DC導入は従業員にメリットか 

2013、2014年に複数の大手電機メーカーがDC導入を実施したが、昨年も大企業のDC導入が多く見られた。

企業側のメリットとしては、会計上、負債認識をする必要がなく、また運用リスクを従業員に転嫁できる点が挙げられる。従業員側のメリットとしては、税制メリット、従業員の自立、投資経験・知識の向上等である。

DC導入に至ったきっかけは、足元のDBの財政状況が良いことも挙げられる。

企業年金連合会の調査によると2014年度の決算において、DBの87%が非継続基準をクリア、最低積立基準額以上の年金資産を有している。

年金資産が最低積立基準額に満たないと、DBの一部をDCへ移行した場合、穴埋めするために一時的なキャッシュアウトが必要となるが、満たしているとそれが不要となり、DCへの移行の負担が比較的楽である。財政状況が健全なこのタイミングで検討している企業は少なくないと考える。

また、従業員の心理も数年前より改善していることと思われる。運用環境は現在も不安定ではあるが、アベノミクスにより、10%以上の運用収益を確保した経験があると「2%で運用すればよい」と聞いてもそれほど難しい目標と思わないかもしれない。また、新聞等でも大企業のDC導入が取り上げられることもあり、それが先進的なものと感じている方もいるかもしれない。

1. 現在のDC運営の問題

• 企業の想定する運用利回りを達成できていない

DCは、DBと異なり、従業員自らが運用をする必要がある。

DC導入においては、将来の退職給付の水準を予測するために、企業は「想定利回り」を設定する。企業年金連合会の調査によると、この想定利回りは平均2%である。つまり、各企業が、「従業員はDCで2%の運用を達成する」と見込んでいることと言える。(2%は達成してくれ、というメッセージも込められているかもしれない)

実際はどうか。

過半の加入者は、元本確保型の商品を選択している状況で、企業の想定利回りと実際の利回りの間にギャップが生じている。企業が想定する運用利回りを達成できていないとどうなるか。

以下は、仮に、22歳入社時から毎月27,500円を拠出し、0%、2%で運用したときの比較である。

2%で38年間運用した場合は、60歳時点で1,870万円程度、0%であれば1,254万円程度となり、60歳時点では600万円程度の差がつくことになる。

 

• マッチング拠出の実施状況の低さ

続いて挙げられる問題点は、マッチング拠出(企業が負担する掛金に、従業員が追加で掛金を負担すること)の実施状況の低さである。

現在の法令上、マッチング拠出を行うには、DC規約において、マッチング拠出が可能であることを定める必要がある。マッチング拠出が認められたのは2012年であり、2012年以降にDCを導入した先は比較的あらかじめ規約に定めているケースが多いが、それ以前にDCを導入した先は、規約を変更する必要があるため手間となっている。

以下は、企業年金連合会の調査に基づくマッチング拠出の導入状況である。

マッチング拠出を実施していないと、従業員のメリットのひとつである税制メリットを享受できない。また、DC導入時のキャッチコピーとして、「従業員自らがライフプランを考え、自発的に資産形成を行うことを支援」とするならば、マッチング拠出は導入して当然といえる。

2. DC導入のメリット

従業員に対するDCの最大のメリットはマッチング拠出による税メリットであると考える。仮に、上述の給付水準の計算において、入社時から27,500円のマッチング拠出を行った場合を考える。DCへの掛金は、所得控除として扱われるため、所得税を20%、住民税を10%とすると、1年間で約10万円、60歳までに376万円程度の税メリットを享受することになる。所得が大きければさらに税メリットは増す。

マッチング拠出をすることで、上述の600万円の差を埋めることができるわけである。

3. DC導入の一例

DCを導入するにあたっては、(2) のメリットを十分に生かせるような制度設計が必要である。それには、企業が負担する掛金は、月27,500円に抑えたい。それを超えると(2)のメリットが低下する。というのも、現行の法令上、マッチング拠出の掛金額は、企業の負担する掛金を超えてはならず、また、企業の負担分+マッチング拠出で月55,000円を超えてはならないためである。

まだ我が国では、投資経験が十分でない者が多いこともあり、企業の退職給付制度において、DCをメインにすると、運用リスクが大きく、上述の600万円という額はさらに拡大する可能性がある。そのため、現在のDBや退職一時金制度からDCへの移行を検討する企業でも、DCをメインとするのではなく、DCに一部に留め、投資経験・知識を高めつつ、投資以外のメリットを享受させられるような制度とすることを検討してはどうであろうか。

著者
永島 武偉

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