人生100年時代における持続可能な年金制度 

04 12月 2018

先日、2018年度の「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数」が発表された。
その詳細はリンク先のレポートをご参照いただくとして、やはり日本人としては34か国中29位と、日本の年金制度の評価の低さが気になる。とりわけ、十分性、持続可能性、健全性の3つの柱のうち、持続可能性においては32.4点でE評価と、極めて低い結果になっていることが目を引く。

この指数は公的年金だけではなく、企業年金や私的な貯蓄なども評価に組み入れているので、必ずしも公的年金の持続可能性を指している訳ではないのだが、こと日本においては社会保障費の急速な増大など、年金の持続可能性というと、公的年金制度がテーマとなることが多い。本稿でも公的年金制度を取り上げ、「持続可能な公的年金制度」とはどのようなものであるか、考えてみたい。

まず、日本の公的年金制度の持続可能性を疑問視する際に理由として取り上げられるのが「少子高齢化」である。日本の年金制度は賦課(ふか)方式とよばれ、現役世代の支払った保険料が今の受給者の給付支払いに充てられている。そのため、少子高齢化が進むと支払う側と受け取る側のバランスが崩れ、現役世代の保険料が上がりすぎるために維持できない、というのがその理由である。この図式は世間で多くの人たちが公的年金に対して抱いているイメージだと思われるが、誤解もかなりあるように思われる。

厚労省のウェブサイトなどでも分かり易く解説しているが、日本の公的年金では2004年からマクロ経済スライドを導入しており、現在の想定以上に少子高齢化が進んだ場合、上記のように現役世代の保険料負担が一定以上に上がり過ぎないように給付額を自動的に調整する仕組みが存在する。

名目保障措置など細かい仕組みがいろいろとあるものの、平たく言うと、少子高齢化による負担層と受益層のバランスの崩れが一層進んだ場合、ある一定以上は保険料率を増やさない代わりに、自動的に給付を下げる、という仕組みだ。

これがために、日本の公的年金の財政が破たんすることは無い、と言えるのだが、これは「持続可能な制度」と言えるのだろうか。

保険料を納める側の現役世代からすると、保険料負担が青天井に増加することを抑える意味でも持続可能、といえるだろうが、(その現役世代もいずれなるであろう)年金受給者の観点からすると、人口動態の変化が今以上のスピードで進むと、その分だけ年金が減ることになり、生活自体が維持できなくなる可能性が出てくる。

それを防ぐために、このマクロ経済スライドは時限措置となっており、調整終了は2043年から44年となっているが、そのタイミングでマクロ経済スライドを止めると、今度は更なる少子高齢化の影響が財政難、ひいては保険料負担の増加という形で現れることとなる。

いずれにせよ、現行制度の根源的な問題はやはり負担する側と受け取る側のバランスが悪い、ということに尽きるので、これを解決しないことには、本質的な意味での持続可能性は達成できない。

ちなみにこれと同じような給付額を自動的に調整する仕組みは日本独自のものではなく、ドイツやスウェーデンなどでも、例えば平均余命が上がればその分給付額を自動的に調整する仕組みが存在する。

一方、年金制度の財政や持続可能性を考えるうえでもう一つ重要な要素である受給開始年齢についても自動的に調整を行う仕組みが存在する。

奇しくもランキング上位のデンマークやオランダが正にそうで、デンマークは現在の支給開始年齢の65歳から段階的に引き上げ、2025年以降は、平均余命に応じて支給開始年齢が前後する仕組み、オランダも2022年以降は、同様の仕組みの導入を決めている。したがって、平均余命が上がり続けると、それに沿って年金の支給開始年齢も上がり続け、現役世代はずっと働き続けることになる。

どちらの仕組みも自動的に調整を発動することで、財政上の過度な負担を回避しているという意味で有効な仕組みだが、あえて私見だが優劣をつけるとすると、オランダ・デンマーク型が有利だろうか。マクロ経済スライドを始めとする仕組みでは、給付額の調整にとどまり、負担する側と受け取る側のバランスを修正する機能が無いのに対して、オランダ・デンマーク型は、支給開始年齢を遅らせることで、半ば強制的に現役世代が現役世代に留まることを強いる。そのため、より本質的な問題である人口動態のアンバランス改善にも寄与し、より持続可能性な制度と評価できるのではないだろうか。

無論、我々現役世代から見ると、「下がり続けるゴールポスト」を相手にするわけで、それが好ましい制度か、と言われると必ずしも同意する人ばかりではないだろう。
ただ、これからの人生100年時代、好むと好まざるに関わらず、なかなかリタイアできない時代、と言うのはデンマークやオランダに限らず、案外そう遠い未来の事では無いのかもしれない。

著者
北野 信太郎

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