健保コンサルのニーズ 

10 2月 2017

医療保険制度について

近年、外資系クライアントの海外人事担当者から、日本の健康保険組合に関するお問い合わせやコンサルティングのご依頼が増えている。その理由は、日本における企業合併や事業の売却によって、現在加入している健康保険組合を変更しなくてはならないケースの増加や、社員のためにより良い福利厚生制度にするため、今よりも良い給付が得られる健康保険組合に移行したいというニーズが増えてきているためだ。

日本では、ご存じのとおり、公的医療保険は強制加入である。また実際にかかった医療費の7割が公的医療保険で補償されるため、他の国と比較するとかなり手厚い。加えて、強制加入となる「協会けんぽ」Employee Health Insurance(EHI)の他にも、「協会けんぽ」の保障より手厚く、保険料も安くなる「健康保険組合」Health Insurance Association (HIA)が複数あり、さらに保障を上乗せしたい場合は民間保険会社が提供する「団体医療保険」に加入することもできる。企業にとっての選択肢が多いことも、健保コンサルニーズが増えている一因といえよう。

日本の福利厚生制度については図参照。

 

一方、海外では、アメリカのように、公的保険が弱く、民間保険に加入していなければ医療保障が受けられない国が多く存在する。そのため、公的医療保険を補う、「勤め先から提供される福利厚生としての医療保険」はとても重要な位置づけにある。企業側も、優秀な従業員の確保のために、常に福利厚生制度の充実を図ろうとしている。日本とは医療保険制度のコンサルニーズが根底から相違している。

日本における健保コンサルティング事例

健康保険組合は合計1339も存在する(平成28年4月1日時点)が、そのうち、企業が単独で設立する「単一型健康保険組合」と複数の同一業種の企業が属する「総合型健康保険組合」に分けられる。両者とも、一般的には協会けんぽよりも保険料率は低く、法定給付を上回る付加給付があることが多い。単一型の場合はそのようなメリットが特に大きい。

1社で単一型の健康保険組合を設立する規模のない外資系企業からは、とりわけ「総合型健康保険組合」への加入ニーズが高い。しかしながら、近年各組合健保の収支は厳しくなってきたこともあり、新しい企業の加入に対して、厳しい条件を設定するケースが増えている。協会けんぽから健康保険組合に移行するには、自社が加入できる可能性のある組合を探すことから始まり、付加給付の手厚さ、保険料の割安さを比較する。さらに加入させてもらうための条件や手続きの確認も必要だ。医療保障を重要視する海外人事からは関心度の高いトピックであるにも関わらず、各健康保険組合の給付内容や申請のプロセスを海外人事が理解することは難しい。ほとんどの組合が日本語での説明資料しか提供していないという問題もある。その部分をお手伝いすることが「健保コンサル」の主な内容である。

昨年チームが扱った事例で、ある外資系企業の一事業部の分社化に伴い、転籍する従業員がこれまでと同じ健康保険組合に加入できるかどうか、できないとしたらどういった経過措置を実施すればよいかという相談を受けた。経過措置なしでは、従業員が転籍に同意しないリスクがあるからである。

この企業は給付が比較的手厚い総合型健康保険組合に加入していたが、転籍先は新たに設立する新会社であったために、1年間は協会けんぽに加入する必要があった。元々はひとつの企業であったことから新会社も同じ健康保険組合に継続加入ができないのかという、海外人事の強い要望を受けて、チームでは何度も交渉を行った。しかしながら平均年齢や扶養率、資本関係などの健康保険組合の加入要件を満たしておらず、同健康保険組合への加入は認められなかった。

そのため、チームでは将来的には同保険組合に加入する前提で、それまでの期間の代替プランを提案した。まず、転籍前の健康保険組合と協会けんぽの保険料率や給付内容の比較を行い、マイナスが生じる部分については、経過措置として以下のプランを作成した。

  • 本人負担保険料の増加への対応: 会社からの差額補助プランの実施
  • なくなる付加給付への対応: 同等の内容を会社規定の作成により一時金で補助
  • 自己負担医療費増への対応: 扶養家族も含め、民間保険(団体医療保険)を手配

この結果、保険料率や高額医療費の上限など従業員に直接関係するマイナス部分については、影響を最小限度に抑えることができた。従業員説明会で新プランを説明して全従業員の同意を得、さらにその先も社会保険労務士と連携して、1年後には無事、元の健康保険組合に再加入することができた。

我々のチームの仕事はコンサルティング会社の業務の中でも地味な分野であるかもしれないが、このような健保コンサルでは、プランニングから最終的な健康保険組合への再加入まで、2年近くにわたるサポートとなる。企業からの信頼を得られたこととともに、社員説明会において従業員のみなさまに事情を理解してもらい、代替案をご支持いただけたことがとても嬉しかった思い出である。

外国人の福利厚生担当者に、複雑な日本の社会保障制度をご理解いただくのは、時間と根気のいる業務ではあるが、今後もコンサルタントとして頑張っていきたい。

著者
佐々木 壱佳

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