仮想通貨-愚者の金(ゴールド)か未来の通貨か - コンサルタントコラム 796 | マーサージャパン

仮想通貨-愚者の金(ゴールド)か未来の通貨か

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仮想通貨-愚者の金(ゴールド)か未来の通貨か
Calendar2018/04/13

仮想通貨が話題を集めている。昨年までは、仮想通貨の値上がりに乗った一攫千金を狙う話で持ち切りであったところ、今年は一転ひたすら規制モードである。
仮想通貨に関する識者の見解も分かれている。米国連邦準備制度理事会(FRB)の前議長のベン・バーナンキ氏のような肯定派がいる1一方で、ノーベル経済学賞受賞の経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏のような否定論者2も存在する。一体、どちらの考え方に与するべきなのであろうか。また、そもそも、仮想通貨は、投資対象として考慮に値するものであろうか。本稿ではこれらの点に検討を加えてみたい。

1 「技術革新を通じて、より効率的な決済手段をもたらすのであれば、仮想通貨は長期的な成功が約束されたものである可能性がある」
2 「社会的に有用な機能は何一つなく、直ちに禁止すべきだ」

ここで改めて仮想通貨に関しておさらいをしておこう。
仮想通貨(ここでの説明に当たっては「暗号通貨」という表現がシックリくるが)とは、分散化されたデジタル通貨である。全ての取引は、暗号化され、ブロックチェーンと呼ばれるネットワーク上の一種の台帳に半永久的に記録・格納され、「台帳」は多くのコンピューターに共有される。仮想通貨を用いて行われた取引の適否は、マイナー(採掘者)と呼ばれるネットワーク上の「ボランタリー」な参加者により検証・確認され、適正と認められれば、ブロックチェーンに付け加えられる(マイナーは、この作業の報酬として、仮想通貨を受け取ることができるので、「ボランタリー」というには当たらないかも知れない)。また、殆どの仮想通貨は、総量に上限が設けられており、徐々に「流通量」が減少するように設計されている。この辺りは、貴金属の産出量が有限であることを模している。尤も、仮想通貨は、通常の通貨と異なり、発行権限を持ち、その信用を裏付けるような経済主体(中央銀行)は存在しない。

仮想通貨の根幹を成す技術は、ブロックチェーンであり、仮想通貨の取引は、個々のブロックで検証され、そのブロックに記録される。そのためには、マイナーは暗号解読を含め複雑な計算や処理を行う必要があり、これはハイスペックのコンピューターを多数用いて試行錯誤を繰り返さないと、とても処理できるものではない。逆に言えば、大容量のコンピューターを用意できれば、仮想通貨の記録・検証により、仮想通貨の報酬を受け取ることができ、また状況次第で新たなブロックを形成できるチャンスが開かれている、ということになる。また、ブロックチェーンは、多数のコンピューターに保存される。言い方を変えれば、ブロックチェーンは分散化された複数のコピーを持つ取引台帳であり、改竄による影響は受け難いという特性を持つ。以上を総括すれば、ブロックチェーンは、オープンであるがゆえに万人に開かれており、それでいながら取引参加者により共有され、また監視されているため不正が行われ難いとの特性を持つ。

ここで注意を要するのは、仮想通貨とブロックチェーンの技術とは区別して考える必要がある、ということである。ブロックチェーンは、デジタル取引の世界の主要なプレイヤーが巨額の投資を行っているインフラストラクチャーである。ブロックチェーンの大規模なコンソーシアムのひとつがエンタープライズ・イーサリアム・アライアンスであり、200名以上の会員数を誇り、アクセンチュア、マイクロソフト、シスコ及びJPモルガンなどの企業も会員となっている。他には、R3があり、100以上のグローバルな金融機関から構成され、Cordaと呼ばれる、ブロックチェーンからヒントを得た、自身の取引台帳のテクノロジーを有している。
ブロックチェーンは、それゆえ、来るべき10年間、金融セクターに限らず、より広範な経済主体に大きな影響をもたらしうるエキサイティングな技術発展と見ることができる。

ここで話を仮想通貨に戻そう。
仮想通貨の特徴として、よく取り上げられるのが、(1)中央銀行の管理を受けない「民主的」な通貨であること、(2)匿名性が確保できること、(3)ソーシャルメディアに馴染みやすいこと、である。
それぞれ見ていくと、(1)「民主的」な通貨という点は、まさにその通り、通貨を発行する中央集権的な権限や機能がない以上、その「通貨」の価値の保全は、その仮想通貨取引に参加する人々の意思に委ねられることになる。もし、運営その他の変更がある場合には、参加者の投票で決めることになる。

(2)の匿名性の確保という点も尤もなことであるが、匿名性は、往々にして、不適切な方向に用いられる。例えば、2017年5月には、WannaCryという「身代金プログラム」がバラ撒かれ、これに感染した個人・法人がそのプログラム除去のために「身代金」支払いを要求される羽目に陥った。その「身代金」支払いには、ビットコインが用いられ、仮想通貨の持つ匿名性が悪用されるという不面目な前例となった(ただし、匿名とはいうものの、誰が「身代金」を受け取ったかは、ある程度のレベル(例えば偽名や口座名)では特定されている。また仮想通貨の「取引所」(交換業者)は、仮想通貨のユーザーが誰かほぼ正確に把握しており、完璧な匿名性が保たれているという訳でもない)。また、個人レベルでも仮想通貨の匿名性を悪用することが可能である。例えば、英国のドラッグ使用者の1/4は闇サイトを通じた禁止薬物の購入の対価として仮想通貨を用いているとも言われている。仮想通貨のこうした側面は、政府や規制当局による介入を招く格好の材料となる。

(3)のソーシャルメディアに馴染みやすい、という点は、「痛し痒し」の面がある。すなわち、比較的短期間に社会に受け入れられやすい反面、人気の過熱を招きやすい。日本では、昨年後半、急激な価格上昇から取り残されたくないという熱に憑かれた個人が続々と参入し、それにより価格がさらに上昇するという現象が生じた3が、その後のコインチェックのトラブルで価格が急落、さらに取引を行う人々が一部離脱し、価格下落に拍車が掛かるといった事態に至った。仮想通貨を決済手段として用いることを目的とする場合、幅広く人々に認知されるのは好ましいことではあるが、認知されることが却って価格の乱高下を招くようであれば逆に決済手段として適切さを欠く。

3 日本人の仮想通貨の取引口座保有者は150万人を超えたと推計されており、ビットコインの円建て取引のシェアは約4割と世界首位に躍り出たとされる(出所:日本経済新聞社編「仮想通貨バブル」)。

以上のような特性を持つ仮想通貨がさらに進んで、通常の通貨や価値保存の手段としての金(ゴールド)に取って代わることができるのであろうか? もしそこまで目指すのであれば、解決すべき重大な課題が多く残っている。既に述べたこととの重複を承知で述べると、(4)ハッキング/窃盗、(5)価格の高騰、(6)政府の介入、(7)手数料、(8)持続可能性(ESG)の諸点である。

(4)ハッキング/窃盗は、既に、我々は日本で経験済である。2018年1月に生じたコインチェックで仮想通貨NEMを購入した利用者が合わせて約580億円の盗難に遭った。尤も、匿名性の壁に阻まれているものの、どこに資金移動したかまでは把握されていると伝えられている。通常の通貨盗難とは異なり、ブロックチェーンならではの強みが発揮された形ではある。また、ハッカーは大規模な窃盗を働くことはできるが、偽造などの仮想通貨の有効性に根本的な変更を加えることはできない。これもブロックチェーンならではのメリットと言える。

(5)価格の高騰は、前述(3)と絡むが、ソーシャルネットワークの世界で情報が行きわたり易いことが一因と言える。仮想通貨は発行量に上限が設けられていること、新たな決済手段として期待できること、民主的かつ分散化された「通貨」であることなど、元々、仮想通貨に関心が集まりやすい素地が出来上がっていた。日本の場合、これに、仮想通貨の購入で一躍億万長者となった人の成功談が盛んに取り上げられ、昨年後半は、一攫千金を狙う人たちが続々と参入、これがさらに仮想通貨の価格を説明不能な水準にまで押し上げた4

4 ビットコインの価格は、昨年12月には、一時年初の約20倍、3年前の約100倍になったという(出所:日本経済新聞社編「仮想通貨バブル」)。

こうした説明不能な水準までの価格上昇は、90年代のITバブルと近似している。当時は、インターネットに僅かでも関連のある企業は(時には関連がなくとも.comと社名に付けるだけで)、それぞれの企業のビジネスモデルや将来の展望は一切顧みられることなく、驚異的な上昇を見た。しかし、その後、こうしたバブルは弾け、多くの企業で、当時の株価水準はやはり正当化できないとの結果に終わった。仮想通貨と企業とは経済的な位置づけや意義が異なり、同列に論じるのは適切ではないとの考えもあろうが、市場参加者の根拠なき熱狂という点で参考にすべき点は少なくない。

(6)政府の介入という点では、既に述べたように、仮想通貨は、その匿名性ゆえに、不法行為に用いられることが往々にしてありうる(その究極は、マネーロンダリングである)。政府は、仮想通貨のこうした側面を禁止し、規制を掛けてくる公算は極めて高い。そもそも、2018年は、政府や規制当局が仮想通貨を精査する可能性が高いと見られていたが、その矢先に、コインチェック問題が生じ、さらに厳しい目で見られるようになった5。この結果、「取引所」(交換業者)が閉鎖に追い込まれる事態も想定されないではない。

5 2018年3月にアルゼンチンで開催されたG20では、仮想通貨を、「通貨」としての特性を欠く「暗号資産」と断じ、消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与など、さまざまな問題を抱えていると指摘、今後、金融監督者が集まる金融活動作業部会(FATF)で、交換業者の登録制、利用者の本人確認など、規制強化が検討されることになった

あるいは、政府当局自身が仮想通貨の創出に乗り出してくることも考えられる(例えば、ロシアのCryptoRubleやスウェーデンのe-konaなど)。こうした状況が生じれば、現状の仮想通貨は多かれ少なかれ影響を受けざるを得ない。

(6)に絡むが、(7)手数料も問題となる。まずは仮想通貨取引の参加者の熱狂により、大量の資金が仮想通貨市場に流入、取引量が急増し、マイナーの記録・検証作業に遅延が生じてきた。その早期実施を促すために仮想通貨の「取引所」(交換業者)は、マイナーへの報酬水準を引き上げざるを得なくなった。例えば、ビットコインの創設当時は、取引手数料はほぼ無料であったのが、2017年末では、取引手数料は平均で25米ドルにも達している。

さらに、仮想通貨の「取引所」(交換業者)は、仮想通貨の取引の際、売値と買値で差を付ける。例えば、ある海外の主要「取引所」(Coinbase)では、0.25-1.00%の値幅が生じているが、これは取引参加者が負担すべきコストに跳ね返ってくる。さらに、別途の手数料を徴収するケースも見られるが、仮想通貨取引に当局の規制が及んでこなかった状況下では、仮想通貨の取引参加者が隠された手数料を徴収されていることがあっても驚くに値しない。

(7)持続可能性(ESG)の観点からも検討すべき課題がある。E(Environmental)の面では、マイニング(採掘)にはハイスペックのコンピューターが数多く必要で大量の電力を消費する。大規模な仮想通貨の採掘業者の中には、水力発電の余剰電力を用いるものもいるが、これは明らかに、マイニングを伴う仮想通貨が「グリーン」インベストメンツと見做すことは不適切であることを示している。また、S(Social)の面でも、仮想通貨、中でもビットコインは、サイバー犯罪、ドラッグ、マネーロンダリングに利用されることが多く、ダークサイトの主要通貨ともなっている。他の仮想通貨でも同様の現象が見られる。

では、仮想通貨の今後はどうか?
仮想通貨の根幹を成すブロックチェーンのテクノロジーは、決済などの領域で大きな役割を果たすことが期待される。一方、仮想通貨そのものは、匿名性という利便性があること、潜在的な大きな価格変動があること以上の意義を見出すことは現時点では困難である。
中には、仮想通貨をデジタルゴールドと見做すことができると主張する向きもあるが、金融システムの中で、数千年の間、価値保存の手段としての役割を果たしてきた金(ゴールド)と仮想通貨を同列に扱うのは無理がある。

明確に言えるのは、仮想通貨は現状では、投資対象や価値保存の手段と見做すことはできない、ということである。仮想通貨は、パッシブな投資家(マイナー以外=非採掘者)に対してインカムをもたらさないし、満期も明らかではない。それゆえ適正価値を評価する推定することは不可能である。加えて、仮想通貨が人気を博するにつれ、一部の取引参加者が価格を吊り上げてきており、2017年以降は、投機的と言わざるを得ないバブルが生じている。こうした状況下では、なおさら投資対象と考えることは困難である。
賢明な投資家諸賢におかれては、この騒動に積極的に参加することは避けて、事態の推移を見守ることをお勧めしたい。

(参考文献)
マーサーリサーチペーパー「CRYPTOCURRENCIES-Fool’s Gold or the Future?」
日本経済新聞社刊「仮想通貨バブル」

大塚 修生

執筆者: 大塚 修生 (おおつか のぶお)
取締役 資産運用コンサルティング 部門代表

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