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60歳超の継続雇用(定年再雇用)における報酬の新たなトレンド
Calendar2017/05/12

2013年に改正高年齢者雇用安定法が施行され早4年が経った。これに伴い、希望者に関しては60歳以降も継続して雇用することが企業には義務づけられたが、その報酬は60歳定年時と比較して大きく減額(年収で50%程度)とされることが一般的となっている1。そのような中、昨年、大手自動車会社を中心に(必ずしも全員ではないが)60歳時の報酬水準の80‐100%を維持して継続雇用することを打ち出した企業が現れ始めた。これまで多くの企業が人件費管理の観点から60歳超の継続雇用者の報酬を減額してきた中で、この施策はどのような背景によるものなのだろうか、またこのような施策は今後のトレンドとなりうるのだろうか考えてみたい。

1) 労政時報(2013年9月号)

まず多くの企業が60歳超の継続雇用者の報酬水準を定年前より低く抑えている背景について確認したい。ここには主に「60歳超の継続雇用者の報酬減を許容する判例・慣習」と「国からの支給(年金・助成金)の最大活用」の2点が挙げられるであろう。

  • 60歳超の継続雇用者の報酬減を許容する判例・慣習:
    「高年齢者雇用安定法では、60歳超の処遇等に関しては(労使合意の下で)柔軟な措置が許容される」という判例2を前提として、雇用機会の拡大による便益とのバランスや60歳時の報酬が一般的に厚遇であること等から、社会通念上60歳超の報酬減はやむを得ないという慣習があると言え、再雇用に伴う契約変更や職務の変更を通じた報酬の抑制が許容されている傾向にある
  • 国からの支給(年金・助成金)の最大活用:
    60歳超の継続雇用者には「特別支給の老齢厚生年金(支給開始年齢は徐々に後ろ倒し)」と「高年齢雇用継続給付金」の2つの国からの支給項目がある。しかしながら、これらの支給項目は生活補てんの意味合いも強く、前者は総報酬月額が高い場合に支給額は低くなり、後者は60歳到達時報酬からの減額度が小さい場合に支給額が低くなる。そのため、国からの支給額を最も高く享受できるよう報酬を月額20‐25万円にまで低く抑えることが正当化されやすくなっている
2) X運輸事件(大阪高裁H22.9.14判決、労働経済判例速報2091号)

上記のような背景がある中で、なぜ一部の企業では60歳超の継続雇用者の報酬を増額しているのであろうか。そこには主に2つの理由があると推察する。

  • スキルフルな人材の確保:
    自動車業界を中心に一部の製造業では、市場ニーズに対応する技術力・生産量確保に向けた労働人口の拡充が迫られているものの、若年層の減少や中途採用の難しさを考慮すると、年齢による衰えの影響が小さい業務やスキル・経験の蓄積が成果につながりやすい業務では60歳超の人材がより必要になってきた。特に、一部のスキルフルな人材に関しては若年層への指導役としての期待だけでなく、事業継続性の観点で代替が難しいケースもあり、60歳未満社員に近しい報酬を支給してでもリテンションを図る必要が出てきたと考えられる
  • 60歳超の継続雇用者の報酬減に対する社会通念の変化:
    60歳超の継続雇用者の報酬を低く抑える場合でも職務内容を大きく変えていない企業もある。それでも、これまでは「60歳超雇用における処遇に関しては柔軟な措置が許容される」と考えられてきたが、近年、働き方改革の一環として「同一労働・同一賃金」の実現に向けた法改正の準備やガイドラインの策定への取り組みを国が掲げている3中で、一定程度、この社会通念に対する変化を考慮しているとも考えられる
3) 「ニッポン一億総活躍プラン」「規制改革実施計画」(平成 28 年6月2日閣議決定)

一方で、人件費管理の観点で解決しなくてはいけない課題は大きい。たとえ事業が拡大傾向にある企業であったとしても、事業の継続性を考えれば、若年層にあてるべき人件費は継続的に維持・拡大していく必要があり、60歳超の継続雇用者の報酬維持に伴う人件費増は、別の人件費項目の削減により賄うことが自然である。そのような中、60歳超の報酬維持を図っている企業は人件費の課題に対してどのような施策を打っているのであろうか。細かな施策としてはいくつか種類はあるものの、主としては「役割・成果に基づく処遇」の推進・徹底であると言える。「役割・成果に基づく処遇」を通じて下記のような人件費管理につなげている。

  • 継続雇用者ごとにメリハリのある報酬の実現:
    上述の企業においても、60歳超の継続雇用者のうち相対的に高い報酬とする社員は、高い役割・職務を担うものに限定されることが一般的である。その際、60歳未満も含めた全社の報酬が役割・職務に基づいて決定されていることで、(1)60歳超の報酬を社内外の公平性をもって決定することが可能であるとともに、(2)60歳時の報酬も高止まりしづらくなるため報酬維持とする場合でも過剰な人件費増額を避けることができる
  • 年功的・福利厚生的な報酬項目の削減:
    60歳超の継続雇用者の報酬維持を、年齢に寄らない(エイジフリーな)報酬制度への移行と位置付けることで、年功的な報酬項目や住宅手当等の福利厚生的な手当の減額・削減、超過勤務手当の算定率を(法定水準まで)下げて人件費を確保するケースもある
  • 柔軟な人員配置の実現:
    60歳超の報酬を低く抑える場合には異動配置に制限をつける(例えば、60歳時点の事業所から原則異動なしとする等)ことも一般的であるが、60歳超の報酬を維持、もしくはそれに準じる社員に対しては他社員と同程度の異動配置は可能としやすい。それにより事業環境に応じて効果的な人員配置・人件費の適切な配分につなげることができる。

上記を踏まえると、60歳超の継続雇用者の報酬維持というのは、一時的な人材確保の施策というより、中期的な労働人口の拡充・事業の継続的な発展を目指し、「役割・成果に基づく処遇」の推進・徹底を通じた「年齢によらない(エイジフリーな)組織体制へのシフト」であると言える。実際、60歳程度の加齢を起因とした業務遂行力の衰えというのは、健康寿命の延長や業務のIT化に伴い、徐々に表れづらくなってきているのは感覚的にも明らかであり、人件費が適切にコントロールされつつ、スキルのある60歳超の労働者を拡充するというエイジフリーの組織というのは、多くの企業にとって中期的に目指したい姿であろう。
しかし、ある程度年功的に職務や報酬を決定している多くの企業にとって、エイジフリー組織への移行は容易ではないと考える。エイジフリーの組織においては、若手でも60歳超でも職務次第で厚遇される社員がいる一方で、勤続年数に関わらず処遇が低いまま、ないしは職務の変更によっては昇給なし(もしくは降給)となる社員が現れることにもなる。しかもそのような報酬に強くひもづく職務の決定や変更(人材の入替え)を、中期的な観点で適時的確に行える組織マネジメント力も必要であり、もし年功的な運用に引きずられて人材の入替えが難しくなってしまったり、職務と処遇の連動を弱めたりしてしまうと、人件費の上昇を抑えられないだけでなく、中期的な組織力の低下を招いてしまいかねないというリスクにもつながってしまう。
そのような組織運営上のリスクを考慮すると、また社会通念として60歳超の報酬に関して柔軟な措置が許容されており、国からの支給(年金・助成金)もある今後5‐10年の間は、60歳超の報酬維持の施策やエイジフリー組織への移行を行うことは、多くの企業にとって時期尚早と言えるのかもしれない。

最近の脳科学の研究によると「人間の脳は60代後半まで成長が続く」4とのことで、60歳程度で年齢による衰えを理由に報酬とモチベーションを下げ、スキルを活かせない業務に充てるような現行の継続雇用制度(定年再雇用)は、やはり労働力確保の観点では無駄であり、中期的にはエイジフリー組織への移行は必須と言えるだろう。その時になって慌てることのないよう、数年後のあるべき組織体制を見据えて、現行の仕組み・運用に捕らわれることなく、徐々にあるべき組織・人事の仕組み・運用へ移行させていくことが経営・人事には求められているのではないかと考える。


米澤 元彦

執筆者: 米澤 元彦 (よねざわ もとひこ)
組織・人事変革コンサルティング コンサルタント

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