人も仕事も動く時代 ~コロナ禍に見るこれからのグローバルモビリティ 

09 9月 2020

新型コロナウイルスの流行前から徐々に導入され始めていたものの、ウイルスの拡大感染防止という強制力がなければここまでリモートワークが急速に浸透することはなかっただろう。出社しなければできない、対面でないと難しいと言われてきた業務でも、実際にやってみたら意外とそうでもなかったという話もよく耳にする。各人の好みや慣れないスタイルでの効率の良し悪しはさておき、オフィスワークのほとんどがリモートで遂行可能だと多くの人が実感しているのではないだろうか。

リモートワークが当たり前になったことで、「どこで」仕事をするかが障害にならなくなってきた。人事の文脈で考えると、タレントマネジメントや人材配置において、これまでは「仕事のある場所に人を動かす(Moving People to Job)」ことが前提となっていたが、逆に「人のいる所に仕事を持ってくる(Moving Job to People)」という発想が可能となったということである。

日本国内での転勤や単身赴任については、カルビー社やメタウォーター社など、一部の企業で廃止や見直しが始まっている*1。リモートワークを活用すれば住んでいる場所にかかわらず遠隔で仕事ができるため、必ずしも引越しや別居を伴う転勤をさせる必要はないのではないか、という見方からだ。

*1 松井基一、古沢健「コロナ下、家族のあり方再定義 カルビー単身赴任見直し」『日本経済新聞』2020年6月27日、朝刊、p. 7(日経テレコン 閲覧日:2020年8月28日)

同じロジックで考えれば、海外勤務も同様にリモートワークの可能性を模索できる。

もちろん、全ての仕事が遠隔でできるわけではない。現地拠点のスピード立ち上げ、製造現場における技術の伝承など、実際に現地にいなければ仕事にならない場合も多くあるだろう。また、税務・コンプライアンスの検証、言語や文化が異なる同僚への配慮、時差への対応など、国内転勤をリモートワークで行う以上に海外勤務ならではの懸念もある。

しかし、海外に物理的に引っ越すことなくリモート“海外”勤務ができるのであればメリットは大きい。任地住宅や子女教育など海外勤務によって発生するコストの削減、また配偶者のキャリアや子供の教育、介護など家庭の事情で本国を離れることができない人材も、“海外”勤務候補者として含められるようになるなど人材確保の観点でも有利になる。

また、日本企業ではジョブローテーションの一環として海外勤務が命じられる場合も多いが、終身雇用をベースとした「メンバーシップ型」に対して「ジョブ型」雇用という概念が広まりつつある今、そもそもローテーションとしての海外勤務は必要なのかという根本的な問いにも向き合う必要がある。

新型コロナウイルス流行が収まるまでの時限措置としてではなく、長期的な視点でリモート“海外”勤務というもう一つの“海外”勤務オプションを検討する価値はあるだろう。

リモート“海外”勤務が普及すれば、人事部門におけるグローバルモビリティ担当者や我々コンサルタントの役割も変わっていかなければいけない。新型コロナウイルス禍でのリモートワークで我々の多くが体感した通り、いくら顔が見えるといえどもウェブ会議と対面とではやはり勝手が違う。そんな中でもより効果的に、違和感なくコミュニケーションが取れるツールやグッドプラクティスについて社内外で情報収集し、提供することも、これまでの海外給与計算や任住宅の手配などの業務に加え、重要な役割となるだろう(もう既に始まっている方もいるかもしれない)。

また、場所という概念がなくなれば、世界中の拠点から最適な人材を特定し、別の拠点の業務に配置することも容易になる。例えばベトナム支社の業務をベトナム人、日本人、中国人のバーチャルチームで行うようなケースももっと出てくる。そうなると、各拠点の組織におけるポジションと世界中の人材を把握する仕組み作りや、ビジネスニーズに応じた仕事と人材のマッチング、バーチャルなチームの組成支援・管理を行うため、人事戦略やタレントマネジメント領域との連携やアライメントも必要になってくる。

今後、新型コロナウイルスがどのように収束するのかは分からない。アフターコロナの世界はニューノーマルとして大きく変わるのかもしれないし、思ったよりも変化なく元に戻っていくかもしれない。しかし、新型コロナウイルス禍が、これまでと異なる発想を持つきっかけとなったのは間違いない。我々コンサルタントもデータ提供や制度構築に加え、多様な仕事のあり方についての提言・情報発信、グローバル規模で仕事と人材をマッチングする仕組みの構築やツール、トレーニングの提供などグローバルモビリティの枠を超えて、今まで以上に視野を広げ、多岐にわたる支援を行っていきたい。

執筆者:プロダクト・ソリューションズ

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