重要性を増す「従業員の」年金制度への関心度 - DCとリスク分担型企業年金 

21 5月 2019

最近、2017年のリスク分担型企業年金制度の導入や、同年の確定拠出年金(DC)の加入者範囲の拡大*1と、日本の企業年金には改革がなされてきた。企業にとって選択肢が増えることはよいことではあるが、これらの制度を活用するにあたって「従業員の制度への関心」を如何に醸成するかが大きな課題となるように思う。

*12017年1月の法改正によって個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入要件が大きく緩和された。iDeCoの加入者数は2019年3月現在121万人で、法改正前(2016年12月)のおよそ4倍となっている。(企業年金連合会「確定拠出年金の統計」から抜粋)

「確定拠出年金制度」「リスク分担型企業年金制度」のおさらい

日本の企業年金には、「確定給付型年金」、「確定拠出年金」、「リスク分担型年金」の3つの制度がある。これまで一般的であったのは「確定給付型(DB型)」(退職一時金制度や確定給付企業年金制度)という、ある定められた(=Defined)給付額の算定式*2(=Benefit Formula)に基づいて給付額を決定する制度である。この制度では"企業は算定式で定められる給付額を保証している"といえる。
一方、年金の新たな選択肢として近年利用が増加しつつあるのが、「確定拠出年金制度」と「リスク分担型企業年金」である。

*2給付算定式の例としては「最終給与比例(退職時の基本給 x 勤続年数に応じた率)」、「キャッシュバランス制度(従業員ごとの仮想残高を設定し、勤続に応じた積立や利息の付与を行う制度)」などがある。
ご参考:年金ニュースレター第22号「確定拠出年金の加入対象者拡大等について – 平成27年度税制改正大綱 –
年金ニュースレター第24号「リスク分担型DB (第三の企業年金)– 設立の背景と概要
年金ニュースレター第30号「リスク分担型企業年金の導入を考えてみる

確定拠出年金制度(DC)とは、確定給付型制度の対極にある制度である。例えば「給与×〇%」というように前もって決められた(=Defined)掛金(=Contribution)を、企業は各従業員の運用のために拠出する。従業員は掛金を元手にそれぞれ運用を行い、その運用後の残高を退職金として受けとる。つまり、"企業は給付額までは保証しない"ことが最大の特徴である。

リスク分担型企業年金制度は、確定給付型と確定拠出型の中間に位置する、いわば「第3の年金制度」である。簡単に言えば「ベースは確定給付型制度だが、制度の運用成績によって給付額が上下する」制度であり、会社の負担(リスク見合いの追加掛金)と従業員の負担(財政悪化時の給付額の減少)がともに生じうることから、リスク分担型と呼ばれている。
海外ではCollective DC(個人単位ではなく、会社単位など集団的な運用を行う確定拠出型制度)があるが、それに近いとも言えよう。

なぜ従業員の制度への関心が重要か

確定拠出年金制度とリスク分担型企業年金制度の共通の特徴は「従業員が運用リスクを負っている」ことである。近年の低金利下での運用・財務リスクや、従業員の長寿リスクを避ける観点から、一部の企業では年金制度を確定給付型から確定拠出型やリスク分担型に切り替えている。
こうした制度変更によって、従来は企業がすべて負担していたリスクの一部を、従業員も負うことになるため、従業員の負担感は増す。もっとも、従業員にとってのメリットも想定される。もし確定給付型の財務リスクのため企業の身動きが取れなくなれば、それは給与の削減など、めぐりまわって従業員の待遇に悪影響を与えるだろう。
また、運用成績次第で給付額が変動する制度下においては、従業員はやり方次第で「リスク」に見合うだけの運用利益を生み出す可能性があるともいえる。しかし、そのためには従業員の制度への関心が重要となる。

確定拠出年金(DC)における従業員の関心

先に述べたように、確定拠出年金において運用リスク(と運用利益)が従業員負担となっているが、従業員の関心度はどうであろうか。
確定拠出年金の不指図率(何も運用指図をせずデフォルト商品が適用される加入者の割合)は約15%*3と推計されており、確定拠出年金に加入している従業員の殆どはしっかりと運用指図をしているといえる。
もっとも、具体的な運用方法についてみると、元本確保型が54.4%*4と過半数を占めており、加入者の多くが、ローリスク・ローリターンを志向していることとなる。アメリカの確定拠出年金制度(401k)における元本保証型の割合が6%*5と非常に低いことと比べると、日本の確定拠出年金加入者が元本保証型を選好する傾向が見て取れる。
定年間近の期間などのように、従業員が意図的に元本保証型商品へ投資を行っているのであれば元本保証型でも問題はない。しかしそうでなければ、日本の会社員は運用機会を十全に活かすことなく、得られたはずの利益を逸していることになる。

*3社会保障審議会企業年金部会平成29年6月6日「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」資料より抜粋
*4全企業のうちデフォルト商品を設定している企業が63.5%、デフォルト設定の95%が元本保証型であることから推計(いずれも出典は上記資料)
*5ICI,"401(k) Plan Asset Allocation, Account Balances, and Loan Activity in 2016"Figure 21より"GICs and Other Stable Value Funds"を抜粋

リスク分担型企業年金の場合

リスク分担型企業年金の場合、企業の追加負担は制度発足時にリスク対応掛金(リスク見合いの追加掛金)を行うのみである。確定給付型と異なり、財政状況が悪化しても、企業の追加掛金はなく従業員への給付額を減らすことで対応する。このため企業は運用が悪くても"懐"を痛めることはない。
とはいえ、制度の財務状況が従業員の給付の増減に直結することから、企業は運用に非常に重大な責任を担っていると考えられる。
法令では、従業員側に対しても、自分たちの退職金の給付水準を守る観点から、運用方針の作成に参画することを求めている*6。従業員委員会等を設置のうえ、代表を通じて意見を表明すること等が推奨されているが、実際の運用には多くの困難があると言わざるを得ない。
年金の制度は複雑であり、また加入者層はリスク許容度の高い若手からリスク許容度の低い年金受給者まで幅広い。普段の業務のかたわらで、運用方針を理解し、多種多様な意見を取りまとめて提言を行うことができる人はどれほどいるだろうか。リスク分担型企業年金は、確定拠出年金以上に、従業員の投資スキルが求められる制度といえるかもしれない。

*6確定給付企業年金法施行令第四十五条第三項および同法施行規則第八十四条の二を参照

これからの展望

今後、企業が担ってきた年金制度の「負荷」を、従業員個々人へ分担してもらう流れは避けられないだろう。だからこそ、「負荷」の対価として得られる年金制度の「利益」について、従業員が理解し上手に扱えるように、ナッジ(後押し)することは、企業の人事部、運営受託機関そして弊社を含む年金コンサルタントのような、企業年金にかかわる者の責務であるに違いない。

また、退職金に限らず、「先のことは後回しにされる」傾向にある。また、筆者個人としては、人生100年時代を迎えライフプランが多様化していく中、確定拠出年金やリスク分担企業年金を通して自らの退職金やリタイア後の生活を考えることは、個人の人生設計や資産形成に良い影響を与えてくれるはずであると固く信じている。

ご参考: Mercer - Big Picture「人生100年時代、定年なき世界における退職給付制度
コンサルタントコラム第800号「人生100年時代における持続可能な年金制度
著者
堀口 航

    関連トピック

    関連インサイト