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「停滞企業」の再活性化

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「停滞企業」の再活性化
Calendar2019/03/05

停滞企業が増えている

再生企業や破綻企業といった言葉は日本では最近は、あまり聞かない。そもそも日本の上場企業の寿命は欧米の2倍以上あるといわれており長寿企業が多く、これを支える社会・政治システムが整っている。世界の急激な景気減速が報道される中で、日本経済も影響は避けられないものの、他国とは別と、どこかで思っている。一方で力強く成長する企業もあまり見られない。一体景気が良いのか悪いのか体感的には分からないという、気持ち悪さを感じているのは筆者だけだろうか。

ところで、最近筆者がコンサルティングの仕事の中で出会う問題企業は、かつてとは少し異なる「停滞企業」とでも表現できる存在が増えている印象がある。

停滞企業とは、成長するのでもなく、かといって業績悪化による私的整理や破綻をするほどの状況ではなく、何となく事業継続できている企業群である。技術や販売チャネル、知名度やシェアなどの何らかの強みや、参入障壁等に守られ、再生企業の状態までは追い込まれない。しかし業績は、ゆるやかではあっても悪化し続けており、市場シェアもゆるやかに、しかし確実に低下している、そんな企業群である。

これらの企業群は、何かきっかけがないとコンサルティングの俎上に乗ることはない。創業者が高齢化し事業承継の問題が生じたため外部から資本を入れて経営陣によるMBOを行うとか、ファンドに狙われ大株主が入れ替わり株主提案を突き付けられるとか、緩慢な業績悪化がとうとう限界を迎えるなど、外部・内部のいずれかの事件によって問題が顕在化する事が多い。一見平穏無事と思っていた企業が一転、救済的な資本支援や買収対象となるなど、皆さんも驚かれた事がないだろうか。

停滞企業の悪循環の構造

停滞企業を外部から見極めるのは難しい。内部に入って関係者の話を聞く中で初めて分かってくる。そして、その傾向は似通っている部分があるように思われてならない。

【図1】

図1を見てほしい。まず経営層は環境変化や業績変動に対して感受性が弱く、経営戦略を見直して経営資源配分を変える事を真剣に考えていない。例えば先進国ではスマイルカーブと称されるように、生産部門の付加価値生産性が低下し競争優位に結びつく差別化も困難になっている。電機業界ではEMSといわれる生産特化の会社がグローバルな成長を遂げ、商品ブランドを有しマーケティング・商品企画・設計・販売・サービスを担当する従来型の電機事業会社とは分離するのが一部例外を除いて通常の形態となっている。これは経営戦略を練り直し資源配分を見直した結果といえよう。しかし、それにはリストラ(≒解雇)ではないものの組織の痛みが伴う。グローバル競争にさらされ苦境に立つ電機と違い、停滞企業にはそれに取り組む危機感はない。

経営者の姿勢が組織全体に悪い意味で浸透してしまっている。現状の資源配分を変える事に対する組織の抵抗感は強く、担当役員もやる前から「うちの場合は無理」と断言してしまう。内向き志向が強く、例えば有望プロジェクトのリーダーに強い権限を委譲するのは社内公平性に反するとかで企画倒れになる。内向き志向は社会的な責任であるコンプライアンス意識の低下につながり、大掛かりな品質詐称が、「科学的には許容範囲ですから」等の内部論理で、それほどの悪意ではなく行われていたりする。

社員は一部を除いて問題意識がないか、会社員生活に妙に諦観してしまい冷めている。不満を述べる社員層もいるが、みずから積極的に動こうとはしない。

停滞企業の集団的・個人的意識

組織の各階層の意識を表現すると図2のようになるのではないか。そもそも会社とは、社会にとって意義のある価値を提供することで、お金と交換し社会的存在意義を得たものが存続するシステムである。その意味では、少々厳しい言い方かもしれないが、停滞企業は惰性で活動しているだけで、既に社会的な存在意義は失っているといっても過言ではない。そんな企業でも残っていける社会システムは誇って良いものか、「ゆでガエル」量産システムというべきか迷うところである。

【図2】

停滞企業の改革こそ、成長企業を増やす鍵

停滞企業こそ再成長のチャンスが豊富にある会社である。再生企業は既に財務的に追い込まれており、リスクをともなう投資は極めて困難であり、可能性のある技術シーズがあっても生かせない。事業・機能の切り出し売却をしようとしても、人材、設備ともに残り物であり、買い手はつかない。

一方、停滞企業は停滞している分、豊富な内部留保が使い道もなく死蔵されているケースも多い。停滞は不活発な事業投資活動を意味し、一部の強みで安定キャッシュは稼ぐから一方的に内部留保が増えていく。また、安定経営のもと優秀なポテンシャルを有する人材が在籍している可能性も高い。もちろん、修羅場経験などで磨かれてはいないかもいしれないが、優秀な人ほどいない再生企業よりずっと良い。つまり、経営者が経営戦略を見直し、成長分野への投資配分のシフトを決めれば成長可能性は高い。ただし、経営者・管理職・一般社員にとって、そうする必然性がないから停滞したまま動かない。むしろ動けば自分は不要になるかもしれない恐れがある。

停滞企業改革のアプローチ

どうしたら停滞企業を目覚めさせる事ができるのかは、私はアイデアがない。やはり何らかの事件を待つしかないのか、あるいは立ち消えになっている、アセットに課税する外形標準課税が起爆剤となるかもしれない。

ただし目覚めた後のアプローチや成功要因は語る事ができる。まずは経営戦略の再構築が必須である。最高営業利益を達成したある電機会社は、ハードウェアでは稼いでいない。実態はコンテンツクリエイター・プロバイダーであり、最適な状態でコンテンツを利用できるハード・ソフトウェアの複合事業体である。自らの事業のあり方を変える。その青写真をまず描くことである。

次に経営層の刷新は必須といえよう。従来の停滞した経営層の中で、会社のあり方を変えるリーダーシップを取れる人材は一般的に少ない。第三者による委員会や専門家のアセスメントの結果も踏まえて、新しい戦略を遂行しうる経営組織・要員体制の再構築は必須である。

さらには、重層化され不要なポジションが多く、権限・責任もあいまいで会議、会議で誰が決めたか分からない管理職以下の組織体制の刷新も必要である。役割責任と権限移譲の観点から、大幅なポジションと組織階層の削減に取り組み、各層で必要な意思決定が自律的になされ、委譲された権限により現場で微妙な活動調整がされる生きた組織に変わる必要がある。

停滞企業改革の成功要因

停滞企業改革のアプローチは、いわば資本主義の経済主体たる企業の原点に立ち返って、やるべき事をやるというだけで何のサプライズもない。だが成功要因としては、やるべき事をやるだけでは不十分だ。

変革というと聞こえは良いが、変革作用が強ければ応じて反発も強い。停滞企業は歩みを止めていただけで、何らかの強みや優秀な人材、豊富な資金のいずれかを有している可能性がある。

図3を参照して欲しい。第一に重要なのは「経営戦略の刷新」と言う形であるべき姿を見せるだけではなく、既存事業の安定継続・延命をはかることだ。既存事業は新事業または新戦略の資金供給源であり、これを弱体化してはならない。

第二に、組織・人材の変革は急激に行うのは困難であり、もしそれを行うなら独裁・専制的マネジメントというネガティブな烙印を押されかねず、優秀な人材が流出してしまうリスクが高い。事業運営だけでなく組織・人材マネジメントにおいても、「社内の常識が社会の非常識である」事を理解させ、自らの仕事の意義も見直してもらい、経営層の強いリーダーシップのもとで対話を重ねることで、改革の反作用・ネガティブインパクトを最小限にする努力と時間が必要である。

第一と第二の成功要因は密接不可分であり、既存の事業や組織を頭から否定するのではなく、説得と受容のプロセスが不可欠である。ただし、間違えてはいけないのは、全員に理解を求めているのではない事だ。分かる人に分かってもらう努力を最大限に限られた時間の中で尽くすのであって、新会社に合わない人が残るのは両者にとって不幸であるという発想も必要であろう。

【図3】


鳥居 弘也

執筆者: 鳥居 弘也 (とりい ひろや)
グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル

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