システムを合わすのか?システムに合わすのか?

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システムを合わすのか?システムに合わすのか?
Calendar2017/10/13

クラウドベースの人材マネジメントシステム(以下、HRITシステム)が日本で導入されるようになって時間が経つが「上手く活用できている」と自信を持って言える日本企業は少ないのではないだろうか。理由の一つは、導入企業もHRITシステムの導入をサポートしている企業も、多くの場合、システム機能や前提となるビジネスプロセスの基礎となっているグローバルプラクティス(多くの国で普遍性のある基本的な考え方やしくみ)やその性質をあまり理解せず、クラウドシステムを導入しているところにある。

クラウドベースのHRシステムを考えると、日本で最大シェアを誇るSuccessFactorsでも、このところ成長しているWorkdayでも、その前提となっているのは、グローバルプラクティス、すなわち、欧米的な人材マネジメントの考え方やしくみだ。人材マネジメントは労務的な面では各国で特徴があるが、基本的な骨格は、欧米諸国やASEAN、南米等の日本以外のエリアでは似通っている。一方、日本の人材マネジメントは世界的に見ると非常にユニークで、しかも個社の独自性が強い。

日本企業は、長期間構成員が変わらない"コーポレイトコミュニティ"を形成する。その中で培われた考え方やしくみは相互に共有され、外部にさらされることは少なく、確固とした信念になっていく。人材マネジメントに関しても自分たちのやり方にこだわる。そのため、ある共通前提(グローバルプラクティス)の上にできあがったシステムを導入する際も、自分達のやり方を再現すべく、それにシステムを合わせようとする。しかし、クラウドシステムは全く違う共通前提の上にできあがっており、そもそも共通性を高くしコストの低減を図ろうとしているので、カスタマイズ余地が少なく、いろんな無理をすることになる。

例えば、クラウドシステムのゴールマネジメント(目標管理)機能を導入する際に良くでてくる話がある。精緻な人材マネジメントをする会社では、「個々の目標に難易度を設定し、また、目標の重要性を判断するために各目標にウェイトを設定する。期末に個別の目標達成度を評価すると、難易度、重要性を加味した計算式で総合点が算出され、その総合点が業績の総合評価になるしくみ」を見受ける。そしてこれをシステム上、再現してほしい、という要望が出てくる。クラウド上でこのような機能を実現するのは意外に大変である。仕様によっては、頑張って検討したけど実現不可能、ということもあり得る。

ところで本当にゴールマネジメント(目標管理)にこんな機能がいるのだろうか?「個々人にとって担当業務の難しさが違うのは評価上不公平だから、目標の難易度を設定し評価に反映する」という思想から難易度を設定しているが、現実問題、多様で千差万別な目標の難易度を正確に測定することは難しい。できたとしても、ものすごく手間がかかるだろう。現実に現場で起きていることを見ると、運用が難しく手間がかかるので、難易度は全て標準にしていることが多い。しかし、いざシステム化となるとシステムに反映したくなる。ウェイトに関しても実は達成しやすい目標のウェイトを高くすると評価が良くなる、など駆け引きも発生し、運用上問題を起こしやすいが、これもシステムに乗せたいというニーズがでる。

シンプルに考えれば、ゴールマネジメント(目標管理)は目標をきちんと経営レベルからカスケードし、それがワークしているかどうかをモニタリングできれば良い。それならば、難易度や重みをわざわざ設定せず、目標の達成未達を確認した上で、総合的に評点を1つだけつければ良い。グローバルカンパニーの多くがこのパターンを採用しているし、クラウドベースのHRITシステムも基本この考え方を採用している。(最近は総合レーティングをしないこともある。)そこに日本独自のユニークネスを入れるので、手間が掛かるし、うまく実現できないこともある。

他の例をあげたい。グローバルプラクティスにおいてはマネージャーの裁量が大きい。昇給、賞与、昇格は与えられたファンドの中でマネージャーが決める。グローバルプラクティスにおいては人材の確保と活用はビジネスオペレーションの一部と考えられており、そのための権限はビジネスの責任を負うものが持つべき、というのが基本的な考え方だからだ。そのため、HRクラウドシステムはトップをはじめ、マネージャーが手を動かして主体的にITシステムを活用することを前提としているが、こんなことをマネージャーにさせられない、という話が良く出てくる。その理由は概ね2種類だ。一つはこんな面倒なことを経営者や上級管理職にやらせるのは恐れ多いというケース。もう一つは部下とは言え、個々のマネージャーに個人の情報は見せられない、という話だ。こうなると、人事部が多くの事務の代行をせざるを得なかったり、マネージャーに限られた情報しか与えられず実効性のあるタレントマネジメントが難しくなったり、という障害が出やすい。いずれの例も、クラウドシステムにある基本的な考え方を良く理解せずに、自分たちのニーズに合わせながら、無理をしてシステム導入してしまったケースである。

システムを導入する際は、目的や自分たちのやりたいことを明確にして、それに合ったシステムを作り上げる、というのが長年のセオリーだ。ゼロベースでシステム開発をしていた時代はまさにそうだったし、パッケージ化されたERPの時代になっても日本においては相当程度大規模なアドオン開発・カスタマイズが行われてきた。つまり、「システムを自分たちの伝統的なやり方に合わす」というのが基本コンセプトだった。

しかしながら、クラウドシステムに関してはこの考え方はあまり相性が良くなさそうだ。うまく活用している会社は、システムやその前提となるグローバルプラクティスの性質を把握し「自分たちのやり方をある程度システムに合わす」形で導入・運用している。

日本企業の今後の成長はグローバル化の進展・成功にかかっている。この文脈で大局的に考えると、人材マネジメントもグローバル化が必須である。HRITシステムを導入するというのであれば、時間軸や変革のハードルの高さはともかくとして、その前提となるグローバルHRプラクティスへ全社の舵を切る、というコンサンサスを作った上で、クラウドシステムの導入に進まれてはいかがだろうか。HRクラウド導入の際は、自分たちの伝統的なやり方に合わせてシステムを変えるのではなく、グローバルマネジメントの展開を兼ねながらシステムに自分達を合わせる方がより実効性が高いように思える。


白井 正人

執筆者: 白井 正人 (しらい まさと)
執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表

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