Afterコロナ時代の働き方 

07 4月 2020

Beforeコロナ、Afterコロナ。
後世から振り返れば、間違いなくそう言われるタイミングに、今、私たちは生きている。

Afterコロナの時代、人々は物理的なオフィス空間に集うメリットとコストをよりシビアに捉えるようになり、学びの場のオンライン化も進んでいく。需要の増加がテクノロジーの進化を誘発し、対面と違和感のない業務環境・学習環境を実現するテクノロジーはさらに発展する。人々の働き方や学び方の変化は、雇用や教育のあり方にとどまらず、都市空間や交通インフラ、居住のあり方にまで、長期的な影響を与えていく。

オンラインでの動画配信技術が確立された2000年代から、それが現実に地上波ネットワーク・既存メディアの大きな脅威となるまでは20年近い歳月がかかったように、仕事や教育におけるオンライン化の全面的な進展には、まだ相当な時間がかかる。今回の新型コロナ危機が収まった後、ふたたび元の生活・働き方に戻る会社や学校も少なくないのだろう。

しかし全世界規模で、これだけ多くの人々が社会的距離を保ってリモートワーク(テレワーク)、在宅勤務やオンライン学習を経験したことは、これからの人々の働き方や学び方、居住のあり方に、間違いなく不可逆な影響を与えていく。Afterコロナの時代、人々は物理的にオフィス空間で過ごしていた時間ではなく、より明確に仕事の成果、ミッションの達成度合いで評価され、処遇されるようになる。新しい環境により早く適切に対応した企業は生産性が高まり、人材競争力が強化される。シンプルな市場経済のメカニズムを通じ、新しい働き方はまずは民間企業中心に広まり、徐々に公的セクターにも広まっていく。教育シーンおけるオンライン学習は、企業研修や資格学習など、規制のない自由競争の世界でまずは広まっていくだろう。

一方、オンライン化が進むほど、物理的に同じ空間に集い、会社や学校というコミュニティを強化する取り組みは重要になる。オフィス空間は従来ほどのスペースを必要としない代わりに、訪れる時には、その会社で働く意義や共有する価値観を感じることができ、自社への帰属意識を改めて確認する場、同僚と気軽に立ち話をしてコミュニティの快適さを感じる場として新たな役割を付与されていく。オンライン授業を全面的に導入しているミネルヴァ大学が全寮制を採用し、世界中に点在する寮で学生に多様でリアルな経験機会を提供していることは示唆に富む。

2月27日~3月4日に、新型コロナウイルス対策に関連してマーサージャパンで実施したオンラインサーベイの結果によると、本社のホワイトカラー系業務などに対して、リモートワークを導入している企業は約8割であった*

* 本結果は、4月4日に公表された厚生労働省・LINE共同で実施されたサーベイ結果のテレワーク割合5.6%と大きく異なるが、これはマーサーサーベイにおいては、各企業単位で何らかリモートワークに取り組んでいる場合は肯定的回答となる一方、厚生労働省・LINE調査では個人単位での調査となっている点、また調査母集団がマーサーにおいては日系大手企業や外資系のウェイトが高い点が影響していると考えられる

これまで日本企業では、部門間のすり合わせ・暗黙知の共有を強みとしていたことから、意識的に物理的な空間・時間を共有することを重視し、リモートワークの積極的導入に躊躇するケースが少なくなかった。リモートワークを福利厚生やBCP対策の一環と捉え、週1-2日までなど、期間や対象者を制限していたケースも多い。今回のコロナ危機は、そういった企業も含めて、全面的リモートワークの導入に切り替える大きな転機となった。

企業によっては、今回の危機に伴う大規模なリモートワーク導入が、従来の仕事の進め方、業務管理・評価のあり方とフィットしないと改めて感じるケースもあるだろう。一方で、ひとたびリモートワークの魅力(通勤時間の圧倒的短縮・集中した仕事時間の確保等)を経験すると、もう前と同じ働き方には戻れないという声も出てきているに違いない。

社会的な法制度、特に労働規制には強い現状維持の慣性が働くため、短期的に大きな変化は期待しづらい。特に昨今の日本の「働き方改革」は、行政当局の狙いはともあれ、実質的には業務時間短縮、時間管理の強化に働いてきた側面がある。しかし世界中がリモートワークをこれだけ大規模に経験した中、その円滑な実施に支障がでるような労働規制に固執することは、一国の競争力を失うことに通じかねない。国土が広く、もともとリモートワークが日本よりも普及していた米国と中国という二大超大国の多くのホワイトカラーが、これだけ大規模・長期間にわたり強制的なリモートワークを経験したことは、確実に今後の世界の潮流を決定づけていくだろう。

NetflixやHulu、AbemaTVが生まれるはるか前からオンライン動画配信技術が存在していたように、現在リモートワーク・テレワークで活用されているテクノロジーのすべては、今回の危機の前から存在していた。すでにある新しい現実を活用し、いかに生産性・競争力向上につなげるかは、我が国の政府・企業・個人の選択に委ねられている。

思えば以前からその兆候はあったが、社会全体が大きく変化し、働き方や学びのあり方が大きく変わるきっかけはあのコロナ危機だった。10年後・20年後から振り返ると、そう言われているのではないか。

増え続ける国内外の感染者・犠牲者数、緊急事態宣言、リーマンショックを上回ると言われる大規模な経済危機など、当面は危機対応でどの業界でも厳しい状況、憂鬱な日々が続く。しかしこういう時だからこそ、感染・犠牲を最小化する策に注力するとともに、既に生じつつある新たな現実に対応し、よりよい働き方・競争力の向上に向けて、官民一体で前向きに取り組んでいきたい。

更新日:2020年4月7日

著者
山内 博雄

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