経営人材育成・サクセッションプラン成功の要諦は、経営者による本気のコミットメントである - コンサルタントコラム 812 | マーサージャパン

経営人材育成・サクセッションプラン成功の要諦は、経営者による本気のコミットメントである

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経営人材育成・サクセッションプラン成功の要諦は、経営者による本気のコミットメントである
Calendar2019/06/18

GEの経営人材育成・サクセッションプランはグローバル企業のベストプラクティスであり、各企業がベンチマークとして学習すべきものである。筆者が今より駆け出しだった頃、ファーム内の勉強会にてGEのサクセッションプランが事例として取り上げられた。たった一人の後継者を選ぶことに対して、あれほどまでに膨大な時間と労力をかけられていることを知り、驚嘆したことを覚えている。

2017年8月、6年以上の時間をかけたとされる後継者育成・選抜の集大成として、ジョン・フラナリー氏がGEのCEOに就任した。その1年後、2018年10月に同氏の退任発表が行われた。後任CEOであるローレンス・カルプ氏はGE生え抜きではなく、外部人材が登用されるのは、GE140年の歴史上初めて、とのことである。

GEのようなグローバル大企業に限らず、企業経営の難易度は高まり続けている。言い換えれば、これからの経営者は、前時代の経営者が取り組んできたよりも難しい課題に挑戦することを迫られている。

第一に、これからの経営者が扱う経営課題のスコープはグローバルに広がっていく。日本企業を例にとると、上場企業の海外売上高比率(2017年期)は、56.5%と、過去4年連続で50%超の水準となっている1。日本企業による海外M&A (IN-OUT) も 672件で過去最多となっており、経営者は海外企業の買収・再編・運営や個々の地域における事業開発にも視野を広げる必要性に迫られている2

1ジェトロ世界貿易投資報告2017年版
2M&A専門誌 MARR 2018年2月号

第二に、これからの経営者が扱う経営課題は、解決に求められるスピードが加速していく。外部環境の変化によって既存事業が陳腐化するとき、経営者は事業・組織両面で果敢な意思決定を迫られる。近年のデジタライゼーションに端を発する事業環境の変化は、経営者に対して非連続の意思決定を連続的に行うことを要求する。

第三に、これからの経営者が扱う経営課題は、様々な異なる価値観を持つ社員とともに解決を行っていく必要がある。グローバル経営が求められるようになったことは言うまでもなく、日本国内に限っても、人口構造の成熟化によって、「男性/20代~50代/正社員」以外の力を最大限引き出していくマネジメントが求められるようになっている。また、働き手の意識は大きく変化し、多様な働き方が求められるようになっており、もはや画一的なコミュニケーションで組織を動かしていくことは望むべくもない。

上記のように、ますます難易度が上がっていく経営という営みに対して、これからの経営者は正面を切って立ち向かっていくことが求められる。

それでは、極めて難易度の高い職務を遂行することができる「スーパー経営者」はどこを探せば見つかるのだろうか?「何もしなければどこにも居ない」、というのがおそらく現状の答えである。経営者が下す一つ一つの意思決定のインパクトが大きくなる中、改めて経営者人材の育成・選抜を経営上の最重要アジェンダとして検討を行うよう、各方面から発信が行われている。

2018年6月に公表された『改訂コーポレートガバナンスコード』では、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである旨追記された(補充原則4-3(2))。また、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべき(補充原則4-1(3))である点も強調されている。

2017年3月に経済産業省から発表された『企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン』においても、「経営リーダー人材」の量と質をいかに高められるかは、企業の持続的成長に決定的な影響を与え、競争力を継続的に向上させられるかどうかの鍵となる、と強調し、日本企業におけるサクセッションプランニングのベストプラクティスをガイドラインとして提示している。

それでは、ますます重要となる経営人材育成について、具体的に何から取り組んでいくべきなのだろうか?この問いへの答えは実はシンプルである。上記『企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン』にも提示されている通りであり、読んでみれば当たり前とも言えるステップである:戦略上重要なポジション(キーポジション)を特定し、それに相応しい人材を育成するための仕組みとしてのタレントマネジメント等を実践する。経営リーダー人材に求められる資質要件を明確にした上で、その候補となりうる人材を評価・選抜し、必要な能力や経験を身につけるためのキャリア開発を計画・実行する後継者育成計画を実行する。

上記の通り、経営人材の育成ステップは変化球のないシンプルなものである。しかしながら、プロセスがシンプルであることは必ずしも実行が簡単であることを意味しない。実際に、東証1部・2部に上場している企業のうち、CEOの後継者計画(サクセッションプラン)が何らかの文書として存在しているとしている企業は全体の1割程度にとどまる3。経営リーダーの育成は、一部優秀人材の選抜と集中投資を伴うものであり、平等主義的な価値観の組織とは非常に相性が悪い。一部の欧米企業のように20才代、30才代の早い段階から、実務を通じてマネジメント経験を積んでいる人材は日本企業の中にどれだけいるだろうか?

3CGSガイドラインのフォローアップについて 2018年

一部の欧米企業において経営リーダー人材の育成を実行できるのは、経営リーダー人材の戦略的な育成・獲得が重要な経営課題であることが社内に広く認知されており、経営トップ自らが経営リーダー人材の選抜・育成に時間と労力を使い、積極的にコミットしているからである。

それでは積極的なコミットというのはどのようなものだろうか?筆者が参画したいくつかのプロジェクトの中から、経営者がどのようなスタンスで後継者育成に取り組んでいるのか、事例を紹介させていただきたい。

あるプロジェクトでは、統括会社のグループCEO・CFOとマーサーのコンサルタントチームにて、将来のグループCEOと事業会社CEOの人材要件についてのディスカッションを行った。その際のアプローチとして、単に私たちコンサルタントの知見を使用するだけではなく、企業としてのミッション・ビジョン・バリュー、創業時の思い、中長期の経営戦略、長期のマクロトレンドなど、様々な観点から侃々諤々の議論を行った(大変お忙しいCEOに毎回会議に出席いただき、後継者について熱く語られる姿を今でも鮮明に覚えている)。またあるプロジェクトでは、将来の経営リーダー候補人材について、BEI(行動面接)だけでなく、360度評価、パーソナリティテストなど、様々な手法で専門的なリーダーシップアセスメントを実施した。またその結果を踏まえ、アセスメント対象者一人一人についてCEOと今後の育成計画、アサインメント計画の検討を行った。中では、将来の経営リーダー開発を目的として、短期的な事業遂行においてはベストとは言えないアサインメントについても検討を行った。またある企業では経営リーダー育成のため、CEOの時間の50%を事業の他に組織・人の開発に使うこととし、特に将来の後継者候補については1対1の育成(薫陶)を行うこととした。

サクセッションプランニングは経営トップのアジェンダであり、毎回トップ経営者が参加し、ひざ詰めで議論を行うことになる。事業の責任・組織全体の責任を負う経営トップが、たった数人・数ポジションのために膨大なエネルギーを注ぐこととなり、その迫力にはしばしば圧倒されることがある。しかし、これほどのエネルギーを投入したとしても、「人」は経営資源の中でも最も不確実な要素であり、答えとして出てくるものは絶対ではないことは、既に冒頭の例で確認した通りである。

経営人材育成というアジェンダは、音の響きも美しく、それ自体に異論を唱える論客は存在し得ない。しかし、各論に入った段階では、組織の不調和を含む様々な障壁があり、経営人材の発掘・育成・選抜を遂行するためには、鬼気迫る経営トップのコミットメントが"最低"条件となる。それは時間的リソースだけでなく、ときには事業上のリスクを背負ってでも行われることもある取り組みである。しかし、経営の難易度が上がっている昨今では、次世代の経営者に求められる資質も同じように上がっていかざるを得ない。経営人材の育成能力は、これまで以上に企業が競争力を確保する上で重要となってくることが想定される。読者の勤められる企業では、どれだけ本気の経営人材育成が行われているだろうか?


澤木 康太

執筆者: 澤木 康太 (さわき こうた)
組織・人事変革コンサルティング アソシエイト

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