PMI (Post Merger Integration)における諸手当統合のポイント - コンサルタントコラム 769 | マーサージャパン

PMI(Post Merger Integration)における諸手当統合のポイント

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PMI(Post Merger Integration)における諸手当統合のポイント
Calendar2017/08/18

はじめに

「年が経てば、手当の重みが分かるようになる」。"大人"の貫録を醸し出していた当時の上司の言葉には、含蓄があった。とはいうものの、人事部へ配属となり社会人駆け出しの当時にあって、しどろもどろになりながら、家族手当の申請方法を社員へ説明しなければならなかった私には、通り過ぎる風のようであった。果たして"あの重さ"を本当に理解できるようになったのであろうか?

手当とは浅からず縁がある。人事初任の業務が手当の承認業務であったばかりでなく、人事コンサルタントになった際も、期せずしてPost Merger Integration(買収・合併に伴う事業・組織・機能の統合)における諸手当の分析に携わり、それ以降も、複数のプロジェクトで諸手当の統合に携わってきた。関り方は変わったかもしれないが、手当のことを考える日々から離れられないのかもしれない。

本稿はそんな筆者の経験から、PMIにおける諸手当の統合について実務のポイントを整理していきたいという試みである。実際に人事制度の統合に携わる際の参考になれば幸いである。

PMIにおける報酬制度(その一部としての諸手当)の位置付け

さて、そもそも、PMIにおいて報酬制度(その一部としての諸手当)の統合がなぜ必要なのであろうか?それは「M&Aの統合効果(シナジー)を出すために、"人"の力が必要であり、一体感を持って統合新会社の経営戦略を推進していく」ため、または「統合が発表された後の社員の不安感を払拭し、現在の処遇に不利益な変更がないことを示しつつ、前向きに新会社で働いてもらうようにする」ためと言えよう。そして、諸手当は、職務遂行能力や役割、評価によって決まる基本給や賞与に比べて、支給対象・条件の変化が目に見えやすいために、報酬制度の中でも社員の関心が高いと言える。従って、統合新会社で前向きに働いてもらうためにも、諸手当の統合は円滑に進めていきたい。

諸手当の統合は大きく次の3つのプロセスで進んでいく。(1)統合各社の制度把握と比較(Side-by-side)、(2)統合方針(個別の手当の具体的な統合方法・移行措置の検討など)の決定、(3)組合(従業員代表)や社員へのコミュニケーションというプロセスである。本稿では上記の(1)と(2)の実務ポイントについて紹介していく。

制度把握と比較(Side-by-side)におけるポイント

最初のプロセスとして、統合各社の諸手当の把握及び比較が必要であることは論を俟たないであろう。しかし、統合方針の決定に向けて意義のある制度把握と比較を実際に行うのは思ったよりも経験を要する。諸手当の制度状況は各社で大きく異なるため、まずは以下のポイントを意識されることをお勧めする。

1. 支給目的に応じた分類・比較

家族手当など比較が容易な手当がある一方で、両社の給与規程を見比べた時にどのように対比をすれば良いのか判断に迷うケースが出てくる。そのような場合、諸手当の支給目的を基に分類することが助けとなる。分類することにより、個別制度の比較という隘路から抜け出し、より大きな視点で比較が可能となる。また、支給目的を意識することは、統合方針を決める際にも重要である。例えば、『属人的な手当は廃止し、職務または成果への支給を明確化するため「生活関連手当」については廃止をする方向であるが、統合後も転勤はビジネス上必要なため「生活関連手当(業務事由)」については条件を統一した上で維持をしよう』など、分類をすることにより議論を円滑に進めることができる。諸手当の分類方法は幾つかあるが、以下は筆者が用いている区分例であり参考にして頂けると幸いである。

 

分類
支給目的
一般的な例
生活関連手当
地域特性や属人的な状況により支給される生活支援色の強い手当
家族手当、住宅手当、家賃補助、寒冷地手当
生活関連手当
(業務事由)
会社都合の異動等に伴い発生する費用を弁済する生活支援色の強い手当
別居手当、単身赴任手当
職種別手当
職種・職務の特性に応じて固定的に支給される手当
役職手当、営業手当、公的資格手当、守衛手当
勤務関連手当
業務に従事した時間や回数に応じて支給される手当
交代勤務手当、待機手当、応答手当、精勤手当
実費弁償的手当
通勤に関連して支給される手当
通勤手当、私有車輛通勤手当
その他手当
給与制度の改定や特別な移行措置で適用される手当
調整手当・暫定手当
法定手当
法定の基準に従い、会社に支給義務が発生する手当
時間外労働手当、深夜労働手当、休日労働手当
(出所:マーサージャパン(2010)『人事デューデリジェンスの実務』より筆者加筆)

2. 支給人数・支給額の把握

諸手当が社員一律に支給されていることは稀であるため、条件変更による影響度合いは社員によって大きく異なる。従って、条件変更について社員の納得が得られるのか、どのようなコミュニケーションが必要となるのかを把握するためにも、給与データで手当別の支給金額・支給人数を把握しておくことが望ましい。また、諸手当の支給状況は、年齢、等級、部門、職種などによっても異なるため、それぞれの切り口で把握しておくと、諸手当の姿がより鮮明なものとなる。なお、手当によっては、年次または月次によって支給状況に波があるため、過去数年分の支給状況の把握も忘れないようにしたい。

3. 内規や運用、異例対応の確認

社員の個別事由に可能な限り応えたいという想いから、多くの会社で諸手当の支給について社員の状況に応じてきめ細やかな対応をされているのではなかろうか。従って、給与規程に定められていないルールが数多く存在するというのが筆者の実感である。例えば、家族手当の対象者に社員本人の父母以外にも配偶者の父母を含むのか、単身赴任をした際に単身赴任先と本宅分の住宅手当の併給を認めるかなどである。統合方針の決定に向けて障害となり得るルールがないかどうか、内規や事務担当者への確認が必要であろう。また、給与データの確認で気付く点であるが、給与規程から逸脱して異例対応をしている社員がいる可能性があるため、異例対応の理由や経緯を確認し、統合後も異例対応を引き継ぐべきなのかを検討しておきたい。

4. 過去の取扱の確認

会社によっては、統合以前に一部の雇用形態のみ諸手当を廃止し、廃止に伴う移行措置を実施したという可能性がある。従って、過去の取扱について確認しておくのが望ましい。筆者が支援したクライアントで、本社の総合職のみ家族手当を廃止した事例があり、廃止した際の移行措置を睨みながら新制度の条件を議論したケースがあった。今回の統合における移行措置が、過去の取扱よりも不利な場合、社員の不満に繋がる可能性があるため注意が必要である。

統合方針の決定におけるポイント

詳細な制度把握と比較が済んだ次のプロセスとして、統合方針を決めていくことになる。このプロセスにおいては、人事制度全体における統合方針(対等合併モデル1、同化・片寄モデル2)等によって前提のアプローチは異なるが、諸手当を廃止し基本給や賞与へ組込む、片方の制度へ統一した上で諸手当を継続する、全く新しい諸手当の制度を構築するなどの検討が必要となってくる。実務上留意すべきポイントを5点ほど紹介させて頂きたい。

1 対等合併モデル(Integration Model):統合するA社、B社のよいところを活かしながら新会社を創っていこうとするもので、財務の統合比率にかかわらず、対等の立場、精神で統合を推し進めて行こうとするモデル
2 同化・片寄せモデル(Assimilation Model):A社がB社を買収する際に、B社をA社へと同化・片寄せすることを前提とするモデル。企業理念のような価値観から、組織運営の細部に至るまで同化・片寄せが行われる

1. 総報酬3を念頭に置いた上での議論

諸手当の統合は、原則、手当毎に新制度条件を決めることになるが、各社制度のメリット・デメリットのバランスを取ることができず、議論が平行線になることがある。しかしながら、総報酬で分析することにより、広い視野でバランスの取れた条件変更を議論することが可能になることがある。例えば、片方の会社に制度を寄せた場合、諸手当においては条件が悪くなるが、基本給や賞与においては条件が良くなる等である。従って、諸手当のみを過度にフォーカスするのではなく、少なくとも基本給を含めた月例給全体、または賞与や福利厚生、退職金も視野に入れた上で議論を行っていきたい。

3 総報酬(Total Remuneration):基本給、諸手当、賞与、長期インセンティブ、各種福利厚生を含めた報酬パッケージ

2. 統合方法は複数オプションを検討

諸手当の統合方法として、現在の支給分を基本給に組込むことが考えられる。その場合、社員にとって総報酬が変わらないため不利益がなく有効な手段と成り得るが、安易に基本給へ組込むのは早計であり、以下の点などを検討した上で最終判断されることをお勧めする。

  • 基本給に組込むことにより、その他人件費(賞与や退職金、法定福利費など)のコストアップにならないか?またそのコストアップは許容範囲内か?
  • 統合時点で諸手当を受給していない社員に不公平な取扱いにならないか?

基本給に組込むデメリットが大きいと判断された場合は、調整手当の使用を検討する、賞与の原資へ振替える、移行期間を設けて廃止する、数年分の支給額を統合時点で一時金として支給して諸手当を廃止する、もう一社にも諸手当の支給対象を広げるなど、他の手段を検討すべきであろう。また、諸手当を受給していない社員を考慮する場合は、現在の手当原資を社員全員に対して均等に配賦する等も一法である。

3. 総報酬での個人別勝ち負け(Winner-loser)を分析

統合方針が決まっていく過程で、社員別の総報酬における勝ち負け(Winner-loser)の状況を分析することをお勧めする。社員別に新制度の条件をシミュレーションすることにより、全体として不合理な不利益変更になっていないか、統合方法の最終確認が行えると同時に、大上段の議論だけでは見えてこなかった課題や懸念点が明らかになる場合が多い。特に、統合前よりも条件が下がる人が出てくる場合は、丁寧な移行措置設計およびコミュニケーションの検討が追加で必要となるため、注意を要する。

4. 勤務形態との関係を整理

個社で人事制度を見直す場合と比較して、PMIにおける制度統合では社員の勤務形態(事業場外みなし労働制、企画業務型裁量労働制など)が同時に変わり得ることに注意が必要である。勤務形態の変更で特に気をつけたいのは、固定残業代の手当、勤務関連手当、法定手当との関係性である。これらは勤務形態が変更になることで統合前との整合性が取れなくなる可能性が高い。統合後の働き方を想定しながら、勤務形態と諸手当の整合性が取れるのか、諸手当が廃止される場合は代替措置が統合前の手当水準と同等と成り得るか等を検証する必要があるであろう。

5. 統合基準日の明確化

諸手当の支給額は、社員の家族や生活により日々変わり得るため、いつ時点の条件に基づいて移行を行うのか、あらかじめ明確にしておかなければならない。一般的には新制度の開始日を基準にするのが望ましいが、開始日を跨いで支給事由が発生するなど一概に割り切れない場合もあり得る。例えば、開始日の前に転勤が決まり、実際に転勤するのは開始日の後になるため住宅手当、単身赴任手当や地域手当の支給状況が変更に成り得るケースなどである。細かい論点であるため、統合方針を議論している際に忘れがちになるテーマであるが、統合時点で慌てないためにもあらかじめ手当毎にどのようなケースが新制度開始前に発生しうるのか想定しておくのが望ましい。

最後に

本稿ではPMIにおける諸手当の統合実務のポイントについて概略を述べてきたが、最後に社員における諸手当の位置付けに言及して本稿を終わりたいと思う。諸手当はM&A全体スケールにおいても、報酬制度(基本給や賞与、退職金との比較)においても原資のインパクトは小さい。実際に、支給している人数が片手で数えられる程度という手当も往々にしてある。しかしながら、社員の生活や家族、働き方に応じて諸手当が支給されるため、それらへの配慮が欠けてしまうと、新制度ひいては新統合会社にネガティブな印象を与えかねない。M&Aにおける統合効果を達成するためにも、新制度における社員の反応・感じ方の機微に細心の注意が必要である。本稿では実務的な面を取り上げたが、社員における「手当の"重さ"」を実感できるようになると、より諸手当の統合を円滑に進めることができるようになるのであろう。


土井口 司

執筆者: 土井口 司 (どいぐち つとむ)
組織・人事変革コンサルティング アソシエイトコンサルタント

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