ジョブ型雇用の時代におけるサクセションマネジメント 

18 1月 2021

サクセションマネジメントとは

近年、サクセションマネジメントが注目されている。2015年から適用されている日本版コーポレートガバナンス・コードにおいても、サクセションマネジメント(特にCEO向け)の確実な実行を、各企業に対して要請している。

この背景には、過去20年にわたる日本企業の「稼ぐ力」の低迷がある。各企業のROEや営業利益率は、海外企業と比較すると低調であり、「リスクテイク力」が弱い、といった調査結果も存在する。

テクノロジーの進化や事業のグローバル化、国内の少子高齢化等、経営環境の目まぐるしい変化に伴い、より短いスパンで事業ポートフォリオを最適化し続けなければ生き残れない時代となった。大人数での合議をベースとした慎重な意思決定よりも、ある程度裁量と権限を少人数に集中させた、スピード感のある意思決定ができる体制を構築することが望ましい。そのため、CEOをはじめとした役員層の見極めや後継者育成の重要性が高まってきている。

なお、サクセションマネジメントとは、社内・グループ内におけるCEOを中心とした役員・経営幹部ポジションに関して、後継者計画(サクセションプラン)に基づき、候補者の選出・能力開発から後継者指名に至る一連のプロセスを効果的・効率的にマネジメントすることである。個社毎に異なるが、主として部長以上の幹部層が対象となるケースが多い。

具体的なプロセスは、2018年9月に改訂されたコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針 (CGSガイドライン)に社長/CEOサクセションのプロセスとして記載された、「1.後継者計画のロードマップの立案」から「7.指名後のサポート」に至る7つの基本ステップが分かりやすい。ご参考までに、同指針を基に作成した下図をご覧いただければ幸いである。

 

ジョブ型雇用の時代とサクセションマネジメント

今後、日本社会でジョブ型雇用への転換が進むと、サクセションマネジメントのあり方はどのように変わっていくのだろうか。

ジョブ型雇用化が進むと、副業・転職・独立等、個人は従来よりも柔軟な働き方を志向するようになり、業界・企業等における人材の流動性は高まる。その結果、人材市場には、これまで以上に多様な価値観や働き方、専門性などを持った人材が集まってくるだろう。

そこで、各企業においては、人材マネジメントを従来の新卒採用・社内競争を前提とした仕組みから、多様なルートでの採用・社内外からの登用をベースとした柔軟性の高い仕組みへと変化させることで、人材競争力を担保できるのではないか。サクセションマネジメントを行い、対象ポジションに求められる役割を明確にすることで、社内人材に加え、社外人材や他社で経験を積んだ出戻り社員も含め、最も要件に合致する候補者を組み込むことができるようになる。

育成施策については、候補者の多様性が増すことで難易度が上がる面もあるが、戦略的ローテーションやタフ・アサインメント先の期待役割や求められる能力・スキル等をジョブとして定義・明文化することで、あるべき状態と現在の候補者の能力等のギャップを明らかにしやすくなる。役員層や戦略的重要性が高いキーポジションを起点にジョブを定義しておくことは、サクセションマネジメントの土台として有効性がある。

社外ステークホルダーへのアカウンタビリティ

サクセションマネジメントの対象ポジションは、一般に役員・経営幹部が中心となるが、CEOと他のポジションでは、位置付けに違いがある。

詳細は割愛するが、CEOは株主から委託された執行のトップであるため、その選出に関する考え方やプロセスについては、企業としての株主に対する説明責任(アカウンタビリティ)が発生する。他方、業務執行を担う経営幹部の選出に関する考え方やプロセスについては、主にCEOが社内の指名委員会や取締役会に対する説明責任を負うことになる。

コーポレートガバナンス強化の流れから、各企業の社外ステークホルダーに対するアカウンタビリティは重要度を増しており、2022年4月予定の東証の市場再編後に「プライム市場」に属する企業は、特に投資家との建設的な対話にコミットする必要が出てくるため、CEOを中心とした役員・経営幹部のサクセションについて、開示レベルを含めて検討することが望ましい。

ジョブ型雇用の議論も契機となり、日本企業におけるサクセションマネジメントの取り組みが一層効果的・効率的に運用されることに期待したい。

著者
小山 恒一

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