ジョブ型人事の本質:経団連提言「Society 5.0:創造社会」の要点を学ぶ 

30 7月 2020

  • ジョブ型人事は一過性のブームではなく、今後の社会・経済の構造変化がその底流にある。
  • Society5.0が示す創造社会においては、ビジョンをもつリーダーと多様な知を持った個人が集い、その融合を通じて創造を生み出すことが求められる。
  • 創造社会に対応するには、キャリアの自律と個の強化が個人に求められ、そうした個が育つ場を提供することが企業に求められる。そのための基盤が、ジョブ型人事である。

 

昨今、ジョブ型人事とは何か、という議論が人事に関する分野で取りざたされている。その内容は、ジョブ型とメンバーシップ型の対比や日本型終身雇用の終焉、年功序列の打破など人目を惹きつけるキーワードで満ち溢れている。また、一部ではかつてのバブル崩壊期のように、経営側の都合で生み出された概念だという論調もある。

「ジョブ型」という言葉は、昨年11月から経団連の中西会長が定例会見で繰り返し触れたことで注目が集まり、加えてコロナ禍の5月に日本経済新聞にジョブ型人事導入に関する記事が出たため、一般の人たちもよく目にする言葉となった。注目されたタイミングが、コロナウイルスの流行と時を同じくしているがために、コロナ禍に伴う不景気と結び付けて考えがちである。

しかし、昨今のジョブ型人事は一過性のブームではない。その底流にあるのは、社会・経済の構造変化である。その構造を整理し、先駆けとして世に問うたレポートが、2018年11月に経団連が発表した「Society 5.0:Co-Creating The Futureともに創造する未来*1」である。

*1 経団連「Society 5.0:Co-Creating The Futureともに創造する未来」冊子

Society5.0は、「Society 1.0農耕社会」→「Society 2.0工業社会」→「Society 3.0情報社会」→「Society 4.0 自動化・情報化・インターネット」の先にくる、「創造社会」として定義されている。

環境変化におけるポイントは、次のようにまとめることができる。

 

  1. デジタル技術、バイオテクノロジーなどの新たな技術革新(AI、IoT、ロボット、ブロックチェーン、遺伝子工学等)
  2. 少子高齢化する先進国と同時に地球規模で進む人口爆発(人口動態の変化は、経済の重心に変化をもたらす:欧米→アジア→?)
  3. 地球環境が変化を受け入れる余白が小さくなりつつあることへの対応の必要性(2015年持続可能な開発目標(SDGs))

 

この変化に対応するためには、従来の延長線上で確実に直面する限界を打破する、新しい課題解決を生み出すことが求められているとされているのだ。そのポイントは、次のようにまとめられている。

 

一見すると、自分たちとは関係のない、遠い世界の話をしているように感じられる方も多いであろう。しかし、これが日本の経営者が真剣に向き合い始めているテーマなのである。今も眼前に起きている変化であり、この変化に対応できない国や企業は選別されることをひしひしと感じているからである。

そして、この提言の第2章は、その実現のためのアクションプランにひも付いているのだが、その総ページ数13ページの内、「企業が変わる」「人が変わる」というコンテンツに半分が割かれているのである。詳しくは、同まとめに内容を譲るが、「人」に関わる要点をまとめると次のようになる。

 

当然ながら、多くの企業はこのSociety5.0への変化を明確に意識し始めている。その裏付けとして、同じく経団連が毎年実施ししている「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果*2」において、長期雇用を見直すと共に、メンバーシップ型を重視する方向性を見直そうとしていることが示している。

*2 経団連「2019年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 2020年1月21日

 

本調査は、コロナ禍が起きる前、世の中が翌年のオリンピックに向けた明るい未来へと進んでいた時の結果である。2019年に経済産業省がマーサーとの協力のもと世に問うた、「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言 ~日本企業の経営競争力強化に向けて~*3」と合わせてみた時、この流れは決して景気後退局面に対する一過性のブームではないと留意すべきである。昨今の情勢は、これを後押ししているに過ぎないのである。

*3 経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言 ~日本企業の経営競争力強化に向けて~」2019年3月

巷に溢れる言説や簡単に手に入れられやすそうなソリューションは、こうした底流に背景を踏まえたものであるのか、注意することが必要だ。そして、各企業の企画担当者においては、この起因・背景を踏まえて、個社が根本的に何を目指そうとしているのか、そのゴールにどう向かうべきなのかを適切に見極め、計画する力が求められている。本稿が、その参考となれば幸甚である。

 

著者
中村 健一郎

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