます。特に前者においては、(将来)グローバルに活躍できる、海外事業関連業務への貢献が期待できる、という枕詞が前提です。
では、一般的な新卒採用3とは、目的の観点で何が違うのでしょうか。

3) ここでは議論の便宜上、「日本人学生を対象とした新卒採用」または、「国籍不問で実施される新卒採用」と定義

一般的な新卒採用の目的

  1. 均質若年労働力の確保
  2. 将来の経営幹部候補人材の確保
  3. 年齢別人員構成の均衡確保
  4. 組織の活性化と組織に対する帰属意識の醸成
  5. 企業ブランドの確立・向上

上記に照らすと、基本的な期待値は同じであることが分かります。但し、対象が外国籍の人材であるため自然(2)ではグローバルな活躍、(4)ではダイバーシティ活性化への影響への期待が特に強い点が特徴になります。

これらの目的・期待値に比して、冒頭のコメントはどこにギャップがあることを示しているのでしょうか。
まず、「キャリアパス・キャリアパスとうるさい」。早速紐づけに迷いますが、強いて言えば(4)で期待した「活性化」の副作用が想定以上ということでしょう。次いで、「数年経つと‘普通’になる」。これは、(2)と(4)に紐づけることができるでしょうか。「将来の経営幹部」や「組織の活性化」要員として物足りない状態であることを示唆しています。最後に、「辞めてしまう」。これは主に(2)と(3)に紐づけるのが妥当でしょう。

甚だ簡単な比較ですが、しかしこれにより気づくことがあります。それは、一般的な新卒採用者に聞かれる話と実は大差がない、ということです。
過去10年の新規大学卒業就職者の離職率は、1年以内で10%、2年以内で20%、3年以内で30%超の平均値で推移しています4。つまり、外国人ではなくても辞めるのです。また、勤務期間3年未満の離職理由上位「仕事が自分に合わない」5からは、(日常的に主張するかはともかく)自分らしいキャリアを求める姿が伺えます。では最後に「数年経つと‘普通’になる」はどうか。これについて有効な統計値はないのですが、少ない母集団と日本人の‘外国人’に対する過度な期待が背景にありそうです。一部例外を除けば現状の外国人新卒採用数は、全体新卒採用数の5%を越えません6。その状況を同僚は、「共学になった元女子高の男子生徒第一期生」に例えます。「そんな環境で‘猛々しくあれ’といわれても無理ですよ」。確かにそうかもしれません。別の先輩も指摘します。「新卒で他の企業を知らないのだから、‘そんなものか’と思って当然でしょう。そもそも‘外国人’がみんな個性的と考えるのは日本人の思い込みです」。それもそうです。

4) 厚生労働省『新規学卒者の離職状況』。同統計には、雇用保険の加入対象となる外国籍の方の値も含まれるが、現状の雇用状況は、全体の3%を越えないため、全体への影響は軽微と思料
5) 厚生労働省(2014年9月)『平成25年若年者雇用実態調査の概況』。勤続期間3年未満の同離職理由は、3年以上の統計に比して有意に高い
6) 新日本有限責任監査法人(2015年3月)『平成26年度産業経済研究委託事業(外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査)報告書』他前出調査

そういえば私にも似たような経験が。「女性総合職新卒採用第2期生」で入社した前職では、「女性ならではの企画・提案」「組織の活性化」が期待されたものです。(時代が偲ばれますね。)あれは確かに周りをがっかりさせた手応えがあります。数年も経たずに期待値の領域では、周りの男性社員に交じって完全に‘普通’になっていたように思います。

話がそれたので元に戻すと、新卒採用において外国人特有の課題はごく一部、属性に着目した多様な人材7への過度な期待以外の点においては、自社の一般的な新卒採用上の課題と、本質的に大きな違いはないのではないでしょうか。

外国人が活躍できる日本企業8には、3つの条件があるといいます。1つめは海外売上比率が高いこと。事業上の必要性が高まれば既存従業員側の受容性も高まる、という考え方です。2つめはタスク型ダイバーシティが既に定着していること。合意形成において、多様な思想を受け入れる風土があれば、属性の違いは大きな問題にならない、という考え方です。3つめはトップマネジメントが1や2の状態維持または実現にコミットしていること。チェンジマネジメントの取り組みとして、自らが組織風土・仕組みの変革に率先して取り組むことで組織をリードする、という考え方です。

逆に上記の条件が揃っていない中での外国人活用は難しい。つまり、「外国人新卒採用」の難しさは、対象となる人側ではなく、受け入れる組織側にあるのではないでしょうか。

7) ダイバーシティには2種類あるとする経営学上の考え方。能力、職歴、経験、思想などにおいて多様な人材を組織に取り込むことを指す「タスク型」と、性別、国籍、年齢といった属性についての多様性を指す「デモグラフィー型」で構成される
8) ここでは議論の便宜上、「本社採用かつ母国勤務ではない外国人従業員」を前提

何をすればよいのか

外国人新卒採用は、優秀人材確保のための一施策に過ぎません。中長期的に必要な人材プールが今のところ潤沢であるならば、費用対効果の点からも今は無理に採らない(≒別の施策に投資する)というのも実は選択肢です。なぜならば、前述の通り、これは本質的にはチェンジマネジメントの取り組みであり、3条件とのギャップ次第で相応のコストが想定される苦行だからです。

一方で、もし「グローバル」「多様性」への対応が、事業・組織戦略上の喫緊課題であるとするならば、解決のアプローチとして、本稿では「組織開発9」を紹介したいと思います。

9) 1950年代からアメリカで発展したマネジメネント手法。多様なバックグラウンドから成り立つ社会的背景から、バラバラの個人を組織として機能させるための概念や技法として発達

現状日本企業の人事管理の対象は、「人」。組織に属する個々人の力に着目し、それを伸ばそうとするアプローチは「人材開発」と呼ばれます。これに対をなす「組織開発」の対象は、「人と人との関係性・相互作用」です。組織全体として環境変化に対応しながら健全な状態に保ち、内在するエネルギーを引き出そうとするアプローチです。
ポイントは、人材開発から組織開発への移行、ではなく、これまでの人材開発に組織開発を加え、両輪をバランス良く回すことが重要、という点です。

では具体的に何をすれば良いのかというと、「組織開発」の観点から、まずはあるべき組織の姿を洗い出し、現状を把握。その上で、課題解決の施策を、インパクトと時間軸から検討し、マネジメントを巻き込み実行する、というアプローチです。そう、通常の人事制度やタレントマネジメント関連の施策設計で行われる現状分析のフェーズとなんら変わりません。
しかし、現行の「外国人新卒採用」の背景に、「少子高齢化で優秀人材の確保が困難(になる)」という課題認識があったとしても、例えば「イノベーション・生産性向上を通じて現行の80%の要員で機能する組織」「目に見える属性に関わらず個人の意見/個性が発揮できる風土・マネジメントが醸成された組織」を前提とするならば、施策としての「外国人新卒採用」のあり方は、大きく変わってくるのです。

組織人事コンサルティング市場は今大変な活況にあり、いよいよ本格的にTalentismの時代10に突入したことを感じます。
ビジネスのスピードに合わせていかに組織と人をマネジメントするか。古くからあるこの永遠の命題は今、「グローバル」「ダイバーシティ(含働き方改革)」「テクノロジー」といったキーワードとの掛け算の中で、新しい課題解決の創造が求められています。

10) 世界経済フォーラム(World Economic Forum)の創設・主宰者クラウス・シュワブ(Klaus Schwab、1938年ドイツ生まれ)が、2012年のダボス会議で言及。「タレント」が企業の決定的な競争優位の要因になるという点を示唆