社員構成比率の超高齢化を迎えるにあたって 

2012年度賃金構造基本統計調査の情報を基に正社員の状況を分析してみると、所定内給与を受け取っている社員の「年齢別構成」は、40歳以上でなんと50%を越える比率となっている。今後、定年延長への対応が行われ50歳後半の社員も一定の雇用継続が行われていくことを含めて考えると、10年後、その比率は、およそ65%を超える。

社員構成比率の高齢化は、世の中の高齢化よりも急速に進む。

日本企業は、高度成長期においては、新たな社員を雇用する競争に明け暮れ、「金の卵」とまで呼んで新人雇用を争った時代があった、その頃企業の人員構成は「ピラミッド型」を形成していた。その後、バブル期の大量雇用の若手が入社し、10年が経った1990年代後半には、「二つのコブ」のように、50歳代と30歳代に人員が集中する時代を迎えた。その人員構成が、今度は「逆ピラミッド」を構成する時代に入っていくのである。

一方で、先に紹介した賃金構造基本統計調査では、「役職者・非役職者」に関する情報も掲載されており、その比率を見ることができる。実は、この構成については、係長級以上の役職者は、正社員の25%という構成で変化がない。

海外派遣者の処遇を決定する方式として、マーサーが推奨する「購買力補償」という方式は、国内だけではなく、世界でも最もスタンダードな方式である。

つまり、企業における組織構成、組織のあり方においては、情報化が進んだ現在であっても大きな変化はないのである。

沼上幹教授が「組織戦略の考え方」の中で、"組織を効率的に運営するための原理原則において大きな変化はない、フラット化が常に正しいとは言い得ない"と喝破されていた状況は依然継続しているのである。組織のあり方(≒付加価値の出る職場での働き方)において、画期的なイノベーションが起きていない現状では、柔軟性を持つ「人」によって対応しなくてはならない問題となっていく。

企業における人材マネジメントは、次なる10年において、再び過去に経験がない状況への対応が求められていくのである。

日本企業は、その昔、長期雇用、社内訓練、年功的処遇といった仕組みがあった。人員構成の「二つのコブ」問題に直面したときに、その仕組みに対する改定を行いはしたものの、依然、文化や考え方には強く残っている。先の雇用慣行が作り出す社内の強いコミュニティーが、組織内部で発生しやすい社内での衝突を回避する調整コストを最小化させるという経済合理性を秘めていたからである。

ただ、上記のコミュニティーが生み出す効率性を享受しようとするあまり、日本企業は次のような選択と新たな問題の生成も行ってきた。

「若手層の職業訓練不足」

自社内で訓練し、内部調整コストを最小化できる年配社員と、新たに教育が必要となる新人のどちらを取るかの選択を迫られた時に前者を選ぶという選択を続け、若手層において十分な職業訓練を受けた人員を不足させてきた。また、入社した社員も、延々と現場仕事のみを与えられ、目線を高められる訓練を受けられておらず、次なるリーダー人材の種も不足してきている。

「制度(年齢概念の払拭)と実質(運用での長幼の序の残存)の乖離」

会社のコミュニティーとしての効率性を享受するために、思い切った人事施策については打ち切ることなく、一部に長幼の序を尊重した仕組みや考え方、運用を名目、実質の何れかの形であったとしても残してきた。その結果、新たな状況に対応するときに、現在の制度(年齢概念を払拭したとされてきた仕組み)では、相手を納得させられることが難しくなる状況を作り出した。

「ダイバーシティーの進展不足」

社内訓練を通じた育成と社内コミュニティーによる効率化の追求は、キャリアの断絶が即生産性低下に結びついてしまう。この問題に対応しやすい人材と対応しにくい人材の何れを選ぶかとなったときに前者を選択してきた。端的に言えば、女性活用というダイバーシティーの実現ができておらず、労働人口の半分を活用する機会を作れていない。

といった問題である。

この状況は、企業に対して、新たな10年の状況を考えてみたときに、必ず看過できない問題となっていくことは明らかである。仕組みから価値観に至るまで、本当の意味で思い切った手を打たなくては、将来の生産性や活力の低下に繋がる大問題になっていくことは間違いないと筆者は考える。

人材マネジメントとは、朝令暮改が許されない世界でもある。なぜなら、人を育て、新たな文化を作り上げていくためには、どうしても2-3年の時間を要するからだ。人事施策とは、「10年先を見て、今打つべき手を打つ」ものであると考えたとき、筆者には、この問題が「今、そこにある避けることができない危機」に見えてくる。

著者
中村 健一郎

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