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資産運用のリスクとチャンス2019

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資産運用のリスクとチャンス2019
Calendar2019/01/29

今、資産運用を計画するとき、あるいは自らの資産ポートフォリオの持つリスクを特定しそれに備えようとするとき、どんなテーマに注目すべきか。ヒントは2018年の資産市場に大きな変動をもたらした要因にあると考えています。

株式やクレジットへの投資から着実に収益を積み上げることができた2017年とは一変して、2018年はたびたび株式市場の急落に見舞われ、また、その背後にある先行き不透明感がクレジット市場に伝播して、投資家は思うようにリターンを上げることができませんでした。こうした変動をもたらしたのは、まず米国の金利上昇、そしてその変動を増幅したのが市場参加者の変化、そこに米中貿易戦争や欧州政治の混乱が加わって、事態はいっそう複雑なものとなった、という構図でとらえることができないでしょうか。そうだとすれば、リスクの所在を明らかにし、さらにそこに潜む投資チャンスを見出していくうえで優先的に考察すべきは、(1)米国の金利上昇が今後どのような影響をもたらしうるか、(2)市場参加者に着目してほかに得られる示唆はないか、(3)米中貿易戦争や欧州政治の混乱はどこに向かうのか、この三点であると言えるでしょう。ここでは、それぞれの切り口から資産運用のリスクとチャンスについて考察してみます。

(1)米国金利上昇の影響

金利の上昇は資産価格水準の調整を迫ります。低金利環境で生み出していた利益と同水準の利益しか生まない企業の株式は、安全資産金利に対する魅力が低下するためです。株価を維持しようとするなら、それに見合うさらに高い利益を生み出さなければなりませんが、それができなければ株価を調整するしかないのです。金利の上昇は、低金利環境では見えにくかった企業の実力をあぶりだす一面があるとも言えます。とりわけ低金利環境下で進行した負債の膨張には注意すべきで、たとえば銀行ローン市場を見ると、借手に財務活動上の制約を課さない「コベナンツ・ライト」と呼ばれる契約が増え、その割合は2008年のグローバル金融危機直前の3倍以上に達しています。投資適格社債市場であっても、その負債比率は上昇を続け、今やBBB格の社債が市場全体の50%前後を占めているのです。

金利環境の変化で「選別」の重要性が高まるものと考えられます。金利が低かったがゆえに生きながらえてきた企業は借り換え等の局面で試練を迎えるかもしれませんが、これを避け、元利払いに問題のない企業を選べば、その社債を満期まで持ち切ることにより高い利回りを得られるチャンスがあります。実際に借り換え困難な企業が現れ始めれば、債務再編を投資機会とする運用(ディストレスト債権運用)の出番も予想されます。また、新興国債券も含めどんなクレジットを取るかで収益に大きな差が生まれるとすれば、局面に応じて適切なクレジットを選ぼうとする「マルチアセット・クレジット」運用は注目に値するでしょう。株式についても、配当を毎年着実に増やしていける企業の方が、金利上昇の影響を受けにくいものと考えられます。債券だから、配当が安定しているから、株価下落局面に強いとは一概に言えない可能性に注意してください。

(2)市場参加者の変化

金利の上昇は株価下落のきっかけとなりましたが、その都度、過剰反応があったとも見ており、それは、「下がったら売る、上がったら買う」いわゆる順張り型の戦略によって主導されたと考えられます。一定期間内に被る損失額を限定しながら価格上昇時のリターンを得ようとするオプション複製戦略、リスクの高まった資産への配分を落としてポートフォリオのリスク・バランスを保とうとするリスク・パリティ型戦略、ポートフォリオのリスクを一定に保とうとするボラティリティ・コントロール型戦略といった戦略がこれに該当します。これらの残高が積み上がっていたことが過剰反応の要因と見られますが、「適切な価格では買いが入る」という市場本来の価格発見機能が、一時的にでも働きにくくなったことは注目に値します。市場機能をも左右し得る市場構造の変化には目を配っておかなければなりません。

流動性や信用の主たる供給者が、グローバル金融危機後の規制強化と金融緩和により、銀行から中央銀行に移ってきたことも、今度は受け皿が小さくなった中で中央銀行が市場への関与を低下させている点で、前項で考察した金利上昇がもたらす影響をより深刻なものにする可能性があります。

非公開企業や不動産等の非流動性資産への投資(プライベート投資)の残高拡大にも着目しています。市場運用と比べれば投資機会は残っており、たとえば銀行債権への投資やファンドからの企業への直接の貸付であるプライベート・デット投資は信用供与の新たな主役ともなり得ますが、最近の資金流入により割高になっている領域もあると見られます。割高な資産への集中を避けるため、投資時期や資産、運用マネジャーの分散を意識した計画的なプライベート投資が望まれます。一方、多くの企業が非上場を選ぶことになれば、株式市場への投資により経済成長の恩恵を受けるという従来の図式が成り立ちにくくなることも、どこかで意識しておく必要があるかもしれません。

「スマート・ベータ」とも呼ばれる、ルールにもとづく運用戦略が台頭してきたことは、いかに投資家が単純で低コストな戦略を求めるようになってきたか表しています。、伝統的なアクティブ運用から資金が離れているということでもあり、それによる資本市場の機能低下も懸念されますが、今のところ、これらへの対応が必要との示唆はほとんど見出していません。アクティブ運用者の競争環境は厳しくなっていますが、一方で、ルール・ベースの運用の広がりは時として超過収益獲得機会を創出するかもしれません。

(3)米中貿易戦争や欧州政治の混乱のゆくえ

過去半世紀にわたり、モノ・サービスの貿易量が劇的に増大してきたことで、世界の富は著しく増加し、また生産コストの引き下げを通じて物価の上昇が抑えられてきましたが、こうした「グローバル化」の恩恵を今後も受け続けられるかと言えば、甚だ不透明です。グローバル化を推進してきた歯車が逆回転を始めるようなことまでは考えていないものの、その力が弱まりつつある可能性を認識しています。2018年、多くの投資家の関心だった米中貿易戦争の激化はこれを直接妨げますし、欧州政治の混乱の背後には、グローバル化により進行した富の偏在への反発があります。

その一方で、株式と債券の主要なグローバル投資指数には、中国が着実に組み入れられるようになっており、投資家は、この世界第二位の経済大国の持つリスクと成長機会にどう向き合うか、判断を迫られています。指数に追随する形での中国投資をよしとするか、投資家それぞれに整理してみる必要があるでしょう。

仮に貿易量が逆行し経済の分断が進むようなことになれば、国や地域による投資リターンの格差が拡大してくることが予想されます。その場合には通貨も含めて国や地域の選択が、セクターや銘柄の選択より重要となり、また、アクティブ運用においてはグローバル運用より地域特化型の方が超過収益を獲得しやすくなる可能性が出てきます。そうした点からも、今後のグローバル化のゆくえには注意しています。

なおここでは触れませんでしたが、マーサーではさらに、持続可能性を意識した投資がますます求められるようになっていることにも注目しており、経済活動の持続に不可欠な、環境(E)や社会(S)、ガバナンス(G)といった要因への意識の高い運用マネジャーの採用や、こうした要因に特化した戦略の導入を支援しています。


今井 俊夫

執筆者: 今井 俊夫 (いまい としお)
資産運用コンサルティング シニア コンサルタント

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