ジョブ型雇用と人材育成(後編) 

22 2月 2021

前編では、7-2-1の法則(ロミンガーの仮説)に沿って、プロフェッショナル人材の成長に不可欠な業務経験と上司の指導について触れた。今回は、7-2-1の法則における3つ目の要素として提唱されている教育研修について取り上げたい。

ジョブ型雇用サーベイから読み説く教育研修のトレンド

マーサーが2020年8月に実施したジョブ型雇用サーベイによると、今後3-5年では、階層別研修プログラムが減少傾向にある一方、選抜型の研修やキャリアステージ別の研修が増えていく傾向が見られる。本稿ではこの3タイプの教育研修について触れていく。

 

(1) 階層別研修から自律的なキャリア構築のための研修へ

階層別研修が減る理由の1つは、コロナ禍のオンライン研修やE-learningの普及も影響しているだろう。今までは研修=集合研修と捉えられていたものが、特に知識習得型のプログラムであれば、E-learningで十分に実施できるようになった。E-learningは場所や時間の制約が少なく、かつ、プログラムの選択肢も多いため、ジョブ型雇用の自律的なキャリア構築と相性が良い。LinkedIn learning やedXといった学習プラットフォームは、国内でも知られるようになった。Zoomでのオンライン研修も各人が別のロケーションから参加・実施が可能で、移動や場所の制約も受けなくなっている。

マーサーでも、2020年度からMercer Learningを国内で立ち上げ、人事プロフェッショナル向けの教育プログラムを提供している。階層別研修の減少と合わせて、職種別のオンラインプログラムやE-learningの活用が進むのは間違いないだろう。

とはいえ、全てがE-learningやオンライン研修に変わる訳ではない。例えば、マインドセットの向上やイノベーションの創発には、対面して互いに感化しやすい形式が望ましいといえる。また、集合研修の場での相互交流のニーズは恒常的にある。Mercer Learningのオンラインライブ講座でも、当初は受講者同士の交流は想定していなかったが、多くの要望があり急きょ対応した経緯があった。

階層別研修というと、今までは固定化されたイベントとして捉えられがちだった。今後は自律的なキャリア構築を前提に、E-learning、オンライン、集合型、それぞれの特長を生かしながら、目的に照らし合わせて最適なものを組み合わせていく形が普及していくだろう。

(2) 今後求められる選抜型研修

選抜型研修には、経営幹部候補人材を選抜するためのアセスメントセンター、MBA型の経営幹部育成プログラム、職場課題への取り組みを兼ねたアクションラーニング型プログラム、管理職層の意識改革を目的としたバリュー浸透研修などが該当する。ジョブ型雇用では、経営幹部も一つの職種という位置づけられるため、研修プログラムの実施においては、業務経験の積ませ方や上司のフォロー体制を合わせて設計していくことになる。選抜型の研修は、従来は管理職以上のプログラムが多かったが、今後は、経営職を目指す若手層を対象としたプログラムが増えていくだろう。選抜の観点からの注意点としては、若手層は成長の振れ幅が大きいため、候補人材の選定する際の見極めが困難であることが挙げられる。対策としては敗者復活のルートを設けるなど、柔軟な運用を踏まえることが望ましい。

(3) キャリアステージ別研修の意義

キャリアステージ別研修は、年次や職種に関係なく、各人が自身のキャリアステージで必要となる研修を必要なタイミングで受けるものだ。一例として、リカレント教育(学び直し)を取り上げたい。最近ニュースで話題の、米国アマゾンが掲げている”upskilling2025”は、全従業員の3分の1を対象に、倉庫管理業のようにロボットに置き換わっていく仕事から、ビジネスアナリストやデータサイエンティストなど、高度なスキルが求められる職種への転換を支援することを目的にしている。個人の自由な嗜好性に合わせたリスキルの支援ではなく、事業戦略に則って組織能力を高めていくための教育投資としている点が特徴だ。アマゾンは、以前からもCareer Choiceという、学費の最大95%をサポートする、従業員の学位取得支援プログラムを打ち出してきた。同様に、国内ではジュピターテレコムが「J-COMユニバーシティー」を開講して、現職のポジションや業務に捉われない学びの機会を提供している。定年退職した社員を講師として再雇用するモデルとしても知られており、知識や経験の伝承、役割や部門を横串で通したネットワーキングを重視している。今後、日本のリカレント教育がアマゾンのCareer Choiceのように、外部の教育機関を活用して促進されていくのか、もしくは、J-COMユニバーシティーのような内製型が進んでいくのかは興味深いところだ。

 

ジョブ型雇用における人材育成の必要性

ジョブ型雇用が広まれば、人材の流動性が高まるので、人材投資をする意味があるのかという議論も出てくるだろう。しかし、ジョブ型雇用が一般化している欧米の企業では、むしろ職場としての魅力を高め、人材競争力を高めるために育成に力を入れている現状がある。GEやP&Gといったグローバル企業は、豊富な育成機会を提供することで、国内外の優秀人材を惹きつけている。ジョブ型雇用における人材育成は、人材のパフォーマンス向上やリテンションを目的にするだけでなく、企業のブランディングの一環としても検討されるべきだろう。

著者
盛田 智也

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