オランダ政府による企業年金法改正案とその影響 

10 2月 2021

オランダ政府は2020年6月に国会に提出された合意書に基づき、企業年金法の改正案を発表した。現在、パブリックコンサルテーションが実施されているが、多少の変更はあるとしても大筋が通過見込みである。これにより、オランダで企業年金制度を実施するほぼ全ての企業が、何らかの対応を求められると見込まれる。本稿では、今回の変更の内容とその影響についてまとめた。

1. 法改正の主な内容

  1. 2026年1月以降、企業年金への新規加入者は全員一律掛金率(Flat-rate contribution)のDC制度に加入することになる。一律掛金率とは、給与に対し一律の掛金率(例えば、基本給の15%)を乗じた形での給付である。
  2. 上記は純粋なDCまたはいわゆるCollective DC(CDC)の仕組みで実施することが可能。「純粋なDC」とは、個々人が運用指図を行う形で、CDCとは、加入者の代表等から委託された受託者が一任契約で合同運用を行う形になる。
  3. 現在、基金型DB制度を実施している場合は、年齢別掛金率(Age-related contribution)のDC制度への移行が2021年12月までに求められる。
  4. 現在、保険型のDB制度を実施している場合は、2025年12月までは加入継続が認められるが、それ以降の将来分の給付については、DC制度で代替しなければならない。2025年12月までに累積した給付は、受給待期扱いとなるため債務は残る。
  5. DB制度並びに年齢別掛金率のDC制度は2021年12月まで新設が認められるが、以降は一律掛金率のDC制度のみが認められることとなる。なお、M&A等で既存のDB制度や年齢別掛金率のDC制度の分割が必要となる場合は、例外的に新設が認められる。
  6. 2021年12月までに設立された年齢別掛金率のDC制度の加入者は、2026年1月以降も同制度に加入し続けることができる。ただし、2026年1月以降は新入社員の加入は認められない。
  7. 一律掛金率のDC掛金上限は原則給与の30%と設定され、将来的に33%へと引き上げられる。
  8. 就業中の遺族年金は保険契約によってのみ認められることとなった。
  9. 制度の運営者は2024年7月までに、今回の法改正にどのように対応するか、方針をまとめて届け出を行わなければならない。

2. 法改正の影響

今回の法改正は非常に多岐にわたって影響が予想され、多少の違いこそあれ、ほぼ全ての年金制度が対応を迫られることとなる。中でも、現在DB制度を保有している場合は、今年中に何らかの対応を迫られるため、急ぎ状況確認することが望ましい。

  1. DB制度を保有している場合

    上記の通り、基金型のDB制度は急ぎ年齢別のDC制度への移行が求められる。2021年中に移行を済ませる必要があるが、労使協議や当局への届け出などを勘案すると、遅くとも春先(2021年3月)までには対応を始めておく必要がある。

    また、基金型ではなく保険型のDB制度を保有する場合、2022年以降も加入を継続し、2026年までにDC制度に移行を終えていれば良いということになる。ただし、現行のDB制度から移行する際に、コスト増を抑えようとすると課題が発生する。

    1で述べた通り、2022年以降は年齢別掛金率のDC制度を新設することは認められていない。そのため、現在DB制度のみでDC制度を運営していない場合、2022年以降に移行するとしても、今年中に年令別掛金率のDC制度を新設しない限り、一律掛金率のDC制度に移行するしか方法がなくなってしまう。以下の図で示す通り、DB制度の一人当たりのコストは年齢とともに上昇する特徴があるため、DB制度から一律掛金率のDC制度へ移行すると、かなりのコスト増となると見込まれる。そのため、DC制度であれば基金型か保険型に関わらず、年齢別掛金率のDC制度移行を目指すべく、今年中の対応が望ましい。
  2. DB制度を保有していない場合

    現在年齢別掛金のDC制度を保有している場合は、2026年までに新しく新入社員向けの一律掛金率DC制度を用意する必要がある。その場合、既存社員の年齢分布と採用ターゲットの年齢層に気を配らなければならない。既存社員が年齢別のDCに加入している場合、新規加入者に一律の掛金率を適用した場合、特に若年層では一律の方が上回ることが想定され、そちらへの加入を認めた場合、コストが上昇するためである。途中での切り替えを認めない場合は、新入社員の方がより高い掛金率となるため、不公平感を招くリスクが生じる。少なくとも2026年以降の影響、特に年齢別の給付水準とコストへの影響について、事前に把握しておくことが望ましい。

現在、既に一律掛金率のDC制度を保有している場合はそのまま実施継続できる。ただし、一律掛金率のDCを単独で実施している制度は稀であるため、上記の通り何らかの対応を求められることとなろう。

著者
北野 信太郎

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