マーサーが開発した海外派遣者報酬体系 - その誕生から現在・未来まで - - コンサルタントコラム 817 | マーサージャパン

マーサーが開発した海外派遣者報酬体系 - その誕生から現在・未来まで -

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マーサーが開発した海外派遣者報酬体系 - その誕生から現在・未来まで -
Calendar2019/09/24

日本企業を対象としてマーサーが実施している『2018年海外派遣規程及び福利厚生調査』(N=482)では、89%が海外派遣者の報酬体系として「購買力補償方式」を適用しています。「購買力補償方式」は、日本・派遣先間における物価差や為替による有利/不利を回避する報酬体系です。日本勤務時の年収を税金・住宅費・生計費・貯蓄等の項目に分類し、生計費指数を使用し派遣先でも日本勤務時年収に応じた購買力を維持できるようにします。その上で、インセンティブの有無/水準等を検討する体系です。海外派遣者処遇制度に携わっている方々の間では広く知られている体系であり、多くの日本企業が海外派遣者の報酬を決定する際にこの体系を適用しています。

ところで、この「購買力補償方式」は、いつごろから存在しているのでしょうか。いつごろ、どこで開発されてきたのか、そしてマーサーは海外派遣者処遇の課題にどう対応してきたのかを紹介したいと思います。

1950年代 コンセプト誕生 - アメリカでマーサーが開発 -

1950年代EEC(欧州経済共同体)発足の前後において、欧州域内貿易のメリットが拡大していきます。戦後復興を経て拡大しつつある欧州市場攻略を目指し、欧州域内貿易のメリットを享受すべく、アメリカ企業の欧州投資が加速していました。そして、その加速化に伴いアメリカから欧州への海外派遣者も増えていました。

アメリカと欧州各国間における物価差や為替の影響を加味した上でどのように報酬を設定するべきか。アメリカのクライアントがもつ課題に対して、マーサー(当時Organization Resources Counselors社, ORC)は、Balance Sheet Approach(購買力補償方式の英訳)を開発することで応えます。これが「購買力補償方式」の始まりになります。

1960年代 - 70年代 選べる価格帯 - 欧州では多様な処遇方針に対応 -

1968年EEC、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)とEURATOM(欧州原子力共同体)の運営機関が統合されECs(欧州共同体)が発足します。「国際分業」を通じて更なる成長を目指していた欧州主要国企業にとって絶好の環境が整うことになり、1970年代に欧州において国際展開・投資が活発化することになります。

そうした中、イタリアのあるクライアントから「国を跨いだ異動における報酬体系をどのように設定すればよいか」と、マーサー(当時Business International社)に相談がありました。マーサーはこの課題を解決するために、そのクライアントが社員を派遣している国における生計費関連の統計を収集・分析し、かつ、実際に価格調査を行いました。そして、生計費指数を作成・提供することになりました。この課題をもっていたのは、このイタリアにあるクライアントだけではありませんでした。統計の活用や調査規模・範囲を拡大し、欧州各国企業に生計費指数を提供することになりました。

ところが、クライアントの中で異なる処遇方針が存在することが浮かび上がってきました。派遣先における生計費品目の調達難易度はあまり考慮せず生計費各カテゴリにおける全体的な物価差を補償する方針と、調達難易度に鑑み比較的高い価格帯のものを購買せざるを得ない状況を加味した上で物価差を補償する方針です。これら異なる方針全てに解決策を提供するために、マーサーは生計費指数において複数の価格帯を整備しました(それが"Mean to Mean" "Efficient" "Convenience" "Expatriate" "EPI"といった価格帯です)。

1980年代 特定の国特化した指数 - そして日本では -

日本企業がもつ海外派遣の歴史も短くはありません。ただし、1980年代以前の派遣先は欧米が主流であり、当時は日本人の報酬水準は欧米諸国に比べて低かったため、海外派遣者報酬における課題は、如何に報酬を派遣元で「上乗せ」するかでありました。この発想で生まれたのが「積上げ方式」「別建て方式」です。

ところが、1985年プラザ合意の後、日系企業の海外進出が活性化し、派遣先は多様化します。その結果、日本における報酬水準及び日本円の位置づけが派遣先によって異なり、派遣先によって顕著な有利/不利が発生することになります。そこで「購買力補償方式」の登場ですが、当時の生計費指数には日本食・日本製品が考慮されていませんでした。そこでマーサーは「購買力補償方式」のコンセプトを日本でより体現するために、1988年にJapan Cost of Living Reportを開発しました。以降、購買力補償方式が日本において適用できるようになりました。

 

こうして半世紀を振り返ってみると、マーサーの歴史は世界のうねりに伴い変化してきたクライアントの課題と共にあったと認識させられます。1950年代アメリカで「購買力補償方式」のコンセプトを開発し、1970年代には価格帯を選べるようにしました。そして、1980年代に日本で購買力補償方式を導入できるようにしてきました。クライアントがもつ海外派遣者報酬課題の変化に呼応する形でマーサーの生計費指数も進化してきました。今では、日本で最も国際的な機関とも言える外務省からも生計費に関する調査の依頼を受けています。

2019年現在、事業貢献、暫定で派遣期間は1年から5年、任務完了後帰任を前提とした海外派遣者の報酬をどう策定するかという課題自体にはそれなりに解決策を提供できていると思います。これからは海外事業戦略のマルチドメスティック化に伴う海外派遣目的・期間の多様化に対し、これまでの「購買力補償方式」だけではない、新たなコンセプトに基づく報酬体系が必要になってきます。そして、既存の「購買力補償方式」も含め体系の複線化が必要になってきます。また、根源的な「どこに誰を派遣するか」というテーマに対しても取り組まなければいけません。マーサーは今後の半世紀もクライアントがもつ課題と向き合い、クライアントともに進化していきたいと思います。


内村 幸司

執筆者: 内村 幸司 (うちむら こうじ)
プロダクト・ソリューションズ プリンシパル

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