坂の上のHR - コンサルタントコラム 622 | マーサージャパン

坂の上のHR - コンサルタントコラム 622

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坂の上のHR
Calendar2014/02/14

"過去のデータで未来のことがわかりますか?"

何の気なしにテレビを観ていた時、総理大臣に扮した国民的ロックスターが言った言葉である。この言葉を額面通りに受け取ると、まさに我々データを扱っているビジネスを根底から否定することとなり、いささか衝撃的である。

同時に、なぜこうしたのかと理由を聞いた際、過去がこうだったから今回もこうした、と何も考えずに回答をされ、たびたび苛立った自身の経験が思い出された。前に倣った、ルールだから、という理由で思考を停止してしまうことは本当に恐ろしい。見渡す限り誰もいない開けた場所で、信号が赤だからという理由だけで道を渡らない道理があるだろうか。

勿論、実生活上では交通法規を順守しなければいけない。が、しかし、信号は互いに目指す方向が異なる対象者がぶつからず、安全かつ円滑に進めるために考え出された手段であり、その信号を守ることが目的ではない、という意識を持っているか否かで見える景色、発する言葉、起こすアクションは変わるのである。

前述したCMに込められたメッセージとしては、過去の事実がそのまま未来永劫続かない、ということである。重要なことは過去のデータをそのまま模倣するのではなく、その起こった事実から何を発見し、そのことを次のアクションにどう結び付けるか、ということである。

本コラムは社内を横断的に見るHRという職務に対する有効なアプローチ提言である。ここである小説を採り上げて話しを展開したい。コラムのタイトルにも多大な影響を与えた司馬遼太郎氏の"坂の上の雲"である。

この小説は時代小説でありながら、作者が綿密な調査をして調べ上げた事実や人物の言葉なまり、考え方、人間関係などが非常にリアルであり、今のビジネスにも通じるところが多々ある、ということでビジネス書として多くのビジネスパーソンに愛読されている。

筆者もそのひとりなのだが、文庫版全8巻ある中で一番印象に残っている文章は日露戦争の海軍戦術を立案した秋山真之を評した部分である。この秋山の神髄は必要なものだけ蓄え、不要なものは切り捨てる、ということにある。本文の言葉を引用すると、次のようになる。

"戦略戦術を研究しようとすれば(中略)古今海陸の戦史をあさり、その勝敗をよってきたるところを見極め、さらには欧米諸大家の名論卓説を味読してその要領をつかみ、もって自家独特の本領を養うを要す"あさり、見極め、味読し、要領をつかんだ後、自分独自の考え方を醸成していくのである。

あるフレーズで有名な林修先生もあるテレビ番組で読書の重要性を説いていた。
読書は先人からの重要な遺産であり、失敗を繰り返して得た成功を学び、知見を深めるためにも読書をすべきである、と。

ただ、何かを深く知るという目的を達成するためには、何も過去の結果のみを手段として限るものではない。
今やビッグデータともてはやされるインターネットを使えば取得できない情報は無い。 しかし情報過多であるが故、何から始めればよいのか、何を信じればよいのかわからない、という状況になることもしばしば起こりうる。

そこで秋山が実践した"不要なものは切り捨てる"という方法が活きてくる。但し、そのためには自分の中にしっかりとした軸を持つことが重要であり(価値観と呼び換えても良い)、その軸に沿って取捨選択をしていく。
そしてその軸を揺るがすような考え方に出会った時には必要に応じて修正をしていく。ともすれば朝令暮改と言われかねない軸の修正も本当に必要であれば堂々と行う。この"不要なものは切り捨てる"と"軸の修正"を実行するには相当な胆力が必要になる。その胆力の源は自分への自信、信念である。その信念をより太くするため、また情報を取り込み絶えずアップデートを繰り返すのである。

上記のように一方向にのみ拘泥することを防ぐ方法として、筆者は乱読以外にも様々な人との出会いやコミュニケーションを大切にしている。そのうちの一つは自宅近くにある、お気に入りのバーに行くことである。

これはアルコールとおしゃべりが好き、という個人的な嗜好によらず、アルコールが入り、楽しい環境になれば人は饒舌になる。普段は言いにくいことも勢いで言えてしまうので本音を聞けるのである。そして何よりも、普段接しないような個人事業主や異業種の人たちと交流が持てることが最大の魅力である。年齢やバックグラウンドは様々なので、まったく予想もしないような角度から意見が来たりする。それを取捨選択し、必要と思えば新しい自分の軸に組み入れる、という作業を繰り返すのである。

少し長くなったので、上記メッセージをまとめると下記3点となる。

過去や他者から学ぶことで自分の軸を確立する
確立した軸に沿わないものは大胆に切り捨てるが、必要とあれば勇気を持って軸を修正する
その軸の修正を機能させるためには意識して様々な意見に触れる必要がある

これらはHRの職務執行上、欠かせない要素である。HRが期待される役割としては様々あるが、自社の市場価値が最大限上がるよう、従業員の就業環境や条件を整え、制度や施策に落とし込むことは事業規模や業種を問わず重要度が高い業務である。そのためには自社の軸を理解した上でHRの軸を持ち、その軸に沿ってひたすら前進する。あらゆる価値観を清濁併せ呑んだ軸は強くブレない。そして必ず"より良い考え方や方法があるはず"という意識を持ち、絶えず市場の動向に敏感であろうとする心構えが強靭な胆力と柔軟な発想を持つ人事パーソンを育むのである。

最後に、本コラムを含め、5回のコラムを担当した。できるだけサービスの紹介を排除し、人事の方に主眼を置きつつも対象者を絞り過ぎないようなテーマを選んでコラムにしたつもりだ。

この場をお借りして、お付き合いくださったことに感謝を述べさせて頂きたいと思う。
本当に有難う御座いました。


倉持 歳弘

執筆者: 倉持 歳弘 (くらもち としひろ)
プロダクト・ソリューションズ シニアコンサルタント

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