海外福利厚生保険の水準検証 - コンサルタントコラム 758 | マーサージャパン

ライブラリ / コンサルタントコラム一覧 / コンサルタントコラム 758

海外福利厚生保険の水準検証
Calendar2017/05/19

ここ最近、日本企業から海外福利厚生保険の水準検証に関する問い合わせが増えてきている。背景には近年の日本企業による海外企業のM&Aが加速していることがある。買収の際に、現地拠点の既存制度と海外企業の既存制度を、いかに従業員へ不利益のない形で統合させるかが議論になるが、そもそも既存制度が市場に対してどの水準にあるかが把握されていないケースが往々にある。

日本に比べると社会保険が整備されていない海外において、企業が従業員へ提供する福利厚生保険(ベネフィット)は、良質な従業員の採用や定着へ直結する重要な位置づけとされている。少し古いデータではあるが、2011年のデータによると中国・香港では3人に1人は転職を検討しており、オーストラリア、マレーシア、シンガポールにおいては5人に2人、インドに関しては2人に1人が検討をしている1

1) Mercer 2011 What’s Working survey based on 5,000 respondents in Asia Pacific

福利厚生保険はその名の通り、企業が従業員へ提供する福利厚生制度を、保険を通じて提供している枠組みであり、社会保険では不十分な保障内容を補完する役割を持っている。生命保険(死亡保障)、傷害保険(傷害補償)、所得補償保険(就業障害)や医療保険(医療保障)が主だった保険だ。日本では扶養家族の加入が禁止されている団体保険も、海外では社会保険の補完という意味合いで、家族加入を認めているケースも多い。特に健康保険の利用については、従業員と家族の日々の生活に影響を与えるため、従業員の関心度は高い。また、国によっては、扶養家族の加入に関しては国によって慣行が異なるため、一概に言えない。

では水準を検証するというのは、具体的にはどの様な項目を見るのか。基本的には、「保障内容」、「普及率」、「保険料」の3つの観点から水準検証を行う。

保障内容:その国の福利厚生保険市場において、保障内容が市場平均レベルか、平均以下か平均以上かを検証。

普及率:国内での福利厚生保険の主な種目の普及率に対して、既導入を確認したうえで検証。各国の社会保険制度が異なっているため、普及している福利厚生保険も異なる。(例えば、ドイツでは社会保険を通じた健康保険制度が充実しているため、福利厚生医療保険の普及率は9%のみとなる。その場合、企業が医療保険を導入していなくても、市場平均レベルとみなされる。)

保険料:各国のマーサーマーシュの保有データや経験値を基に、平均的か、平均以下か平均以上かを検証。ただし、海外において保険料は交渉によって値下げの余地があるため、保険料のみでは一概に水準検証が難しい。よって、水準検証はその他2項目を検証した上での総合的な検証となるわけだ。

ここで筆者が経験した案件を共有したいと思う。弊社クライアントが「従業員へより良いベネフィットを提供する」という考えの下、海外拠点の医療保険の水準を市場平均以上(75th Percentile)にすることを打ち出している。そんな中、インド現地法人が、現行の医療保険の加入資格「従業員+配偶者+子供2名」に「親2名」も加入できるよう、加入資格を拡大したいとの要望があった。一般的に海外の医療保険は、保険金支払い実績に基づいて翌年の更新保険料が決まるため、企業としては如何に保険金支払いをコントロールするかが課題となっている。(保険金支払いが多ければ多いほど、翌年の更新保険料が上がる。)インドの医療保険慣行においては、家族分の保険料も企業が負担することとなるため、親の加入は保険金支払いのリスクが増加することになる。つまりは、「翌年の保険料が増加するリスクを増やす」こととなるため、本社としては現地からの要望は正直受け入れがたい内容ではあった。しかしながら、水準検証を行ったところ、インドにおいては親も含めることが一般的だということが判明し、その結果、本社としてはNoと言える状況にならず、現地法人に判断をゆだねる形となった。最終的には、保険料増加を受け入れた上で、現地判断により加入資格に親も追加することとなった。

水準検証を行わなければ、更新保険料を自ら増加させるリスクを取るのはいかがなものか?という理由で却下され、結果的に従業は平均以下のベネフィットの受ける形となっていただろう。ただでさえ2人に1人が転職を考えている国において、満足なベネフィットを得られないとなれば、退職者が増えるかもしれない。

競争力のあるベネフィットの導入を検討する上で、現状のベネフィットはどうなのか?という観点での問い合わせもあるが、そもそも海外において現状どのようなベネフィットが導入されていて、いくらコストが発生しているかを把握していない日本企業が大多数である。当チームのサービスである「海外福利厚生保険マネジメント (International Benefits Management)」はブラックボックス化されている海外ベネフィットの見える化支援を行い、見えた内容の水準を検証するというサービスである。ご興味があれば一度ご連絡いただければと思う。


荒井 靖也

執筆者: 荒井 靖也 (あらい やすなり)
保健・福利厚生コンサルティング/ Mercer Marsh Benefits アソシエイトコンサルタント

マーサーニュースレターの購読

隔週でマーサーのコンサルタントが執筆する記事をメールにて配信いたします。ニュースレター購読フォーム コンサルタントコラム一覧