マーサーが提案する、購買力補償方式はじめの一歩 

13 12月 2017

海外赴任者の処遇については様々なアプローチがあり、その企業の海外進出のフェーズや海外赴任の位置づけに応じた制度を設定することが望ましい。その代表的なアプローチのひとつ「購買力補償方式」は、「本国での購買力と同等の購買力を赴任先でも維持する」ことを旨としており、国内勤務者との間でも、また海外赴任者間においても、公平性を保てることで処遇に納得性を持たせやすいという特長がある。

このコラムを書いている11月中旬、この購買力補償方式に基づいて海外赴任者の給与 (任地生計費)を決定するためのデータである『マーサーICS任地データ』がリリースされた。

任地データは『生計費インデックス』*や『任地住宅費情報』などから構成されているが、こうした情報は為替やインフレの状況等によって変動する要素を持っている。マーサーは任地の状況を年間通じて把握することが重要と考え、年4回データをリリースしている。そのうちの2回は最新の為替レートを用いて生計費インデックスを計算し直したデータ、他の2回はデータソースそのものを更新したうえで算出し直した『生計費インデックス』と最新の『任地住宅費情報』を掲載したデータである。また、それとは別に、インフレーションの進行が早い、政情が大きく変化している等、任地の為替や物価の変動が大きくなっていると判断した場合は、臨時に更新することもある。

* 「本国の水準を100として、本国通貨で見た本国と任地の相対的な物価差を表す指数」のこと

こうしたデータは海外赴任者の給与や処遇に直結する重要な情報のため、常に世界中の情勢を観察して対応しているのだが、使用するデータソースのうちの一つに、世界中の弊社の調査員がそれぞれの都市においていくつもの店舗を実際に訪ねて行う「価格調査」がある。これは生計費を測る指標を算出する価格を確認する調査なので、生活と密接に関連するモノやサービスの値段を調査する。

そう書くと消費者物価指数が思い浮かぶかもしれないが、我々が対象とする消費者はその都市の市民ではなく外国人(海外赴任者)であるという点と、消費者物価指数の変動は「その都市における一定期間の物価変動」を示しているのに対し、生計費インデックスの変動は「異なる2都市間(本国・任地間)の特定の時点での物価差の変動」を示すという点で、両者は根本的に異なっている。
また、「価格調査」における調査対象品目や店舗の選定は、海外赴任者の任地生計費を算出するという観点から細かく規定している。その選定の参考とするため、クライアント企業の協力を広く仰ぎ、任地での実際の購買行動を確認する調査も定期的に行っているが、これはいわば、調査のための調査である。

これらの過程はすべて購買力補償方式を実現させるデータを提供するためである。筆者は専らデータ担当として業務を主幹する海外の部署と協働しているのだが、こうして万全を期して世に送り出したデータは、やはりきちんと役に立ってほしい。そうした願いを形にした商品が2つある。ひとつは『海外赴任者報酬スタートパッケージサービス』、もう一つは『海外派遣者報酬ベンチマークプラクティス比較サービス』である。

1. 『海外赴任者報酬スタートパッケージサービス』

購買力補償方式の実現には、そのコンセプトを正しくご理解いただき、運用に落とし込んでいただくことが必要である。とはいえ、企業の状況によっては現行制度の整理・見直しから始まることも多く、なかなか工数がかけられないという状況もあると聞く。そのような場合には、マーサーが代わって生計費データを使い購買力補償方式に基づいて海外赴任者報酬を算出する、このサービスを是非利用していただきたい。海外赴任者向け手当の金額についても、このサービスでは任意の条件で抽出した「ベンチマークプラクティスデータ」を提示するので、このサービスをご利用いただく企業はそれを参考にして設定いただくこともできる。

2. 『海外派遣者報酬ベンチマークプラクティス比較サービス』

海外赴任者の給与の組み立てや処遇の内容は、たとえば棚卸のようにどこかのタイミングで全体を見直すのではなく、経年の中で、その時々の状況に対応しながら制度化されることが多いように見受けられる。しかしその時々の最適解を積み上げたものであっても、海外赴任を取り巻く状況はいつまでも同じではない。また給与の中身、福利厚生の施策は相互補完的な意味合いを持つものも多いため、意図しない内容になっていることも往々にしてあるのではないか。
そんな疑問に答えるために『海外派遣者報酬ベンチマークプラクティス比較サービス』がある。

従来、海外赴任者の報酬水準は、国内人事制度との関係や、赴任都市の違い、適用するアプローチの違いなどから容易には他社との比較ができなかったが、それを、豊富な市場プラクティスデータや最新トレンドに基づき「ベンチマークプラクティス」を設計することで可能としたのがこのサービスである。
海外に赴任する社員に余計な苦労をさせないことも大切だが、過剰なサポートを見直すことで企業側のコストを抑えることも大切である。自社水準の競争力を可視化したうえで、必要に応じて報酬項目を検討することが、制度改定の契機となることもある。

世界中でマーサーが任地の情報を集め、分析し、データをリリースしてきていること、日本国内においてもクライアント企業から他に類を見ない数の実例を収集してきていることが、こうしたサービスの提供を可能にしている。
購買力補償方式の導入でお困りの場合は、ぜひこうしたサービスを検討に加えていただきたい。

著者
船本 陽子

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