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買収後の経営統合に向けた土台構築 - 経営者オンボーディング -
Calendar2018/03/02

現在日本企業のM&A市場は活発であり、直近に於いても買収先の企業価値が1兆円を超える大手上場企業に対する買収案件を目にする。但し、これだけマーケットが活発な中でも、買収後の投資コストが回収されている企業の所謂ベストプラクティスに関する記事は、まだ少ないといえる。そこで、今回は買収効果の最大化に必要な人事的アプローチについて、私見を混ぜながらではあるが、簡単にご紹介させて頂きたい。

近頃、買収後の長期インセンティブ制度のKPIsの目標値(合意済みの事業計画の数値に基づく)の再設定を買収先の経営者から打診されたケースや、当初の合意内容とは全く異なる計画や予算が挙がってきたケースを耳にする機会がある。理由は様々であろうが、このような事象が起こる際の課題として、両者間での「計画目標の持つ意味」や「物事に対する考え方」についての摺合せが甘いのではと筆者は考えている。

一つ目の課題である「計画目標の持つ意味」とは、例えば、両社のプリンシパル間で合意した目標数字は希望的観測に基づく達成目標(売り手も内心難しいとわかっている)なのか、それとも投資コストを回収するために最低限必要な絶対目標なのか、によって異なる。前者であれば努力目標として認識されるであろうし、後者は絶対目標なので、未達の場合は各経営陣の任免にまで発展しうる話である。この点に認識相違がある場合は致命的である。なぜなら、買収後1~2年の期間を棒に振る、重大な機会損失の可能性すらあるからである。

続いて、二つ目の課題である「物事に対する考え方」については、企業風土や文化の違いが両社間の認識相違の要因となることがある。例えば、企業によって「予算目標」に持たせる意味と「計画目標」に持たせる意味が異なるケースがある為、買収先に於ける言葉の位置づけや意味を正確に認識・理解することが重要である。なお、この認識相違はM&Aによって発生する特有の事象であると考えられ、基本的には同じ単一組織体の中では起こることが少ない現象である。もし読者の中に転職経験者がいれば、前職と転職先の会社の業務プロセスや考え方の違いに驚いたこともあるであろう。M&Aに於いては、いわばこの認識のずれが会社の経営レベルで起こるとご理解頂ければよい。

では、「計画目標の持つ意味」や「物事に対する考え方」に於ける相互理解を確実に築く為には、どのようなアプローチがとれるのであろうか。

一つ目の課題である「計画目標の持つ意味」の相互理解を醸成する上で最も重要となるのが、サイニング後早期の「経営者オンボーディング」である。これは、買収先の経営者に対して、買収の目的や投資コストの回収に向けた絶対目標及び目標達成に向けたアプローチに関する合意形成を行い、クロージング後のより具体的な戦術策定に向け、同じスタートラインに立つ状態を作ることである。これは、所謂「期待値の伝達」といったサイニング前のオファー時に行う対象経営陣の継続勤務の同意取得に向けた意思表示とは異なり、より確度の高い絶対目標水準の達成に向けた相互理解を醸成するものである。

効果的な「経営者オンボーディング」を行うためには、両社のプリンシパル同士の話し合いの席であるP-to-Pミーティング(通常、サイニング前に実施)の建付けが重要であり、大別して二つポイントがあると考えられる。

一つ目のポイントは、先に述べた相互理解を醸成するための「計画目標の持つ意味」の整理である。この点が事前に十分に議論・整理されていれば、目標達成及び目標未達が意味することが明確になり、買い手の意思を明確に表すことができる。それに伴いリテンションの話し合いが難航する場合もありうるが、サイニング前に目標に関する討議・目線合わせができているということは、相互合意に向けた健全なステップを踏んでいると考えて良い。

二つ目のポイントは、メッセージの伝達方法である。なぜなら、認識相違が起こった原因の一つに言語の壁があると思われるケースが少なからず見受けられるからである。単刀直入に言うと、なぜ数十億円、数百億円、ひいては数千億円の買収を行った前提条件である業績目標の伝達・合意の際に、第2言語である英語の使用にこだわるのかと言う点に尽きる。自分の口から伝えるということが重要である一方、買収後の企業の航路を左右する重要な会議に於いては、日本の優秀な経営者の視点を先方の経営者に的確に伝達することがより重要ではなかろうか。M&Aの効果を最大化する為にも、より確実に先方に伝達できる方法は何かという点により注意を払うべきであり、その為の手段として優秀な通訳を使用することが、両者間の明確な合意形成の一助となるのではないか。

以上の二つのポイントを念頭にP-to-Pミーティングを建て付けることにより、両社間での認識を正確に擦り合わせることができ、両社が同じスタートライン上に立つことができるのである。

そして、冒頭の二つ目の課題である「物事に対する考え方」の相互理解を醸成するための手法の一つが、「リーダーシップ融合ワークショップ」である。これは、両会社間での「物事に対する考え方」の違いを経営者レベルが参加するワークショップで明らかにし、買収後の新組織のあるべき姿について討議する場である。この手法は、「企業文化や企業風土が、経営を行う上での物事の考え方や優先順位を決める根幹を成し、事業の運営方法や日常の業務プロセスはそれに基づき構築される」という考え方である。非常に定性的に聞こえるが、実際は事前に各社の経営陣に対してサーベイを実施し、現状の企業文化・風土及び買収後の目指すべき姿について可能な限り定量的に明らかにするのである。これにより、実際のワークショップに於いては、各社の現在の姿や目指すべき姿の差異や整合する点を具体的に検証することにより、双方の思考回路を理解することができる。

その為、「リーダーシップ融合ワークショップ」は、非常に有益な「経営者オンボーディング」ツールの一つであり、買収後の経営統合を行う土台構築の一助となるものと考えている。

本稿では、買収目的の達成の確度を挙げる為の「経営者オンボーディング」の重要性、及びその手法の一つとしての「リーダーシップ融合ワークショップ」についてご紹介した。今後、日本企業がM&A効果の最大化の為に、どの様に買収先の経営陣をオンボードさせるのか、いかに企業経営に於ける両社の共通理解を醸成するのかについて、ご一考頂ければ嬉しく思う。


横田 真育

執筆者: 横田 真育 (よこた まいく)
グローバルM&Aコンサルティング コンサルタント

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